取締役が不正な行為を行っている場合や法令違反の行為をしている場合はもちろん、取締役として期待された能力を十分に持っていなかったり、職務怠慢があり、任期満了前であっても会社の取締役の地位から退いて欲しいという事態には、会社経営者であれば必ず遭遇します。
会社経営者としては、情に流され、特定の取締役を辞めさせることは避けたくても、会社を守るためにそのような決断をしなければならないケースもあります。会社から退いてもらうという方針が決まっているのであれば、即座に対処しなければなりません。
しかし、法的に適切な対応方法を知っておかなければ、長期間の訴訟・紛争に発展し、会社も取締役も共倒れになってしまうことすらあります。
経営者として会社を守るため、取締役の解任方法を巡る留意点について知っておくことが必要です。
本記事では、①会社が特定の取締役を解任する場合に、将来の紛争を防止し、紛争になったとしても有利な解決ができるようにするための具体的な対処方法ご紹介をします。ぜひ参考にしてください。
取締役を解任されそう、解任された場合の対処方法については、以下の記事を参考してください。
2021.12.23 最終更新
Contents
1 取締役の解任とはー退任、辞任の違い
- 取締役解任とは、会社により強制的に取締役を辞めさせることをいいます。
- 取締役の辞任とは、取締役の方から取締役自らの意思で辞めることをいいます。
- 取締役の退任とは、取締役の任期満了により取締役を辞めることをいいます。
辞めてもらいたい取締役自らが辞任するのであれば、取締役を解任する必要はありません。辞めてもらいたい取締役が辞任しない場合に、会社から強制的に取締役を辞めさせる方法が取締役の解任となります。
ただし、辞めてもらいたい取締役を解任するかどうかにおいては、まずはその取締役の任期を確認しましょう。会社は取締役を正当な理由なく解任をした場合、損害賠償リスクを負います。そのため、任期があとわずかの場合には、損害賠償請求リスクを負ってまで解任するよりも、任期満了まで待った方が得策の場合もあります。
取締役の任期は定款に記載されております。
例えば、こちらの定款のひな形をご覧下さい、
第18条で、「取締役の任期は、選任後2年以内に終了する事業年度のうち最終のものに関する定時株主総会の終結の時までとする。」とされています。第23条では、事業年度は、毎年4月1日から翌年3月末日までの年1期とするとされており、第12条1項で、当会社の定時株主総会は、毎年6月に招集するとされています。
したがって、この会社の場合、取締役の任期は選任されてから2年以内の6月に開催される定時総会までということになります。
取締役の任期があと数ヶ月しかないのであれば、取締役を解任するよりも、任期満了まで待つというのも1つの手段になります。
そのため、取締役を解任するどうかを検討するにあたって、取締役の任期を確認しましょう。
2 取締役を解任するにはどうすればよいか?
2-1 株主総会での決議が必要だが、取締役に非がなくても解任できる
2-1-1 株主総会の決議さえすればよい
取締役を解任する方法は、会社法に定めがあり、原則として、株主総会の決議をする必要があります(会社法339条1項)。
すなわち、50%を上回る議決権を有する株主が出席し、出席した株主の過半数が、取締役の解任に賛成すれば、取締役は解任されることになります。したがって、50%を超える会社の株式(議決権)をコントロールできるのであれば、取締役を解任することはできるのであり、その取締役の能力が不足しているとか、職務怠慢があったなどの理由は必要ではありません。
会社法339条1項 役員及び会計監査人は、いつでも、株主総会の決議によって解任することができる。会社法341条 第309条第1項の規定にかかわらず、役員を選任し、又は解任する株主総会の決議は、議決権を行使することができる株主の議決権の過半数(3分の1以上の割合を定款で定めた場合にあっては、その割合以上)を有する株主が出席し、出席した当該株主の議決権の過半数(これを上回る割合を定款で定めた場合にあっては、その割合以上)をもって行わなければならない。
2-1-2 「正当な理由」がないのに解任をすれば、会社が損害賠償責任を負う
しかし、会社法339条2項は、解任について、正当な理由がなければ、当該元取締役は会社に対して損害賠償請求をすることができると定めています。
会社法339条2項 解任された者は、その解任について正当な理由がある場合を除き、株式会社に対し、解任によって生じた損害の賠償を請求することができる。
- 心身の故障がある場合(最高裁昭和57年1月21日判決)
- 法令、定款違反の行為をした場合(例えば、①取締役会の承認なく競業行為を行ったり、会社から借入をした、②横領や背任により会社に損害を与えたような場合)
- 職務遂行能力を著しく欠くなど、職務への著しい不適任がある場合
- 経営判断の失敗
- 代表取締役や株主が、その取締役を気に入らない(折り合いが悪い)
- ほかに適任者がおり、その者を取締役に迎え入れるため、代わりに解任したい
2-2 株主総会で否決されても、解任の訴えにより解任することができる
しかし、取締役が不正行為をしていたにもかかわらず、これを解任するための株主総会決議で多数派工作に失敗し、解任議案が否決されてしまう場合もあり得ます。
そのような場合に備え、会社法は、多数派を形成できない株主であっても、不正行為をした取締役を放逐するための制度として、役員の解任の訴えというものを設けています(会社法854条1項)。
会社法854条1項 役員(第三百二十九条第一項に規定する役員をいう。以下この節において同じ。)の職務の執行に関し不正の行為又は法令若しくは定款に違反する重大な事実があったにもかかわらず、当該役員を解任する旨の議案が株主総会において否決されたとき又は当該役員を解任する旨の株主総会の決議が第三百二十三条の規定によりその効力を生じないときは、次に掲げる株主は、当該株主総会の日から三十日以内に、訴えをもって当該役員の解任を請求することができる。①総株主(次に掲げる株主を除く。)の議決権の百分の三(これを下回る割合を定款で定めた場合にあっては、その割合)以上の議決権を六箇月(これを下回る期間を定款で定めた場合にあっては、その期間)前から引き続き有する株主(次に掲げる株主を除く。)イ 当該役員を解任する旨の議案について議決権を行使することができない株主ロ 当該請求に係る役員である株主②発行済株式(次に掲げる株主の有する株式を除く。)の百分の三(これを下回る割合を定款で定めた場合にあっては、その割合)以上の数の株式を六箇月(これを下回る期間を定款で定めた場合にあっては、その期間)前から引き続き有する株主(次に掲げる株主を除く。)イ 当該株式会社である株主ロ 当該請求に係る役員である株主
- 取締役の職務執行に関して、不正行為、法令・定款違反の行為があったこと
- そうであるにもかかわらず、株主総会において、解任議案が否決されてしまったこと
- 解任の訴えを提起する者が、3%以上の議決権(株式)を保有していること
- 解任議案を否決した株主総会開催日から、30日以内に解任の訴えが提起されること
①株主総会の決議により、いつでも取締役を解任することができる
②ただし、解任に「正当な理由」がない場合には、元取締役は会社に対して損害賠償請求をすることができる
③株主総会決議で、取締役の解任が否決されても、解任の訴えという方法がある
3 50%を超える会社の株式(議決権)をコントロールできる場合の解任の進め方
3-1 自由に解任ができるが、解任は最後の手段。辞任を求めるのが原則
3-1-1 解任よりも、辞任の方が、圧倒的に会社のリスクは少ない
しかし、解任はあくまで最後の手段であり、まずは、当該取締役を説得して辞任を求めるのがよいでしょう。「解任」の場合には、会社の商業登記簿謄本にその旨が記載されてしまい、あまり見栄えがよくないということも理由の一つですが、それ以外にも、次のとおりですが、辞任と解任では、会社が後に紛争に巻き込まれるリスクの程度が大きく異なるのです。
- 解任の場合、当該取締役から、株主総会の解任決議の効力を訴訟(あるいは仮処分)で争われる可能性があること
- 解任の場合、解任の「正当な理由」がないとして、会社が損害賠償請求を受ける可能性があること
- 辞任であれば、取締役が自ら辞任届を作成した以上、これを後から覆すことは極めて困難であり、紛争になりにくいこと、また、紛争になっても会社に有利であること
3-1-2 解任ではなく辞任を求めるに当たっての交渉材料
- これまでの不正行為について、会社が刑事告発をしないこと
- 不正行為により会社が被った損害の賠償について、その一部を免除すること
- 当該取締役が株式を保有している場合に、通常よりも高めの金額で株式を買い取ること
- 解任の場合であれば、退職慰労金を不支給とするが、辞任に応じれば、一定の退職慰労金を支払うこと
3-1-3 辞任の場合に、忘れてはならないこと(辞任して終わり、ではない)
辞任届作成後は、当該取締役の辞任の登記をしておくことが不可欠です。
さらに、登記所に印鑑を提出した代表取締役又は取締役の辞任の登記を申請する場合は、辞任届に押印した印鑑について市町村長の作成した印鑑証明書を添付する必要があります(商業登記法61条8項)。但し、辞任届に押印された印鑑と当該代表取締役又は取締役が登記所に提出している印鑑とが同一であるときは、印鑑証明書の提出は不要です。
これに加えて、当該取締役が株式を保有していた場合には、他の取締役等が、これを買い取っておくべきでしょう。少数であっても、株式を保有している場合、株主として会社に対して色々な権利行使ができるため(取締役会議事録の閲覧・謄写請求(会社法371条2項)、株主総会の招集請求(会社法297条4項)など)、元取締役により、これらの権利が濫用されることを防ぐためです。
3-2 株主総会決議で解任をする場合、紛争を防止するため、会社法が定める手続に沿って進めることが重要
3-2-1 解任決議をした株主総会の手続に問題があると、会社にとってどんな危険があるか?
会社法831条1項 次の各号に掲げる場合には、株主等(当該各号の株主総会等が創立総会又は種類創立総会である場合にあっては、株主等、設立時株主、設立時取締役又は設立時監査役)は、株主総会等の決議の日から三箇月以内に、訴えをもって当該決議の取消しを請求することができる。当該決議の取消しにより株主(当該決議が創立総会の決議である場合にあっては、設立時株主)又は取締役(監査等委員会設置会社にあっては、監査等委員である取締役又はそれ以外の取締役。以下この項において同じ。)、監査役若しくは清算人(当該決議が株主総会又は種類株主総会の決議である場合にあっては第三百四十六条第一項(第四百七十九条第四項において準用する場合を含む。)の規定により取締役、監査役又は清算人としての権利義務を有する者を含み、当該決議が創立総会又は種類創立総会の決議である場合にあっては設立時取締役(設立しようとする株式会社が監査等委員会設置会社である場合にあっては、設立時監査等委員である設立時取締役又はそれ以外の設立時取締役)又は設立時監査役を含む。)となる者も、同様とする。①株主総会等の招集の手続又は決議の方法が法令若しくは定款に違反し、又は著しく不公正なとき。
解任された取締役が、株主総会決議取消しの訴えを提起して、勝訴判決を得れば、解任は無効となりますが、判決を得るまでには相当な期間がかかります。役員の地位を仮に定める仮処分とは、(判決で)株主総会決議が取り消される可能性が高いという場合に認められるもので、これが認められると、判決が出る前であっても、「仮に」その者が法的に取締役の地位にあるものとして扱われるということになります。
- 新取締役についての取締役の地位不存在確認の訴え
- 解任された取締役についての取締役の地位確認の訴え
- 取締役解任の株主総会決議取消しの訴え、不存在・無効確認の訴え
- 新取締役の取締役選任の株主総会決議取消しの訴え、不存在・無効確認の訴え
- 新代表取締役選定の取締役会決議の不存在・無効確認の訴え
次に、保全の必要性についてですが、被保全権利の存在が明白であり、かつ解任された取締役に損害が発生するとしても、会社に損害が発生しない以上、仮処分命令を発令することはできないと解されています(東京高決昭和52年11月8日判時878号100頁等参照)。したがって、解任された取締役としては、会社の信用が解任された取締役個人の信用に依存していること、新取締役に経営能力がないこと、新取締役が会社の財産を自己の利益のために費消するおそれがあること等を具体的に主張し、疎明することが必要になります。
解任決議をした株主総会に関して、「招集の手続」違反がある場合には、この仮処分が認められる可能性が相当に高くなります。これが認められてしまうと、解任しているはずの取締役が、「仮」とはいえ、取締役に復帰することになり、報酬請求権もあることになりますし、取締役会に出席して発言する権利(義務)も認められることになります。
ですから、会社としては、このような仮処分を避けるために、株主総会の手続をしっかり踏む必要があるのです。普段は株主総会を開催していなかったり、法定の手続を踏まずに開催しているような会社は多くありますが、このときばかりは、注意が必要です。
3-2-2 解任決議までの流れ(原則)
3-2-2-1 取締役会の決議による株主総会の招集決定
- 招集のタイミング:取締役会開催予定日の1週間前(会社法368条1項)(ただし、定款により「3日前」等としているような場合は、それに従えばよい。)
- 招集の方法:各取締役に対して、招集通知を発送する。招集通知は、口頭でもよいが、証拠を残すために、メールか書面が望ましい。
- 招集通知に記載すべき内容:取締役会の開催日時・場所(議題は記載しなくてもよい)
株主総会の招集を決定する取締役会では、以下の事項を決定する必要があります(会社法298条1項、325条)。
①株主総会の開催日時及び場所
②株主総会の目的事項(議題)
③株主総会に出席しない株主に書面又は電磁的方法による議決権行使を認める場合はその旨
④書面又は電磁的方法による議決権行使を認める場合は株主総会参考書類に記載すべき事項及び議決権行使書面に関する事項その他の法務省令で定める事項
取締役会設置会社でない場合は、取締役が上記①~④の事項を決定し、株主総会の招集を行います(会社法298条1項、325条)。
取締役が2人以上いる場合は、取締役の過半数で上記①~④の事項を決定します(会社法348条2項)。
3-2-2-2 取締役会の決議
普段、正式な取締役会を開催していない会社であっても、後から手続の正当性を争われないためには、実際に取締役会を開催する必要があります。
取締役会の決議は、議決に参加できる取締役の過半数が出席し、さらにその過半数の同意がある場合に有効に成立することになります(会社法369条1項)。
過半数の取締役の出席というのが重要ですが、遠方に出張中のために出席できない等の場合であっても、テレビ電話やWEB等での参加でも、出席と認められます(代理人による出席は認められません。)。
ここでの取締役会決議は、取締役の解任を議案とする株主総会の招集を決定する取締役会決議です。そうすると、解任対象の取締役は、この取締役会決議に特別の利害関係を有するといえ、この取締役会決議に参加して議決権を行使することができないようにも思えます。この点に関し、裁判例は、取締役の解任議案の株主総会への提出を決める取締役会決議について、当該取締役は特別利害関係を有すると解しています。したがって、解任対象の取締役には、取締役の解任議案の株主総会への提出を決める取締役会決議への参加及び議決権行使を認めない方が無難であるといえます。
招集手続が適法にされたことを証明するため、取締役会議事録を作成しておく必要があります(会社法369条3項)。取締役解任の株主総会招集を決議した議事録のひな形(取締役会議事録(株主総会招集))を用意しましたので、参考にしてください。
会社法369条1項 取締役会の決議は、議決に加わることができる取締役の過半数(これを上回る割合を定款で定めた場合にあっては、その割合以上)が出席し、その過半数(これを上回る割合を定款で定めた場合にあっては、その割合以上)をもって行う。会社法369条3項 取締役会の議事については、法務省令で定めるところにより、議事録を作成し、議事録が書面をもって作成されているときは、出席した取締役及び監査役は、これに署名し、又は記名押印しなければならない。
3-2-2-3 株主総会の招集
①株主総会の開催日時及び場所
②株主総会の目的事項(議題)
③株主総会に出席しない株主に書面又は電磁的方法による議決権行使を認める場合はその旨
④書面又は電磁的方法による議決権行使を認める場合は株主総会参考書類に記載すべき事項及び議決権行使書面に関する事項その他の法務省令で定める事項
なお、株主総会の招集通知の発送日と、株主総会の開催日の間は、7日以上空けなければならず(公開会社でない場合。会社法299条1項)、株主総会開催日の設定には注意が必要です。
会社法299条1項 株主総会を招集するには、取締役は、株主総会の日の二週間(前条第一項第三号又は第四号に掲げる事項を定めたときを除き、公開会社でない株式会社にあっては、一週間(当該株式会社が取締役会設置会社以外の株式会社である場合において、これを下回る期間を定款で定めた場合にあっては、その期間))前までに、株主に対してその通知を発しなければならない。会社法299条2項 次に掲げる場合には、前項の通知は、書面でしなければならない。①前条第一項第三号又は第四号に掲げる事項を定めた場合②株式会社が取締役会設置会社である場合
- 3月1日:取締役会の招集
- 3月5日:取締役会開催、株主総会招集通知発送
- 3月13日:株主総会開催
株主総会の招集時期、開催方法については、こちらに詳しく書いていますので、参考にしてください。
3-2-2-4 株主総会の決議
3-2-3 議決権の100%をコントロールできるのであれば、以上の手続の多くを省略できる
もっとも、議決権の100%をコントロールできる場合、例えば、創業者がすべての株式を保有しているような場合は、多くの手続を省略できます。
すなわち、このような場合には、実際に株主総会を開くまでもなく、書面の作成のみで決議があったものとみなす制度があります(みなし決議)。取締役又は株主が議案を提案し、それについて、株主の全員が書面で同意をすれば、当該提案は可決したものとみなされます(会社法319条1項)。
会社法319条1項 取締役又は株主が株主総会の目的である事項について提案をした場合において、当該提案につき株主(当該事項について議決権を行使することができるものに限る。)の全員が書面又は電磁的記録により同意の意思表示をしたときは、当該提案を可決する旨の株主総会の決議があったものとみなす。
3-3 取締役解任後の対応(取締役の責任追及)
3-3-1 取締役に対する解任通知の要否
取締役取締役の解任の効力が生じるためには、解任される取締役に対する通知が必要でしょうか?
取締役を解任する株主総会決議が成立するだけでは足りず、解任される取締役に対する通知があってはじめて解任の効力が生じるとする考え方もあります。しかしながら、取締役の解任について株主総会が最終的な意思決定を行った以上、更に通知まで要すると考える必要はないと思いますし、取締役の解任は解任される取締役の所在が不明であるといった事態において行われることがあることも踏まえると、解任決議の成立によって当然に解任の効力が生じると考えられます。
もっとも、解任の通知を行うことができる場合には、解任の通知を行っておくことが確実であるともいえます。
3-3-2 解任の登記
取締役の氏名は登記事項ですので(会社法911条3項13号、14号)、取締役が解任された場合は、会社は変更の登記を行う必要があります(会社法915条1項)。
3-3-3 解任された取締役に対する退職慰労金の支給
会社は、解任された取締役に対して退職慰労金を支給する必要はあるでしょうか?
正当な理由なく取締役を任期満了前に解任した場合には、会社は、解任された取締役に対して解任によって生じた損害を賠償しなければならないとされています(会社法339条2項)。そして、賠償すべき損害の範囲には、任期満了まで及び任期満了時に得られたであろう取締役としての報酬が含まれ、任期を満了した場合に受給していた可能性が高い賞与や退職慰労金についても損害賠償請求可能な損害に含まれると考えられています。
もっとも、任期満了時に受給していた可能性がどの程度存在する必要があるかについては、確立した考え方があるわけではなく、「退職慰労金に関する定めや慣行がない場合には退職慰労金を請求することはできない」とした裁判例があります(大阪高判昭和56年1月30日)。
したがって、退職慰労金に関する定めやそれまでの慣行を踏まえ、解任された取締役に対して退職慰労金を支給するかどうかを検討する必要があります。
3-3-4 使用人兼務取締役の場合
使用人兼務取締役とは、取締役でありながら、会社の使用人(従業員)としての地位も有し、従業員として職務に従事している人のことをいいます。
使用人兼務取締役については、委任契約に基づく取締役としての地位と、労働契約に基づく使用人の地位が併存していることから、取締役としての地位と従業員としての地位とを区別して考える必要があります。
具体的には、使用人兼務取締役は、取締役を解任されると取締役ではなくなりますが、会社の従業員としての地位は継続することになります。
したがって、会社は、その人を解雇しない限り、労働契約に基づいて従業員として給与を支払う必要があることになります。
その人を会社から辞めさせてた場合には、解雇をする必要があります。
4 50%を超える会社の株式(議決権)をコントロールすることが容易でない場合の解任の進め方
4-1 株主総会決議により解任するのではなく、解任の訴えにより、解任することを目指すことになる
そのため、この場合には、株主総会決議ではなく、解任の訴えを提起して、判決によって解任をするということが必要になってきます(会社法854条1項)。もっとも、解任の訴えを提起して判決を得るためには、先ほど述べたとおり、次の4つの要件をクリアする必要がありました。
- 取締役の職務執行に関して、不正行為、法令・定款違反の行為があったこと
- そうであるにもかかわらず、株主総会において、解任議案が否決されてしまったこと
- 解任の訴えを提起する者が、3%以上の議決権(株式)を保有していること
- 解任議案を否決した株主総会開催日から、30日以内に解任の訴えが提起されること
4-2 取締役会で株主総会の「招集」が決議されない場合もある
解任の訴えを提起できるのは、あくまで、取締役解任のために株主総会を開催したのに、解任の議案が否決されてしまうことが必要とされています。既に述べたように、株主総会を招集するには、原則として、取締役会で総会招集の決定を決議しなければなりません。しかし、取締役の多くが、解任対象の取締役をかばって、取締役会の決議を成立させることができず、株主総会の招集ができないこともあり得ます。
- 当該株主が、3%以上の株式(議決権)を有していること
- 6か月間継続して、3%以上の株式(議決権)を保有し続けていたこと(ただし、非公開会社(株式の譲渡制限をしている株式会社)においては、この6か月間継続保有の要件は不要(会社法297条2項))
会社法297条1項 総株主の議決権の百分の三(これを下回る割合を定款で定めた場合にあっては、その割合)以上の議決権を六箇月(これを下回る期間を定款で定めた場合にあっては、その期間)前から引き続き有する株主は、取締役に対し、株主総会の目的である事項(当該株主が議決権を行使することができる事項に限る。)及び招集の理由を示して、株主総会の招集を請求することができる。会社法297条2項 公開会社でない株式会社における前項の規定の適用については、同項中「六箇月(これを下回る期間を定款で定めた場合にあっては、その期間)前から引き続き有する」とあるのは、「有する」とする。会社法297条4項 次に掲げる場合には、第一項の規定による請求をした株主は、裁判所の許可を得て、株主総会を招集することができる。①第一項の規定による請求の後遅滞なく招集の手続が行われない場合②第一項の規定による請求があった日から八週間(これを下回る期間を定款で定めた場合にあっては、その期間)以内の日を株主総会の日とする株主総会の招集の通知が発せられない場合
4-3 解任の訴えの提起と、仮処分の申立て
しかし、解任の訴えで勝訴判決を得て初めて、解任の効力が生じることになりますので、判決までの間、解任対象の取締役が業務を執行し続けることになります。そこで、ここでも、判決が出るまでの「仮」の判断を求めるために、仮処分手続を利用するのが通常です。
仮処分とは、簡易な裁判のようなもので、早期に「仮」の判断を裁判所に仰ぐものであり、①通常の訴訟に比べて裁判所の判断を得るまでの期間が短い、②仮処分の審理の中で裁判所が仲介役となり和解による早期解決を図り得る可能性がある、とのメリットがあります。
他方で、仮処分の申立てでは、ほとんどのケースで裁判所から「担保」(裁判所に対して一定額の保証金を積むこと)の提供を命じられます(民事保全法14条1項)。さらに、職務停止の仮処分と同時に職務代行者選任の申立てを行う場合、職務代行者の報酬額のおよそ6か月分相当の報酬額の予納も必要となります。
そのため、金額はケースバイケースではあるものの、これらを合わせて数百万円単位の費用が必要となることが一般的です。
仮処分の審理においては、①被保全権利(保全命令によって保全されるべき権利)及び②保全の必要性(本案訴訟の確定判決を待っていては被保全権利の実現が困難又は事実上不可能になってしまう事情)を疎明しなければなりません(民事保全法13条1項・2項)。
特に、取締役の職務執行停止の仮処分の場合、仮処分命令が発令された場合の影響が大きいことから、当該仮処分命令が発令されるためには、被保全権利及び保全の必要性について、具体的に明確にするとともに、高い客観性をもって疎明することが求められます。
5 代表取締役を解任する場合の留意点
しかし、中小企業の場合には、代表取締役は、50%以上の株式を単独でコントロールできる場合がほとんどです。仮に、解任の訴えで勝訴したとしても、(元)代表取締役が株主総会において、株主としての権利を行使して、自身を取締役として選任することは当然可能ですし、根本的な解決にはなりません。
6 有限会社の場合
以上の説明は、株式会社において取締役の任期の定めを置いていることが前提になります。
有限会社の場合には、取締役の任期の定めを置く必要がないとされていました。
会社法の施行後、施行前の有限会社は「特例有限会社」として存続していますが、取締役の任期を置く定款変更を行わない限り、取締役の任期の定めがない会社と存続していることがほとんどです。
特例有限会社において、任期の定めのない取締役を解任した場合、会社法339条2項に基づく損害賠償請求ができるかどうかが議論になっていましたが、東京地判平成28年6月29日は、同条項の適用はなく、解任された取締役が損害賠償請求することはできないと判断しています。
したがって、特例有限会社において、取締役の任期の定めがない場合には、正当の理由があるかないかにかかわらず、取締役を解任しても、会社法上の損害賠償責任を負いませんので、会社としては、取締役を解任しやすい状況にあるといえます。
会社が、特例有限会社として存続しているかについては、会社の登記簿謄本に「有限会社」の記載があるかどうかで確認をすることができます。また、取締役の任期の定めがあるかどうかについては、定款を見れば確認することができます。
特例有限会社の場合には、これらの状況を確認のうえで、取締役を解任をするかどうかを検討しましょう。
会社法339条2項 解任された者は、その解任について正当な理由がある場合を除き、株式会社に対し、解任によって生じた損害の賠償を請求することができる。
東京地判平成28年6月29日
平成一七年法律第八七号による廃止前の有限会社法においては取締役の任期は定められておらず、定款上もこれを設けないことが許されていたところ、同法三二条が準用する、同号による改正前の商法二五七条一項ただし書は「任期ノ定アル場合ニ於テ正当ノ事由ナクシテ其ノ任期ノ満了前ニ之ヲ解任シタルトキハ其ノ取締役ハ会社ニ対シ解任ニ因リテ生ジタル損害ノ賠償ヲ請求スルコトヲ得」とし、取締役の任期の定めがある場合にのみ、解任された取締役は解任により生じた損害の賠償を請求し得るとしており、任期の定めがない場合には、取締役は、正当な理由なく解任されたとしても、同項ただし書に基づく損害賠償を請求することはできなかった。
同項を受け継いだ会社法三三九条二項には「任期ノ定アル場合ニ於テ」に相当する文言はないが、会社法の下では、取締役の任期は法律又は定款によって定められており、任期の定めが全くない場合は想定できないことから同文言は不要とされたものと考えられる。そして、会社法の施行により、同項の損害賠償責任の本質に変化が生じたという事情はないし、解任された取締役を有限会社法の下におけるよりも手厚く保護する実質的な理由は見当たらない。そうすると、特例有限会社における任期の定めのない取締役が解任されたとしても、当該取締役は、解任の正当な理由の有無にかかわらず、少なくとも会社法三三九条二項に基づく損害賠償請求をすることはできないと解するのが相当である。
7 まとめ
- 取締役を解任するためには、株主総会の決議さえあればよく、その場合には、特に解任のための正当な理由は求められない
- ただ、解任に正当な理由がない場合には、事後的に、取締役から損害賠償請求をされる可能性がある
- まずは、取締役に辞任をうながし、可能な限り、解任ではなく辞任で決着をつける
- 辞任の際には、株式を手放させるとともに、競業避止義務に関する合意書(誓約書)も同時に交わしておく
- 辞任に応じない場合には、株主総会の決議で解任することになるが、その際は、法律上の手続を遵守する
- 株主総会決議が否決された場合には、解任の訴えの提起と、仮処分の申立てを検討する