会社法務

【徹底ガイド】取締役を辞任する場合の3つの留意点

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取締役に就任したものの、取締役を辞任することになる場面に遭遇する場合があります。

取締役を辞任する場合、会社に辞任届を提出さえすれば、会社とは無関係となると考えている人も多いかもしれません。

確かに上場企業など、ガバナンスがしっかりした会社であれば、辞任届を提出すればきちんとした対応がなされますが、中小企業においては辞任をしたにもかかわらず、取締役の登記がそのまま残っているなどして、思わぬ紛争に巻き込まれてしまうことも少なくありません。

実際に、取締役の登記が残っていたばかりに、損害賠償請求訴訟の被告にされてしまったという相談を受けることもあります。

取締役を辞任するにあたり、少しのことを注意しておけば、紛争に巻き込まれることを未然に防ぐこともできます。

そこで、本記事では、取締役の辞任するにあたっての留意点を3つに分けて解説をします。

1 取締役を辞任する場合の留意点

1-1 いつでも辞任できるが損害賠償には注意

取締役と会社との関係は民法上の委任に関する規定に従うこととされており(330条)、取締役は、いつでも辞任により契約を解除することができます(民法651条1項)。

すなわち、取締役を辞めたいときは、いつでも辞任することができるということです。

会社が辞任を認めないと言っても、会社の承諾は不要です。いつでも辞任をすることができます。後述のとおり、辞任の登記がされるかは別問題です。

ただし、会社に不利な時期に辞任した取締役は損害賠償義務があることが規定されています(民法651条2項)。

いくら辞任が自由だと言っても、会社に損害を与えるような辞任はやめましょう、それでも辞任をしたというのであれば、会社に与えた損害は賠償しなさいというが法の趣旨となります。

例えば、代替ができない仕事を請け負っており、引き継ぎもしないで、取締役を辞任して、会社に損害を与えた場合などがこれに該当すると考えれます。

したがって、いくら辞任がいつでもできると言っても、そのタイミングについては、きちんと見極める必要があります。

 

会社法第330条 株式会社と役員及び会計監査人との関係は、委任に関する規定に従う。

民法第651条 委任は、各当事者がいつでもその解除をすることができる。

2 当事者の一方が相手方に不利な時期に委任の解除をしたときは、その当事者の一方は、相手方の損害を賠償しなければならない。ただし、やむを得ない事由があったときは、この限りでない。

なお、会社と契約をする際に辞任を制限する特約が付されている場合がありますが、このような特約は無効と判断された裁判例(大阪地裁昭和63年11月30日)があります。

ただし、辞任を制限する契約は無効であるとしても、辞任をした場合の違約金の定めについては、有効であるという見解もあります。

たとえば、複数の者で、ベンチャー企業などを立ち上げる際に、取締役を辞任をする場合には、違約金を●●円支払うなどの定めをしておくと、1人だけ逃げることができなくなりますので、参考にしてみてください。

 

【大阪地裁昭和63年11月30日】

被告は、原告を含む被告の取締役五名員で構成される五心会の承認がなければ取締役を辞任できない旨の特約がある旨主張するが、株式会社における会社と取締役との間の関係は委任に関する規定に従い(商法二五四条三項)、委任は各当事者において何時でもこれを解除することができる(民法六五一条条一項)関係にあるから、取締役は何時でも自由に辞任することができると解すべきであり、会社側は何時でも株主総会の決議をもって取締役を解任することができること(商法二五七条一項本文)、取締役が会社に対して重い責任を負わされ(同法二六六条一項)、一定の行為をなすことを制約されていること(同法二六四条、二六五条一項)等に照らし何時でも取締役を辞任することができる自由に反する特約は効力を有しないと解するのが相当であるから、仮に右被告主張の合意があったとしても、原告は右辞任の意思表示により被告の取締役を辞任したものといわざるを得ない。

1-2 辞任を伝える方法

取締役の辞任は、会社に対する一方的な意思表示の到達により効力が生じます。

電話など辞任の意思を伝えても効力は生じますが、後に問題となったときのためにも、書面あるいはメールなどで、意思を明確することが望ましいといえます。

辞任登記をする際には、辞任届の添付が必要となりますので、辞任届を提出するのよいでしょう。

辞任届のひな形を作成しましたので、参考にしてください。

辞任届

辞任届に押印する印鑑ですが、登記で受理されるためには、以下の対応が必要となります。

辞任届を提出しておきながら、登記が受理されなかったことにならないように注意をしましょう。

  • 取締役を辞任する場合   認印で可能
  • 代表取締役を辞任する場合 自分が印鑑届をしている場合には会社の実印あるいは個人の実印+印鑑証明書

それでは、辞任の意思表示、すなわち、辞任届の提出は、どのようにすればよいでしょうか。

1-2-1 会社の代表取締役がいる場合

会社の代表取締役宛に辞任の意思表示を行います。

すなわち、代表取締役に対し辞任届を提出すれば、辞任の効力が生じることになります。

1-2-2 唯一の代表取締役が辞任する場合

取締役会を招集し、取締役会に対し辞任の意思表示を行う(東京高裁昭和59年11月13日)ことにより、辞任の効果が発生するとされています。

また、取締役会を開催しなくても、取締役全員に辞任の意思が了知された場合(岡山地裁昭和45年2月27日)には辞任の効力が発生するとされています。

たとえば、辞任届を添付したメールを全取締役に送付する、あるいは、メールあるいはLINEなどで辞任することを伝えれば全取締役がこれを見た時点で、取締役辞任の効力が生じることになります。

1-2-3 取締役会設置会社以外の会社で唯一の取締役が辞任する場合

当該取締役が幹部従業員に対し、辞任の意思表示受領権限を与えた上で、この従業員に対して辞任の意思表示を行うことで、辞任の効力が生じることになります(有限会社の場合について、仙台高裁平成4年1月23日)。

2 辞任により取締役が不足する場合の対処法

取締役を辞任する意思表示して、その効力が生じた場合でも、取締役の人数が不足している場合には、取締役としての義務が残ります。

取締役の辞任によって、法律若しくは定款で定めた員数が欠けることになった場合、新たな取締役が就任されるまで、辞任した取締役が取締役としての権利義務を負うことになり(346条1項)、辞任の登記も受理されません。

会社法第346条 役員(監査等委員会設置会社にあっては、監査等委員である取締役若しくはそれ以外の取締役又は会計参与。以下この条において同じ。)が欠けた場合又はこの法律若しくは定款で定めた役員の員数が欠けた場合には、任期の満了又は辞任により退任した役員は、新たに選任された役員(次項の一時役員の職務を行うべき者を含む。)が就任するまで、なお役員としての権利義務を有する。

具体的には、会社が取締役会設置会社の場合、取締役は3名以上とされています(会社法331条)。

会社が取締役会設置会社で、取締役が3名の場合、1人が辞任したとしても、新たな取締役が選任されるまで取締役としての権利義務を負うことになりますし、取締役辞任の登記も受理されません。

そのため、取締役を辞任する際は、取締役の必要人数を確認し、辞任することで、取締役の人数が欠けることになる場合は、次の取締役を速やかに選任してもらう必要があります。

会社が次の取締役の候補者を見つけることができず、取締役を選任することができないというのであれば、取締役設置会社を廃止してもらい、取締役が1名いればよい会社にしまうのも一つの手段でしょう。

いずれにせよ、取締役辞任の登記が受理されるように、自ら働きかける必要があります。

なお、取締役設置会社の概要については、以下を参照してください。

【徹底解説】取締役会設置会社のメリット・デメリット

3 辞任登記にあたっての注意点

取締役を辞任し、人数の問題もないという状況でも、まだすべきことは残っています。

取締役を辞任したことについて、その旨の登記をしていないと会社法上の責任を負う場合があります

辞任登記を残存させたことにつき明示的に承諾を与えたなどの特段の事情が存在する場合には、善意の第三者に対し、取締役でないことを対抗できない、とした判例があります(最判昭和62年4月16日)。

【最判昭和62年4月16日】

株式会社の取締役を辞任した者は、辞任したにもかかわらずなお積極的に取締役として対外的又は内部的な行為をあえてした場合を除いては、辞任登記が未了であることによりその者が取締役であると信じて当該株式会社と取引した第三者に対しても、商法(昭和五六年法律第七四号による改正前のもの、以下同じ。)二六六条ノ三第一項前段に基づく損害賠償責任を負わないものというべきである(最高裁昭和三三(オ)第三七〇号同三七年八月二八日第三小法廷判決・裁判集民事六二号二七三頁参照)が、右の取締役を辞任した者が、登記申請権者である当該株式会社の代表者に対し、辞任登記を申請しないで不実の登記を残存させることにつき明示的に承諾を与えていたなどの特段の事情が存在する場合には、右の取締役を辞任した者は、同法一四条の類推適用により、善意の第三者に対して当該株式会社の取締役でないことをもつて対抗することができない結果、同法二六六条ノ三第一項前段にいう取締役として所定の責任を免れることはできないものと解するのが相当である。

また、そもそも、辞任登記がなされていないと、外部からは取締役であると見られますので、責任追及をされ、紛争に巻き込まれる可能性があります。

したがって、辞任の意思表示をする際には、速やかに辞任登記をするよう会社に求めることが必要になります。

会社が辞任登記をするかどうか不安な場合には、辞任届を提出する際に、司法書士に同席してもらい、その場で法務局に行ってもらうことも考えられます。

ただし、会社が辞任を認めないといって、辞任登記をしない場合もあります。あるいは、会社がすでに休眠状態になってしまっており、誰も対応をしてくれないという場面もあります。

このように、会社が辞任登記をしない場合には、会社を被告として、辞任登記を求める訴訟を提起をして、判決に基づき、強制的に辞任登記をすることができます。

辞任登記を求める訴訟の場合、取締役はいつでも辞任することができますので、辞任が無効であるなどと争われることはまれです。

訴訟提起をして1ヶ月ほどで判決となることもあり、登記まで2か月あれば完了できることもあります。

会社に要求してもなかなか辞任登記がされない場合には、訴訟提起し手しまった方が早いかもしれません。

 

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