債権回収, 契約書

いざという時に取引先の株式を担保にとる方法【担保の実行まで徹底解説】

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 取引先等に対する未回収の売掛金があったり、新規に融資をする場合、【売掛金の回収を徹底解説】売掛金を確実に回収する方法-交渉編にて解説したとおり、これを確実に回収するためには、担保をとることも検討する必要があります。しかし、融資先は今後の発展拡大が見込めるものの、まだ事業を開始して間もない段階のため、不動産や大口の売掛金など、担保にとる資産がまだないという場合もあります。

 そのような場合であっても、株式会社である以上、創業メンバーは株式を有しているはずです。そこで、創業メンバーから株式を担保として提供してもらうという方法があります。この方法をとれば、融資の回収ができない場合などには、あなたの会社が株式を取得することができます。

 融資をして株式を担保にとる方法は、会社の株式を引き受けるのにも少し似ていますが、株式の発行・引受は手続に時間を要することがあります。株式質権設定契約書のひな型をベースに、簡易に株式を担保にとり、これを実行(株式を取得)するまでの実践的な方法を解説しますので、是非参考にしてください。

1、株式を担保にとるに際し、事前に確認しておくべき事項

 まず、担保にとろうとする株式を発行している会社(「対象会社」)に関して、株式保有者(会社の創業メンバーなどを想定。)を通じて、以下の点を確認しましょう。

“事前に確認しておくべき事項”

  • 決算書(申告書):詳細な株価算定までは実施しないにしても、対象会社の株式1株あたりにどの程度の価値があるのかを把握しておく
  • 会社の商業登記簿謄本(全部事項証明書・現在事項証明書):株式の譲渡に関して、対象会社ではどのような手続(取締役会決議、株主総会決議による承認等)が必要とされているか、また、現時点での発行済株式総数(何株を発行しているのか)、株券を発行しているのかどうかを確認しておく
  • 株主名簿:株式保有者が、何株保有しているかを、申告書の記載内容(「同族会社の判定に関する明細書」という項目)とあわせて確認する

2、株式に担保権を設定する契約書のひな型

 担保をとる方法、担保を実行する方法について、株式質権設定契約書ひな形を適宜参照しつつ解説をしていきます。ここで使用するひな形は、以下のような事案を前提としたものです。

  • あなたの会社が、対象会社(A社)に融資をする
  • あなたの会社が融資をするに当たって、A社の創業メンバーであり、主要な株主であるB氏が保有するA社の株式を担保にとる
  • 融資が返済されない場合、直ちに、担保を実行し、B氏が保有するA社株式をあなたの会社が取得したい(あなたの会社が、B氏に代わって、A社の株主となります)
  • A社は、株券を発行しておらず(株券不発行会社)、株式の譲渡に当たっては取締役会の承認決議を要すると定められている(これらは、商業登記簿謄本に記載されています)

3、株式を担保にとる方法(質権と譲渡担保権)

 株式を担保にとる手段としては、質権を設定する方法と譲渡担保権を設定する方法の2つがあります。

  質権とは、民法で定められた担保権の一種であり、株式に対する質権の設定は会社法に詳細な規定が設けられています。「質に入れる」という表現がありますが、株式を質権に設定してもらうということは、まさに、株式を質に入れてもらう(担保にとる)ということです。

 他方、譲渡担保権とは、民法や会社法には規定がないものの、株式を譲渡するという形式をとりつつ、実質的には、担保の目的で譲渡がなされるというものです(お金を返せば、譲渡した株式が戻ってくる。)。

 質権と譲渡担保権では、以下のとおり、①対象会社の議決権の行使、②担保権の実行方法などの点で細かい差異があります。ただ、実務的には質権を用いることが多いようにも思いますし、ひな形では、より解りやすい質権をベースとしています。

“質権と譲渡担保権との差異”

  • ①対象会社の議決権の行使
     質権の場合は、依然として株主(B)が対象会社の株主総会において議決権を行使できます。他方、譲渡担保権の場合、担保権者であるあなたの会社が対象会社の株主総会において議決権を行使することになります。
  • ②担保権の実行方法
     担保権の実行の点について、質権であれば、原則として民事執行法に定める手続に従う必要があるのに対して、譲渡担保権の場合には、契約書で定めた方法により実行をすることができます。
     ただ、質権であっても、会社間の取引で発生した債務を担保するために設定された質権の場合、民事執行法に定める手続を踏まずとも、債権の回収として、株式を簡易に取得できる合意をすることができます(商法515条、民法349条、ひな形においても、質権であるけれども、民事執行法の手続に従わず、簡易に実行ができる方法を定めています)。

商法515条 民法三百四十九条の規定は、商行為によって生じた債権を担保するために設定した質権については、適用しない。 

民法349条 質権設定者は、設定行為又は債務の弁済期前の契約において、質権者に弁済として質物の所有権を取得させ、その他法律に定める方法によらないで質物を処分させることを約することができない。 

4、株式に質権を設定するための具体的な手続(ひな形に沿って)

4-1 質権の設定(ひな形の1条)

 A社は、株券を発行していない会社です。このような株券を発行していない会社の場合は、当事者間(あなたの会社とB)で株式に質権を設定するという合意さえあれば、質権は有効に成立します。ひな形の1条が、質権を設定するという合意に当たります。
 他方、株券発行会社においては、このような合意をするのみならず、実際に、Bから株券を交付してもらう必要がある点に注意が必要です(会社法1461項、2項)。

 株券を発行する会社であってもそうでなくとも、ここでのポイントは、どのような債権(ひな形では、特定の金銭消費貸借契約に基づく一切の債権)を担保するために、誰が保有するどの株式何株に質権を設定するかを明確にするという点です。

会社法146条1項 株主は、その有する株式に質権を設定することができる。
      2項 株券発行会社の株式の質入れは、当該株式に係る株券を交付しなければ、その効力を生じない。

4-2 対抗要件の具備(ひな形の2条2項)

 株式質権の対抗要件とは、株式に対して質権を設定したことを、当時者(あなたの会社とB)の間だけではなく、対象会社と第三者に対しても法的に主張できるという点です。端的に言うと、対抗要件を備えていなければ、担保権としての効力は極めて弱いことになります。

 株券を発行していない会社の場合、この対抗要件を具備するためには、対象会社(B社)の株主名簿に、質権者であるあなたの会社の名称と住所を記載することが必要です(会社法1471項。ひな形では22項が対抗要件の具備に関する規定です。
 他方、株券を発行している会社の場合、株券を交付してもらうだけで、対抗要件の具備も完了します(会社法1472項)。

会社法147条1項 株式の質入れは、その質権者の氏名又は名称及び住所を株主名簿に記載し、又は記録しなければ、株式会社その他の第三者に対抗することができない。 
      2項 前項の規定にかかわらず、株券発行会社の株式の質権者は、継続して当該株式に係る株券を占有しなければ、その質権をもって株券発行会社その他の第三者に対抗することができない。 

4-3 譲渡制限株式の場合(ひな形の2条1項)

 B社と同様、多くの会社においては、発行する株式のすべてについて、株式の譲渡をする場合には取締役会等の承認が必要であると定めています(株式譲渡制限。会社法10711号)。株式譲渡制限がある場合には、定められた承認手続を経なければ、有効に株式を譲渡(取得)することはできません

 株式に質権を設定することは、株式の譲渡とは異なります。すなわち、質権を実行して、あなたの会社が対象会社の株式を取得しようという段階になって初めて、「譲渡」として、取締役会の承認決議があれば足り、必ずしも、株式質権設定契約の時点では、取締役会等の承認を経ておく必要はありません

 しかし、いざ、質権を実行しようという段階になって、対象会社が、譲渡承認決議を速やかに行ってくれない(あるいは、譲渡承認をしない)というリスクがあります。そこで、ひな形の21項では、「株式質権が実行されることを停止条件とした株式の譲渡」について、取締役会の承認決議を得るという内容にしています。これにより、質権を実行した時点で、株式譲渡の効力が生じ、譲渡承認があったことになるので、再度の譲渡承認決議は不要となります(*Bが対象会社A社の取締役である場合、この取締役会決議の議事録には少し留意が必要です*)。

 なお、譲渡担保権の場合には、質権と異なり、株式譲渡担保権設定契約を締結した時点で、株式譲渡の承認を受ける必要があります。

【取締役Bが保有する株式に質権を設定する場合の留意点 ~特別利害関係人~】
 BがA社の取締役の地位にあるとして、あなたの会社が、Bの保有している株式を担保にとる場合、ひな形の2条1項では、質権設定時に、A社の取締役会決議の承認を要求していました。
 この場合、A社の取締役会決議において、Bは特別利害関係人に該当するため、決議に加わることはできません(会社法369条2項)。
 A社の取締役会議事録においては、「Bが特別利害関係人であるため、決議に加わらなかった」と明記してもらう必要があります。

4、株式への担保権を実行する方法

4-1 通常の場合(株主名簿の書換を請求する)

 ひな形の事例では、A社が約束通りにあなたの会社に返済をしなかった場合、あなたの会社は質権を実行することができます。
 3にて述べたとおり、会社間の取引で発生した債務を担保するために設定された質権の場合、民事執行法の定める諸手続によらず、簡易に質権を実行し、あなたの会社がA社の株式を取得することができると定めることができます。ひな形の3条は、これを定めるものです。

 質権を実行をした場合には、対象会社A社に対して、株主名簿の書換請求をすることになります。書換請求に当たっては、概要、以下の事項を書面により通知します。株主名簿の書換が完了すれば、あなたの会社は、Bから有効に株式を取得し、株主となったことを対象会社A社に対して主張できるようになります。

  • Bとの間で締結したA社株式●株についての質権設定契約に基づき、あなたの会社が、質権を実行したことにより当該株式を取得したこと
  • この株式の譲渡については、A社の取締役会決議により平成●年●月●日に承認されていること
  • この株式●株について、あなたの会社が株主であり、その名称及び住所を株主名簿に記載すべきこと

4-2 株主名簿の書換請求に対象会社A社が応じない場合

 A社が、株主名簿の書換に応じなければ、あなたの会社は、A社の株主であることをA社に対して主張できないことになります。
 この場合、A社は、Bからあなたの会社に株式が譲渡されることについて承認をしたにもかかわらず、株主名簿の書換を不当に拒絶していることになります。

 A社による株主名簿書換の拒絶が、交渉により解決できない場合には、株主の地位を仮に定める仮処分(あなたの会社がA社の株主の地位にあることの確認を求める仮処分)等の裁判手続により、決着を図る必要があります。

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