労務

問題社員への対処法~事後対応編~

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 「問題社員」と聞いて、あなたはどのような社員をイメージされますか。

 代表的な例としてのセクハラやパワハラのほか、頻繁に遅刻・無断欠勤を繰り返す、SNS上で会社の誹謗中傷を行う、就業時間中にネットサーフィンしている、会社のPCを使用して私的なメールや不正行為を行う・・・など、多様な「問題社員」像が挙げられると思います。

 特に近年では、職場での問題行動を撮影した動画をSNSにアップして炎上し、ニュース報道などで取り上げられるといったケースも後を絶ちません(いわゆる「バカッター」問題)。

 このような問題社員の存在は、会社に様々な悪影響を及ぼしてしまいます。

(例)

・遅刻欠勤を繰り返す →周囲の社員の士気が下がり、風紀を乱す

・過度な権利主張 →他の社員も同じような取扱いを求めるようになる

・注意や指導に上長の時間労力が奪われる →経済的損失、機会的損失

・取引先や関係者への影響 →社員教育が不十分との風評につながる

 このような問題社員に対して、会社はどのように対処すべきかにつき、「事前予防編」(https://houmu-bu.com/problem-employee-1186)と「事後対応編」(本稿)に分けて解説したいと思います。

1 レベルに応じた処分

 就業規則違反など、社員が問題行動を起こした場合の対処法としては、当該行為が軽微なものであった場合には注意指導や警告にとどめることもありますが、重大な問題である場合や、同様の問題行動が繰り返される場合には、戒告や減給、場合によっては懲戒解雇までを含む懲戒処分を検討することとなります。

 この場合の処分のレベル(段階)としては、概ね次のように整理できます。

労働契約の解消を前提

懲戒解雇

重大な企業秩序違反者に対する制裁罰としての解雇

諭旨解雇

懲戒解雇を多少軽減した処分

諭旨退職

退職願などの提出を促し、即時退職を求める処分

労働契約の継続を前提

出勤停止

制裁として労働者の就労を一定期間禁止する処分

減給

制裁として、その賃金から一定額を差引く処分

譴責

始末書を提出させて将来を戒める処分

戒告

始末書の提出を伴わずに将来を戒める処分

2 軽微な処分

 多少の遅刻や無断欠席、故意ではなく不注意によるミスなど、比較的軽微な問題に対しては、いきなり懲戒処分を行うのではなく、まずは上長からの注意指導や、会社としての警告を行うことで本人の反省を促すことで改善を図ることが相当です。

 もっとも、その後も改善が見られず、いざ懲戒処分を行おうとした場合には、それまでにも警告等を繰り返してきたことを証拠として残しておかなければ、懲戒処分自体の向こうが争われることになりかねません。

 そのため、例えば、注意指導などは口頭で行ったうえで、メールなどにより形に残しておくことが望ましいといえます。

 また、会社として正式に警告や業務改善命令を行う場合には、警告書等の書面を交付することが大切です。証拠を残すことができる上、対象社員自身としてもより事態を深刻に受け止めさせることで自主的な改善を促すことにもつながります。

 注意書、警告書のサンプルも併せてご参照ください(資料1、2)。

  資料1(注意書のサンプル)

  資料2(警告書のサンプル)

3 懲戒処分

3-1 主な懲戒処分の例

 一般的な会社において採用されている処分としては、概ね次のものが挙げられます。下に行くほどに、重大な処分となります。

  • 注意指導、警告
  • 業務改善命令
  • 戒告、譴責
  • 減給
  • 出勤禁止
  • 降格、降職
  • 普通解雇、退職勧奨
  • 懲戒解雇

3-2 懲戒処分の要件

 懲戒処分を行う場合の要件としては、①懲戒処分の根拠規定の存在、②懲戒事由に該当する事実の存在、③処分の相当性の3点が要件となります。

(1) ①懲戒処分の根拠規定の存在

 最高裁判所平成15年10月10日判決は、次のとおり判示しています。

最高裁判所平成15年10月10日判決(最高裁判所裁判集民事211号1頁)

使用者が労働者を懲戒するには,あらかじめ就業規則において懲戒の種別及び事由を定めておくことを要する。そして,就業規則が法的規範としての性質を有するものとして,拘束力を生ずるためには,その内容を適用を受ける事業場の労働者に周知させる手続が採られていることを要するものというべきである。 

 すなわち、懲戒処分の根拠規定が存在すると言えるためには、単に懲戒処分の根拠が就業規則に定められているだけでは足りず、事業場の労働者に周知させる手続が採られていることや、当該処分の対象となる行為が行われた時点において処罰規定が定められていることが必要であるとされています(事後的に処罰規定を定めて処分することが禁止されることから、「遡及処罰の禁止」と呼ばれています。)。

(2) ②懲戒事由に該当する事実の存在

 社員による問題行動が懲戒処分に該当するか否かの判断にあたっては、「客観的に合理的な理由」の存在が必要となります(労働契約法第15条)。

労働契約法第15条(懲戒)

使用者が労働者を懲戒することができる場合において、当該懲戒が、当該懲戒に係る労働者の行為の性質及び態様その他の事情に照らして、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合は、その権利を濫用したものとして、当該懲戒は、無効とする。

 仮に、会社が行った懲戒処分の有効性が、事後的に裁判で争われることとなった場合、懲戒事由は限定的に解釈される傾向があることから、個別の事案について、非違行為の内容・程度を吟味することが不可欠となります。

 また、裁判では、懲戒処分の対象行為が存在したことの立証責任は会社が負うこととなるため、客観的な証拠に基づいた事実認定が重要となります

 加えて、一度行った懲戒処分について、懲戒事由を事後に追加することはできないこととされている点にも注意が必要です(最判H8.9.26・山口観光事件)。

最高裁判所平成8年9月26日判決(最高裁判所裁判集民事180号473頁)

懲戒当時に使用者が認識していなかった非違行為は、特段の事情のない限り、当該懲戒の理由とされたものでないことが明らかであるから、その存在をもって当該懲戒の有効性を根拠付けることはできないものというべきである。

(3) ③処分の相当性

 社員の問題行動が客観的な証拠に基づき確認され、いざ懲戒処分を行う場合にも、当該処分が「社会通念上相当」なものであることが必要となりますので(労働契約法第15条)、どの程度の処分が相当であるかについても、慎重に検討する必要があります。

 具体的には、懲戒事由と懲戒処分の重さのバランス同種事案における過去の処分例との均衡に加え、適正な手続き(懲罰委員会の開催、弁明の機会付与等)を経てなされた処分であるかなどを考慮して判断されることとなります。

 参考として、人事院が定める懲戒処分の指針を資料として添付します(資料3)。公務員と企業の社員とでは必ずしも同じ基準が妥当するものではありませんが、1つの指標としてご参照いただければと思います。

資料3(人事院「懲戒処分の指針について」(抜粋))

3-3 各種懲戒処分の注意点

 具体的な懲戒処分を行う際には、特に次の点に注意が必要となります。

(1) 減給(労働基準法91条)

労働基準法第91条 (制裁規定の制限)

就業規則で、労働者に対して減給の制裁を定める場合においては、その減給は、一回の額が平均賃金の一日分の半額を超え、総額が一賃金支払期における賃金の総額の十分の一を超えてはならない。

 1回の懲戒事案に対しての減給額は平均賃金の1日分の2分の1以下でなければならないほか、総額が一賃金支払期における賃金総額の10分の1を超えてはならないこととされています。

 ここで、ニュースなどで報道される公務員の減給や会社役員の減俸では、より高額の減給・減俸が行われているではないかと思われる方もいらっしゃるかもしれません。

 しかし、雇用関係においては、労働基準法が適用されるため、上記のような限定的な範囲でしか減給は行えないことに注意が必要となります。

(2) 出勤停止

 一般的に、出勤停止を命じる場合の期間は、7日~14日間とされることが多いようです(「懲戒制度に関する実態調査」労政時報)。

 なお、出勤停止期間中は、給与支払義務がありません。

(3) チェックシートの活用

 その他の注意すべき点をまとめたチェックシートが、資料4です。

 具体的に懲戒処分を検討される際には、ご活用ください。

  資料4(懲戒処分チェックシート)

4 解雇・退職勧奨

4-1 懲戒解雇

 どうしても職場にいてもらっては困る社員については、懲戒解雇を行うことも考えられます。もっとも、解雇権濫用法理により解雇無効とされる可能性がある点に注意が必要です(労働契約法第16条)。

労働契約法第16条(解雇)

解雇は、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合は、その権利を濫用したものとして、無効とする。

 ここに「客観的に合理的な理由」とは、一般的に、次のいずれかに該当する場合を指します。

 ① 労務提供不能、労働能力又は適格性の喪失欠如

 ② 職場規律(企業秩序)違反

 ③ 整理解雇の4要素(ないし要件)を満たす場合

 ④ ユニオン・ショップ協定に基づく組合の解雇要求

 また、「社会通念上相当」といえるためには、概要、次の経過を経て行われていることが求められます。

 ① 求められる水準の明確化

 ② ①の水準を満たしていないことの記録化

 ③ ①②を踏まえた注意指導(口頭+書面)

 ④ 本人に対して改善策の提示や振り返りを書面で提出させる

 ⑤ 「改善がなければ解雇も含め対応する」旨を明示した最終警告(書面)

 ⑥ 退職勧奨

 このように、懲戒解雇を行う場合、後に裁判で争われた際のリスクに備え、予備的に普通解雇も付けておくことが望ましいと考えます

 なお、懲戒解雇の場合の退職金の支給状況については、およそ74.4%の会社で無支給とされています(「懲戒制度に関する実態調査」労政時報)。

 しかし、懲戒解雇が有効であることと、退職金没収が有効であることはイコールではないことから、注意が必要となります

4-2 退職勧奨

 退職勧奨時の注意点については、次の記事において詳細に説明しておりますので、是非、併せてご参照ください。

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