会社法務

利用規約作成の留意点~マッチングサイトを例として~

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近年、全国の経営者の高齢化、後継者不足による企業買収、あるいは、スタートアップ企業の買収などが盛んに行われております。

それに伴い、会社を買いたい「買収希望企業」と、会社を売りたい「譲渡希望企業」をマッチングさせ、成功報酬などで収益を得るM&A仲介事業の成長が注目されています。

M&Aだけではなく、仕入先等の取引先を見つける会員制の法人ビジネスマッチングも盛んになっています。 

プラットフォームビジネスの一種であるマッチングサイトを利用または運営するにあたっては、マッチングサイト固有の問題に留意した規定を定めることが必要不可欠です。

例えば、サイト運営者は事業者間トラブルが発生した場合、何ら規定に手当てがなければ利用者から責任追及がなされる可能性があります。

したがって、サービス利用に先立って一定の事象が発生したとしてもサイト運営者は責任を負わない旨規定に明記する必要があります。

そこで、今回はM&Aのマッチングサービスに関する参考規定をベースとしてマッチングサイト運営にあたっての留意事項を解説します。

 

<サイト上の利用想定例>

A社が自身の事業または株式を売却したいため、本サイトを利用。サイト上に「東京を拠点とした飲食業者です。創業〇年です。売上は年〇億円です。自社(A社)の株式をお譲りします。」と会員制掲示板に記載し、それを見た同会員のB社がA社とコンタクトをとり、M&Aの交渉を開始する。

最終的に株式譲渡契約を締結し、A社またはB社(もしくは両方)がサイト運営者に成約手数料を支払う。

(本件において利用者は法人を想定し、サイト内で書き込まれる内容は原則として法人に関する情報で、個人情報が登録録等されることは想定していません。)

1 規定の建付け

規定の趣旨の1つとしては、運営者の責務を明示し、想定される事象が発生した場合どのような対応がとられるのか、想定されうる損害をどのように処理するか記載することがあげられます。

具体的には、運営者が提供するサービス内容、運営者の責務の内容、利用する上での禁止事項、システムトラブル等が発生した場合の損害の処理、急にサービスを中止した場合の処理等、サービスを提供する上で発生しうる場合の対応をできる限り漏れなく記載していく必要があります。

2 定義の重要性

マッチングサイトを運営するにあたっては、本サイトを利用することによる案件成約の対価として成功手数料を徴求するビジネスモデルにする以上は、何をもって「案件成約」とするかが非常に重要となります。

たとえば、案件成約=登録内容のニーズが実現したとき、と定義するとします

利用例では「自社(A社)の株式を譲ります」とマッチングサイトの掲示板に記載・登録していますが、実際のM&Aの交渉が始まり、結果として株式ではなく事業譲渡をした場合は「当初登録した案件ではないから手数料を支払う義務はない」と主張される可能性もあります。また、A社の子会社であるC社の株式譲渡がなされる可能性もあります。

そこで案件成約の定義は、当初の登録内容と異なる場合も考慮した記載が必要となります。

規定例においては、以下のとおり、記載し、最大限、広範にフォローできるようにしていますので参考にしてください。

「案件成約」とは、利用企業または当該利用企業の関係者が、他の利用企業または当該他の利用企業の関係者との間で、案件登録記載のM&Aその他経営権に関する一切の契約またはこれに準ずる契約(本サービスに起因または関連して成立しまたは成立することとなった契約を含みますが、これらに限られません。)が締結されたことをいいます(第1(2)①)。 

なお、そもそも「M&A」をどこまで想定しているかも問題となります(参考規定では、M&A=企業の株式譲渡、事業譲渡、株式分割、増資、合弁会社設立、合併・株式移転、株式交換、資本提携等としていますが、持分等の記載はしていません。また関係者という用語についても子会社を含めるなど適宜定義規定を用いて明確にする必要があります。)

 案件成約の定義を確定した場合、案件成約手数料については別途以下を定める必要があります。

  1. 手数料の額(例:取引額の〇%、一律〇〇万円)
  2. 支払う者(例:買い手のみ、売り手のみ、または両方)
  3. 支払義務を負う日(例:成約後、資金決済がされた時から〇日以内)
  4. 案件成約を確知するための方法(例:報告義務を買い手、売り手両方に課す、契約書の提出義務を課す)
  5. 案件成約直前になってサービスを解約し、サイト外で案件成約することで手数料支払いを免れる行為に対処すべく、都合解約後、一定期間内で案件成約しても手数料を支払う義務がある旨明記する(手数料支払いを不当に免れようとする行為への手当) 

3 非対面取引の特性の考慮

マッチングサイト利用にあたっては、顧客の利便性を重視して、紙による契約書を用いず、ウェブサイト上に規約を表示して、内容を理解させ、申込ボタンを押下して、運営サイドによる一定の審査を経て登録されたメールアドレス宛に承諾通知メールを送り、利用を可能とさせる方法を採用しているケースが多いかと思います。

その際、本サービスにあたってはどのように申込がなされるのか、どの時点でサービス利用に関する契約が成立するか規定に明記する必要があります。

規定例第2条において、申込についてはインターネット回線にて、運営者が要求する必要事項を記載した状態で申込を行い、運営者が申込を閲覧可能となった状態をもって申込があったものとしています。

そして、サイト運営者が承諾のメールを発信した時点で本契約が成立するという建付けにしております。

4 運営者の義務、利用企業の自己責任、不保証等

サイト運営者としては、マッチングサイトという場の提供をするのみで、個別の取引には関知しない、つまり利用企業間の取引は自己責任で行うというスタンスを明確にする必要があります。

6条にて、サイト運営者は利用企業間の交渉には関与せず、一切責任を負わない、助言等をする義務はないことを明記しています。 

また、サイト利用企業は、「きっとサイト運営者がある程度、優良かつ適法な企業を誘致しているだろう、登録内容も日頃チェックされていて正確な内容になっているだろう」と期待してサイトを利用している可能性があります。

  • ある売り手企業が登録した内容が虚偽であるにもかかわらず、それを見た買い手企業が当該内容を真実と信じてM&A交渉を開始し、クロージング直前で当該虚偽が発覚しM&A取引が頓挫して損害が生じた
  • クロージング後、売手企業の情報に虚偽があり損害が生じた

ことなどを理由に、サイト運営者に責任追及される可能性があります。

そこで、サイト運営者としては、登録内容の正確性を保証していないことや、このサービス提供は企業の信用力や業績を保証しているわけではないと明記する必要があります。

13(1)等に記載していますので参考にしてください。

なお、第4-1条にサイト運営者がFA業務になりうる場合を規定しています。なおFA業務に就任すると、利用企業のために忠実義務を負い、利益相反にならないような対応が求められることに留意してください。

5 免責規定

サイト運営者がマッチングビジネスを提供する際に起こりうる障害(システムリスク、通信障害、ウイルスに感染した場合、掲示板に書き込まれたリンク先のサイトからダウンロードした場合等)を記載し、サイト運営者の責めに帰すべき事由がなければ責任を一切負わない旨明記することが必要です。

13(2)等に記載していますので参考にしてください。 

6 禁止事項

通常の掲示板サイトでのルールで盛り込まれる禁止事項(誹謗中傷書き込みの禁止等)に加え、M&Aに関する情報がウェブサイト上に記載される特性上、原則として利用企業は当該情報をサイト外で利用することは禁止される建付けとすべきです。

また、他のM&A仲介業者が本サイトを利用して、自身が運営するサイトに誘致する可能性や、純投資目的でサイトを可能性があります。

そこで適切なマッチングサービス提供のため、サービス提供目的を明示し、かかる目的外での利用は禁止する旨規定で定める必要があります。

また掲示板上にインサイダー取引規制に抵触しうる情報も記載させない旨規定する必要があります。規定例はそもそも企業が特定できないような記載するようにしています。

7条等に上記手当をしていますので参考にしてください。 

7 その他

7-1 個人情報等

本件では、個人情報は取り扱わないことを前提としたマッチングサービスですが、仮に利用企業の会員情報に個人情報を登録させる場合は、個人情報保護法上の規制をうけることになるのでご留意ください。 

7-2 電気通信事業法等

規定とは直接関係しませんが、他人の通信を媒介する事業を行う場合、電気通信事業法上の電気通信事業者として登録または届出を行う必要があります。本マッチングサイト上に掲示板や、特定企業間のチャット機能を持たせる場合、電気通信事業法上の登録または届出が必要となる可能性があります。

不特定多数人が利用する掲示板サイトを運営する場合には、特定人の間のメッセージのやりとりに介在しているわけではない(掲示板内容を不特定多数人に向けて一方的に発信している)ので、他人の通信を媒介しているとはいえず、電気通信事業の登録または届出は不要であると解されています。

もっとも、本件のような会員制のマッチングサイトですと、不特定多数人へのメッセージのやりとりとは言いにくく、サイト運営者が当該システムを保有している場合、同様の整理ができない可能性(届出または登録が必要である可能性)があります。

クローズドなチャット機能は、通常特定企業間のメッセージのやりとりを行う機能であるため、まさに他人の通信を媒介しているとして電気通信事業法上の登録または届出が必要と解されています。

詳しくは総務省の「電気通信事業マニュアル[追補版]」を参考にしてください。

また、掲示板の記載内容が特定の企業の誹謗中傷となっている場合、削除要求の依頼をされたり、投稿者のIPアドレスを開示するよう請求される場合があります。かかる場合プロバイダー責任制限法を意識した対応も必要となります。 

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