会社法務

よく分かる!取締役の利益相反取引の基本ルール

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取締役が会社と自身の利益が相反する取引を会社に行わせることを利益相反取引といいます。

「利益が相反する取引」というと簡単に思えますが、会社法は直接取引と間接取引に分けて規定をしており、「具体的にどのような場面がこれに該当するのかがよく分からない」「利益相反取引に該当する場合にはどのような対応が必要となるのか」という相談を受けることが多くあります。

そこで、今回は、利益相反取引の基礎について、どこよりも分かりやすく解説します。

2021.12.21 更新

利益相反を行うにあたっての留意点については、以下の記事に記載をしていますので参考にしてください。

1 会社法の規定と趣旨

 

会社法は、利益相反取引について、次のとおり定めています。

会社法第356条(競業及び利益相反取引の制限)

取締役は、次に掲げる場合には、株主総会において、当該取引につき重要な事実を開示し、その承認を受けなければならない。

一 (略)

二 取締役が自己又は第三者のために株式会社と取引をしようとするとき。

三 株式会社が取締役の債務を保証することその他取締役以外の者との間において株式会社と当該取締役との利益が相反する取引をしようとするとき。

2 (略)

会社法第365条(競業及び取締役会設置会社との取引等の制限)

取締役会設置会社における第356条の規定の適用については、同条第1項中「株主総会」とあるのは、「取締役会」とする。

2 取締役会設置会社においては、第356条第1項各号の取引をした取締役は、当該取引後、遅滞なく、当該取引についての重要な事実を取締役会に報告しなければならない。

要するに、次の何れかに該当する場合には、株主総会の事前承認が必要となります(取締役会設置会社においては、取締役会に対する事前の重要事実開示と承認に加え、事後の重要事実報告も必要です。この点は後述します。)。

①直接取引(法356条1項2号)

 取締役が、自身や第三者(多くの場合、当該取締役の親族等)の利益を図るため、会社との間で契約を締結して取引を行う場合

②間接取引(法356条1項3号)

 会社が、取締役の利益を図るために、取締役以外の者との間で契約を締結して取引を行う場合

 

 これらの取引を制限する趣旨は、ひとことでいえば、「会社の業務を執行する取締役が、会社の利益を犠牲にして取締役自身や第三者の利益を図ることの防止」にあります。

 それでは、次に、直接取引と関節取引のそれぞれについて、具体的にはどのような場面がこれに該当するかについて説明します。

 

2 直接取引の具体例

2-1 典型例

 直接取引の最も典型的な例は、会社と取締役との間において、売買契約や賃貸借契約などを締結するケースです。

<ケース1>会社と取締役との間において売買契約が締結される場合

 このような売買取引を行おうとする場合、取締役Bは、「売買代金を通常よりも水増しして、自分の利益を増やそう」と考えてしまいかねません。これは、賃貸借契約の場合や(賃料を高く設定してしまう。)、請負契約の場合(請負代金を高額にしてしまう。)も同様です。

 そうすると、取締役が利益を得る一方で、会社としては無用に多額の代金を支払わされることとなってしまうことから、株主総会の承認を必要としたものです。

2-2 Bが他の者を代表・代理して契約する場合

 では、取締役B自身が契約の当事者となるのではなく、他の者(例えば、Bが取締役を務めるC社)との間で契約を締結する場合どうでしょうか。

<ケース2-1>会社と他の会社との間において売買契約が締結される場合

 この場合、売買契約の当事者はBではなくC社ですが、やはりBが「売買代金を通常よりも水増しして、C社(ひいてはその取締役であるB)の利益を増やそう」と考えることが想定されます。

 そこで、このような場合も、取締役が「第三者のために」(=第三者を契約当事者として)取引を行う場合には、直接取引にあたることとなります。

 もっとも、この契約の締結にあたり、BがA社やC社を代表しない場合(=B以外の取締役がA社やC社を代表する場合)には、直接取引には当たりません。

 ここに「代表する」とは、必ずしも代表取締役であることは必要ではなく、当該契約について、会社を代表するか否かで判断されます。語弊をおそれずに言うならば、契約書に「株式会社A 代表者 B」と表示されているか否かにより確認すると分かりやすいといえます。

 具体的には、次のように整理することができます。

契約書の署名捺印欄の記載

A社の承諾

C社の承諾

買主 株式会社A 代表者

売主 株式会社C 代表者

必要

必要

買主 株式会社A 代表者X

売主 株式会社C 代表者

必要

不要

買主 株式会社A 代表者

売主 株式会社C 代表者Y

不要

必要

買主 株式会社A 代表者X

売主 株式会社C 代表者Y

不要

不要

<ケース2-2>会社と他の個人との間において売買契約が締結される場合

 この場合、契約書には、「売主 D代理人 B」と記載されることとなりますが、この場合にも同様に、BがA社を代表しているケースでは、A社の承認が必要となります。

3 間接取引

 取締役自身が契約当事者となったり、第三者の代表者・代理人として契約を行ったりする場合でなくとも、取締役と会社の利益とが相反する場面は生じることから、これらは間接取引として、やはり会社の承認が必要とされています。

<ケース3>会社が取締役のために保証等を行う場合

 例えば、取締役個人の借金について、会社が債務を保証する場合債務引受を行う場合、会社の資産を担保として提供する場合などが間接取引にあたることには争いがありません。

 これらは、A社と債権者E社との間で締結される契約(保証契約や担保権設定契約)により行われる行為ではあるものの、取締役には保証・担保というメリットが生じる一方で、会社には保証債務や担保負担などのデメリットが生じているからです。

 もっとも、間接取引は、取締役自身が契約当事者となるものでも取締役が第三者を代表・代理して行うものでもないことから、「誰が契約を行っているか」を見ただけではその該当性が明らかとはなりません。

 そのため、取締役と会社の「利益が相反する」といえるかは、外形的・客観的に見て、会社にデメリットが生じ、これにより取締役にメリットが生じているかとの観点で判断されることとなります。

 

4 利益相反取引に該当する場合に必要となる対応

 利益相反取引は、会社にデメリットを生じさせるリスクがある一方で、例えば、会社の工場敷地として取締役個人が所有する土地が必要であるため賃貸借契約を結ぶ場合など、必要性のあるケースも一定数存在します。

 そこで、会社法は、利益相反取引を全面的に禁止するのではなく、会社の承認を必要とするルールを採用しました。

 承諾の手続きは、取締役会設置会社とそうでない会社とで異なります。

 

4-1 取締役会設置会社の場合

 この場合、利益相反行為を行おうとする取締役は、事前に、当該取引について重要な事実を取締役会に開示しなければなりません。

 上の賃貸借契約の例でいえば、契約の締結に先立って、その土地の使途目的や賃料、期間、保証金の額など、取締役会が承認するか否かの判断に必要となる情報の提供が必要となります。

 この重要事実の開示を受けて、取締役会は、当該取引の承認するか否かを決議します。

 その際、次の2点に注意が必要となります。

 

 ① 事前に重要な事実の開示がなされていれば、承認決議そのものは、当該取引が行われた後でも構いません

 ② 当該取引を行おうとする取締役は、特別利害関係を有するため、決議に参加することはできません(会社法369条2項)。

第369条(取締役会の決議)

取締役会の決議は、議決に加わることができる取締役の過半数(これを上回る割合を定款で定めた場合にあっては、その割合以上)が出席し、その過半数(これを上回る割合を定款で定めた場合にあっては、その割合以上)をもって行う。

2 前項の決議について特別の利害関係を有する取締役は、議決に加わることができない。

3以下(省略)

 

 また、利益相反取引を行った取締役は、当該取引の後遅滞なく、その重要な事実を取締役会に報告しなければなりません

 

4-2 取締役会設置会社でない場合

 この場合、利益相反行為を行おうとする取締役は、株主総会に対して、事前に重要事実を開示し、株主総会の承認を受けることが必要となります。

 利益相反取引を行おうとする取締役がこの会社の株主でもある場合、取締役会決議の場合と異なり、承認にかかる株主総会決議に参加することも可能です(但し、著しく不当な決議となった場合には決議取消原因となる可能性があります。)。

 また、取締役会設置会社とは異なり、事後の報告は不要とされています。

 

4-3 承認が不要とされる場合

 形式的には利益相反取引に該当する場合であっても、会社の利益を害する危険が明らかに存在しないようなケースでは、例外的に承認が不要とされています

(例)

・会社が取締役から無利息・無担保で金銭の貸付を受ける場合(最判昭和38.12.6)

・取締役が会社に対して負担のない贈与を行う場合

・取締役が一般顧客として会社の商品を購入する場合

 

 また、会社の承認があったものと実質的に同視しうるケースについても、承認は不要とされています。

  • (例)

    ・100%株主である取締役が会社との間で利益相反取引を行う場合(最判昭和45.8.20)

    ・利益相反取引を行うことについて、全株主の合意がある場合(最判昭和49.9.26)

5 承認を受けないままに行われた利益相反取引の効力

 利益相反取引について会社の承認がない場合の当該取引の有効性については、次のとおりに整理されます。

 ① 直接取引のうち取締役自身が当事者として締結された契約

  →会社は、無効を主張できる。

 ② 直接取引のうち、取締役が第三者を代表・代理して締結された契約や、間接取引の場合

  →会社は、契約の相手方が利益相反取引としての承認を受けていないことについて知っていたこと(或いは、知っていたと同視し得る程度の過失があったこと)を主張・立証できた場合に限り、当該契約相手に対して無効を主張できる。

 ③ 他方で、契約の相手方から会社に対して、契約の無効を主張することはできない(最判昭和48.12.11)

 

6 取締役の損害賠償責任

 利益相反取引によって会社に損害を生じさせた場合、会社の承認を受けていたと否とにかかわらず、取締役は任務懈怠責任として会社に対して損害を賠償する義務が生じます。

6-1 任務懈怠の推定

 利益相反取引を行った取締役に限らず、会社が利益相反取引をすることを決定した取締役、及び、利益相反取引に関する取締役会の承認の決議に賛成した取締役についても、任務を懈怠したものと推定されます(会社法423条3項)。

会社法423条(役員等の株式会社に対する損害賠償責任)

1~2 (省略)

3 第356条第一項第二号又は第三号(これらの規定を第四百十九条第二項において準用する場合を含む。)の取引によって株式会社に損害が生じたときは、次に掲げる取締役又は執行役は、その任務を怠ったものと推定する。

一 第356条第1項(第419条第2項において準用する場合を含む。)の取締役又は執行役

二 株式会社が当該取引をすることを決定した取締役又は執行役

三 当該取引に関する取締役会の承認の決議に賛成した取締役(指名委員会等設置会社においては、当該取引が指名委員会等設置会社と取締役との間の取引又は指名委員会等設置会社と取締役との利益が相反する取引である場合に限る。)

 

したがって、取締役会において承認決議に賛成しただけの取締役についても、自らの任務懈怠を覆す主張・立証ができない限り、会社に対する損害賠償義務を負うことには注意が必要です

 

6-2 自己のために直接取引を行った取締役の責任

 自らのために直接取引を行った取締役は、仮に、任務懈怠の責任が当該取締役になかった場合であっても、そのことをもって任務懈怠責任を免れないこととされています(会社法429条3項)。

 

会社法428条(取締役が自己のためにした取引に関する特則)

1 第356条第1項第2号(第四百十九条第二項において準用する場合を含む。)の取引(自己のためにした取引に限る。)をした取締役又は執行役の第四百二十三条第一項の責任は、任務を怠ったことが当該取締役又は執行役の責めに帰することができない事由によるものであることをもって免れることができない。

2 (省略)

 

 このように、利益相反取引に関わる取締役は重大な責任を負わされることから、利益相反取引を行う場合には、慎重な準備や判断が必要となります。

 

7 実際に利益相反取引を行う場合の留意点

 本記事の内容を踏まえ、実際に利益相反取引を行う場合の留意点については、次の記事をご参照ください。

取締役が利益相反取引を行う場合の留意点 完全ガイド

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