債権回収

【売掛金回収を徹底解説】売掛金を早期かつ強制的に回収する方法―支払督促編

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 取引先が、あなたの会社に対して支払義務があること自体は認めているものの、手元資金に余裕がないなどの理由で、支払に応じない事態は会社を経営していれば必ず遭遇します。しかし、そのような事態を座視することは、いつまでも回収できない不良債権を抱えることになり好ましくありませんし、言うまでもなく、回収できないことによる経済的な不利益は無視できません。

 支払わない相手から強制的に回収する方法としては、裁判所に訴訟を提起し、判決をもらって強制執行をするということがまず頭に浮かびます。
 しかし、訴訟を提起して強制執行までもっていくには、通常は、費用も期間もかかります。回収できていない取引先が1社であれば訴訟提起をすることでも大きな負担にはならないかもしれませんが、1社ごとの売掛金額がそれほど多額でない一方で、未回収の売掛先が多数あるような場合(顧客が消費者で、多数いるような場合)などは、これらすべてについて訴訟提起をすることは、費用倒れとなる可能性もあり、現実的ではない場合が多いでしょう。

 そこで、裁判所(書記官)を介した手続きではあるものの、訴訟の提起とは異なり、短期間で、簡易な書面の郵送のみで判決と同様の効力、すなわち相手方に対して強制執行をすることができる方法として支払督促というものがあります。この記事では、支払督促の制度の概要とともに、どのような場合に支払督促を利用すべきか、また、支払督促の具体的な手続についてご説明にします。

1、支払督促の利用にはどのようなメリットがあるか?

 売掛先が支払いをしない場合、【売掛金の回収を徹底解説】売掛金を確実に回収する方法-交渉編においても解説をしておりますが、まずは、回収可能性を調査した上で、売掛先と公正証書の作成について交渉をすることが基本です。公正証書を作成する目的は、約束した期日に支払われない場合に、直ちに、強制執行(資産の差押)をすることを可能にするためでした。

 しかし、公正証書の作成に応じない場合、支払義務があること自体は認めていても、強制執行をすることはできません。強制執行をするためには、確定判決や公正証書が必要とされているためです(民事執行法221号及び4号。確定判決のように、強制執行をするために必要なものを「債務名義」と呼びます。)。

民事執行法22条 強制執行は、次に掲げるもの(以下「債務名義」という。)により行う。
確定判決
仮執行の宣言を付した支払督促
金銭の一定の額の支払又はその他の代替物若しくは有価証券の一定の数量の給付を目的とする請求について公証人が作成した公正証書で、債務者が直ちに強制執行に服する旨の陳述が記載されているもの(以下「執行証書」という。)

 民事執行法224号は、「仮執行の宣言を付した支払督促」と定めているとおり、支払督促を利用すれば、確定判決や公正証書がなくても、強制執行をすることができるのです。支払督促は、お金の支払いを請求するものであれば、金額の下限・上限はありません。

 しかも、この支払督促には、次のようなメリットがあります。

  1. 単純に請求書や内容証明郵便を送付するよりも、裁判所(書記官)を介した手続きであるため、相手方にかかるプレッシャーが強く、支払督促申立後に任意の支払がなされることも期待できる
  2. 公正証書と異なり、支払督促は、手続の利用に売掛先の協力が不要で、あなたの会社の一存で強制執行まで進める
  3. 訴訟の場合、判決を得るのに、期間がかかる(通常は、1年近くかかります)のに対して、支払督促の場合、早ければ申立てから2か月以内に強制執行に着手できる可能性がある
  4. 訴訟の場合、判決を得るためには、証拠等の精緻な準備作業が必要なことに加え、弁護士費用等のコストもかさむ一方、支払督促の場合、極めて簡易であり短期間での申立てができ、かつコストも抑えることができる(相手方が争わなければ裁判所に出頭することも不要)

2、支払督促はどういう場合に利用すべきか?

 まず、次の3-2-2にて説明するとおり、支払督促を申し立てても、相手方(売掛先)が異議を出せば、通常の訴訟手続に移行することになります。これは、支払督促が極めて簡易な手続であり、相手方に反論の機会が与えられていないため、異議がある場合には、相手方が十分に反論できるよう訴訟で決着をつけるのが望ましいと考えられているからです。

 そうすると、交渉の過程で、相手方が支払義務を争っている場合には、支払督促をしても、通常の訴訟に移行する可能性が高いと言えます。そうであれば、最初から通常の訴訟を提起する方が合理的ということになります。したがって、相手方が支払義務を認めてはいるが、何らかの理由をつけて任意に支払わないような場合に、支払督促を利用すべきということになります。

 また、支払督促は極めて簡易で迅速な手続きであるため、多数の未収売掛金があり、いずれも定型的な内容である場合(例えば、不動産管理会社において、多数の賃料未回収先があるような場合や、ウェブサイト運営会社において、多数のウェブサイト登録会費の未収先があるような場合)も支払督促の利用に適しているでしょう。定型的な内容の場合には、複数の相手方がいる場合であっても、大きな手間をかけることなく、短期間にまとめて処理をすることが可能であるためです。

 以降では、支払督促の具体的な利用方法及び手続の流れについて解説をします。

3、支払督促申立の方法、申立後の流れ

3-1 支払督促の申立てまで

3-1-1 支払督促申立書の作成

 まずは、支払督促申立書を作成しますが、これについては、以下の裁判所のウェブサイトで申立書の雛形を入手できます。これをダウンロードして利用し、同様の書式を作成して進めましょう。【裁判所ウェブサイト】

 この書式は、1枚目から順に、「支払督促申立書」、「当事者目録」、「請求の趣旨及び原因」となっていますが、「支払督促申立書」「当事者目録」は定型的な記載ですので、裁判所の書式の注記・記載方法を確認すれば容易に作成することが可能です。

 以下では、何を請求するかにより記載すべき事項が異なるため、迷うことが多い「請求の趣旨及び原因」のうち、「請求の原因」に関する記載方法をまとめましたので参考にしてください。ここでは、売掛金、ウェブサイトの登録料をそれぞれ請求をする場合について紹介しています(不動産の賃料については、裁判所の書式の記載例を参考にしてください。)。以下の記載内容をみれば、訴訟における訴状や準備書面のような記載が要求されていない簡易なものであることがお分かりいただけると思います。

“商品を売ったことによる売掛金を請求する場合”

  • 以下のとおり、当事者、契約締結日、売買の目的物(商品)、代金を具体的に特定して記載することがポイントです。
  • 1 売買契約の内容
     平成●年●月●日、債権者は債務者に対して以下の目的物を合計金●円で売却した。
     (売買の目的物)●●(品番●●) 1個
    2 未払代金
     合計額:金●円 

“ウェブサイトの登録料を請求する場合”

  • 以下のとおり、この場合も、当事者、契約締結日(登録日)、サイトの名称、サイトの月額登録料金、登録期間を具体的に特定して記載することがポイントです。
  • 1 ウェブサイト利用に関する契約の内容
     平成●年●月●日、債務者は、債権者の運営する以下のウェブサイトに登録をし、以下のとおり、同ウェブサイトの利用規約に基づく利用契約が成立した。
     (1)ウェブサイトの名称:●●(URL:●●)
     (2)月額登録料金:●円(毎月●日に翌月分支払)
     (3)登録期間:平成●年●月●日~平成●年●月●日
    2 未払代金
     合計額:金●円(平成●年●月●日~平成●年●月●日分)

3-1-2 支払督促申立の費用

 支払督促申立書には、請求金額に応じた印紙を貼る必要があります。必要な印紙の金額については、以下の裁判所ウェブサイトからダウンロードできる手数料早見表をご確認ください。手数料早見表のうち、「訴額等」というのが請求金額であり、例えば、150万円の売掛金を請求する支払督促を申し立てる場合であれば、6500円の印紙が必要となります。【裁判所ウェブサイト

 また、これとは別に、郵券(切手)を同封する必要がありますが、具体的な金額については申立てを行う管轄の裁判所ごとにお問い合わせ頂いたほうがよいでしょう。

3-1-3 添付書類

 あなたの会社の資格証明書(登記事項証明書)1通に加え、相手方(債務者)も法人である場合には、同様に相手方の資格証明書(登記事項証明書)1通も必要となりますので、最寄りの法務局にて入手する必要があります。
 また、弁護士に委任して手続を進める場合には、委任状も必要となります。

3-1-4 支払督促の申立て(申立書の提出先)

 相手方(債務者)の住所(法人の場合は登記事項証明書記載の本店所在地)を管轄する、簡易裁判所の裁判所書記官宛に行います(民事訴訟法383条)。郵送でも持参でも可能です。どの裁判所が管轄を有するかについては、こちらも、以下の裁判所ウェブサイトにて確認ができます。【裁判所ウェブサイト

3-2 支払督促申立後の流れ

3-2-1 支払督促の送達

 支払督促申立書を受け取った管轄裁判所の書記官が、これを審査し、相手方(債務者)に対して支払督促を送達します。書記官が発付・送達をする際、相手方(債務者)を呼び出して話を聞いたりすること(「審尋」と呼びます。)はなく、単純に書面のやり取りのみとなります(民事訴訟法3861項)。

民事訴訟法386条1項 支払督促は、債務者を審尋しないで発する。

3-2-2 仮執行宣言を得るまで

 支払督促を申し立てた後、裁判所から「仮執行宣言」というものを得て初めて、強制執行が可能になります。そこまでの流れは、次のとおりです。仮執行宣言の申立てを行うための、仮執行宣言申立書についても、支払督促申立書の項(3-1-1)でご紹介した裁判所のウェブサイトからダウンロードをすることができます。

  • 1 相手方(債務者)が、支払督促を受け取ってから2週間が経過した後30日以内に、同じく簡易裁判所の書記官宛に仮執行宣言の申立てを行う(民事訴訟法391条1項、392条)
  • 2 裁判所書記官が、内容を審査したうえで、支払督促に仮執行宣言を付し、仮執行宣言付の支払督促を相手方に送達する(民事訴訟法3912項)
  • *ただし、相手方が、1の支払督促を受け取ってから2週間以内に異議を立てた場合、支払督促は効力を失い、通常の訴訟に移行して審理がされることになるため(民事訴訟法395条)、仮執行宣言付支払督促を取得することはできません。

民事訴訟法391条1項 債務者が支払督促の送達を受けた日から二週間以内に督促異議の申立てをしないときは、裁判所書記官は、債権者の申立てにより、支払督促に手続の費用額を付記して仮執行の宣言をしなければならない。ただし、その宣言前に督促異議の申立てがあったときは、この限りでない。
民事訴訟法391条2項 仮執行の宣言は、支払督促に記載し、これを当事者に送達しなければならない。ただし、債権者の同意があるときは、当該債権者に対しては、当該記載をした支払督促を送付することをもって、送達に代えることができる。
民事訴訟法395条 適法な督促異議の申立てがあったときは、督促異議に係る請求については、その目的の価額に従い、支払督促の申立ての時に、支払督促を発した裁判所書記官の所属する簡易裁判所又はその所在地を管轄する地方裁判所に訴えの提起があったものとみなす。この場合においては、督促手続の費用は、訴訟費用の一部とする。

3-2-3 仮執行宣言を得たあと

 仮執行宣言が付されると、直ちに、強制執行をすることができます(民事執行法224号)。
 ただし、相手方は、仮執行宣言付支払督促を受け取ってから、2週間以内であれば、ここでも異議を申し立てることができます(民事訴訟法393条)。この場合、あなたの会社が既に強制執行に着手していたとしても、相手方は、強制執行を停止することが可能となります。また、上記と同様に、このような異議の申し立てがなされれば、支払督促の手続は通常の訴訟に移行して審理されることになります。

民事訴訟法393条 仮執行の宣言を付した支払督促の送達を受けた日から二週間の不変期間を経過したときは、債務者は、その支払督促に対し、督促異議の申立てをすることができない。 

 

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