債権回収

仮差押で早期に債権を回収する方法

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あなたは、取引先に何度も督促をしているにもかかわらず、債権の回収ができず困っていませんか。せっかく仕事をしたのに、代金を支払ってもらえないために、会社の資金繰りにも影響が出ており、大変な思いをしていませんか。

我々弁護士も、債権の回収ができずに、困っている経営者を何人も見てきました。

取引先と話もできないような状況であれば、裁判をして売掛金等の債権回収をするしかありません。

ただし、闇雲に裁判をしても、債権を確実に回収できるわけではありません。

裁判をして売掛金を早期かつ確実に回収するために、大きな武器となるのが仮差押えです。仮差押えのメリットは以下の2つです。

  • 将来の裁判に向けて、資産を保全することができる
  • 仮差押えをすると、相手方にプレーシャーをかけることができ、債権の早期回収が期待できる

このように、仮差押をすることに損はありません。

仮差押を効果的に利用して、早期の債権回収を目指しましょう。

本記事では、仮差押の基礎知識から効果的に仮差押を行う方法まで記載しています。

是非、参考にしてください。

2019.9.12 update

1、仮差押えと差押えの違い

1-1 仮差押とは

仮差押とは、文字とおり、相手方の財産を「仮」に差押えをすることをいい、民事保全法第20条により認められているものです。

 

第20条 仮差押命令は、金銭の支払を目的とする債権について、強制執行をすることができなくなるおそれがあるとき、又は強制執行をするのに著しい困難を生ずるおそれがあるときに発することができる。
2 仮差押命令は、前項の債権が条件付又は期限付である場合においても、これを発することができる。
 

民事保全法20条によると、仮差押は、「金銭の支払を目的とする債権について、強制執行をすることができなくなるおそれがあるとき、又は強制執行をするのに著しい困難を生ずるおそれがあるとき」にすることができるとされています。

強制執行をすることができなくなるおそれがあるときとは、勝訴判決などを取得して差し押さえるべき資産が処分され、強制執行できなくなる場合をいいます。

たとえば、売掛金を支払わない取引先が不動産を所有していたとしましょう。この場合、裁判(訴訟提起)をして、勝訴判決を取得し、不動産を差し押さえて、強制的に売却して、その売却代金から債権回収をすることになります。

しかし、裁判をしてもすぐに判決が出るわけでありません。判決が出るまでに、早くて2か月、長くなれば、1年以上になることもよくあることです。その間に、取引先が不動産を売却してしまったら、せっかく勝訴判決を得たとしても、強制執行をすることができなくなります。

そこで、将来の強制執行に備えて、取引先が不動産を売却できないように、資産を保全するための手続が仮差押となります。

仮差押は、あくまで「仮」のものであるにもかかわらず、仮差押をすると、相手方は仮差押をされた資産を処分できなくなります。そのため、相手方の損害を担保するために、裁判所に仮差押を発令してもらうためには、担保金を積む必要があります。

また、最終的には、債権の回収ができればよいのですから、できる限り、相手方に不利益にならない資産から仮差押をすることがルールとなっています。いきなり、相手方の売掛金や預金口座に仮差押をした場合、事業に大きな影響を与える可能性がありますので、不動産に仮差押ができる場合には、不動産に対して仮差押をすることがルールになっています。

1-2 差押えとは

これに対し、差押えとは民事執行法に基づき、行われるものです。差押えをするためには、債務名義が必要になります。

債務名義は、裁判手続を経て取得する判決などが典型例ですが、公正証書で、債務者が直ちに強制執行に服する旨の陳述が記載されているもの(執行受託文言)も、債務名義になります。

したがって、公正証書を作成している場合には、裁判手続を経ずに、直ぐに差押えをすることが可能となります。

なお、公正証書については、以下の記事に詳しく記載しているので、参考にしてください。

 

民事執行法(債務名義)
第22条 強制執行は、次に掲げるもの(以下「債務名義」という。)により行う。
一 確定判決
二 仮執行の宣言を付した判決
三 抗告によらなければ不服を申し立てることができない裁判(確定しなければその効力を生じない裁判にあつては、確定したものに限る。)
三の二 仮執行の宣言を付した損害賠償命令
三の三 仮執行の宣言を付した届出債権支払命令
四 仮執行の宣言を付した支払督促
四の二 訴訟費用、和解の費用若しくは非訟事件(他の法令の規定により非訟事件手続法(平成二十三年法律第五十一号)の規定を準用することとされる事件を含む。)若しくは家事事件の手続の費用の負担の額を定める裁判所書記官の処分又は第四十二条第四項に規定する執行費用及び返還すべき金銭の額を定める裁判所書記官の処分(後者の処分にあつては、確定したものに限る。)
五 金銭の一定の額の支払又はその他の代替物若しくは有価証券の一定の数量の給付を目的とする請求について公証人が作成した公正証書で、債務者が直ちに強制執行に服する旨の陳述が記載されているもの(以下「執行証書」という。)
六 確定した執行判決のある外国裁判所の判決
六の二 確定した執行決定のある仲裁判断
七 確定判決と同一の効力を有するもの(第三号に掲げる裁判を除く。)
 

差押えの場合、判決などにより債権が存在すると認められたものですから、仮差押と異なり、差押えをするために、担保金を積む必要はありませんし、差押えをする財産についても制限はありません。

なお、債務名義を取得するためには、通常の訴訟以外に、少額訴訟や支払督促等の手続があります。これらの手続の詳細については、以下の記事に詳しく記載をしているので参考にしてください。

1-3 仮差押と差押えの比較

仮差押と差押えの違いをまとめると、以下のとおりとなります。

  仮差押 差押え
法律 民事保全法 民事執行法
申立て 債務名義不要 債務名義必要
担保金 必要 不要
対象財産 優先順位あり どの財産にも可能

 

2、何に対して仮差押えをするか

 2-1 仮差押の対象物

仮差押えの目的物は、「特定の物」(民事保全法21条)とされており、不動産、商品等の動産、自動車、売掛金、銀行預金、特許権など、価値のあるものでしたら、何でも構いません。

第21条 仮差押命令は、特定の物について発しなければならない。

しかし、仮差押はあくまで、「仮」のものですから、仮差押を受ける取引先にできる限り影響がないようにすることが必要です。

たとえば、取引先Xが売掛先Yに対して有する売掛金に対し、仮差押がなされたら、仮差押を受けた売掛先であるYは、取引先Xの経営状態が悪いのではないかと判断し、取引を打ち切る可能性があります。

「仮」の差押えにもかかわらず、取引先Xの事業に大きな影響を与える可能性があります。

そのため、不動産がある場合には、まずは不動産を仮差押して、不動産に仮差押ができない場合に、売掛金や預金口座の仮差押が認められることになっています。

2-2 仮差押の対象物の調査方法

我々は債権回収について相談を受けることが多いですが、取引先がどのような資産を持っているか分からない経営者の方が非常に多い状況です。

将来の資産保全のために、取引先Xと取引する際に、決算書などを受け取っていればよいのですが、中小企業の場合には、取引をする際に、そのような与信審査までしない会社がほとんどです。

そこで、以下の調査等を行い、仮差押をする対象物を調査していきます。

2-2-1 不動産

会社の登記情報を取得し、本店や支店の住所を確認します。そのうえで、本店や支店の住所地の不動産登記情報を取得して、不動産の名義を確認します。また、会社の登記情報には、代表取締役の住所地が記載されていますので、代表取締役の住所地にある不動産登記情報を取得した上で、その名義も確認します。

不動産に担保が設定されており、他の不動産が共同担保になっている場合もあります(これは共同担保目録で確認することが可能です)。その場合には、共同担保となっている全不動産の登記情報を取得して、名義人を確認します。

これらの調査を行うことにより、取引先名義の不動産があるかどうかを調査します。

取引先が不動産を所有していたら、その内容を確認します。通常は、銀行の担保となっていることが多く、しかも、不動産の価格が銀行の担保となる債権額を下回っている状態(オーバーローン)がほとんとです。不動産の時価5000万円に対し、極度額を1億円とする銀行の根抵当権が設定されていた場合などです(実際、極度額のうち、いくらを銀行から借りているかはわからないので、極度額を前提に考えます)。

この場合、不動産を売却したとしても、その売却代金はすべて根抵当権を有している銀行に支払われ、債権者であるあなたの会社には、一銭も入ってきません。

そのため、取引先が不動産を所有していたとしても、オーバーローン状態の場合には、不動産を仮差押する意味がないので、これを仮差押する必要はなく、次の売掛金や預金口座の仮差押を検討することになります。

2-2-2 売掛金

取引先Xが売掛先Yに対して有する売掛金などです。

たとえば、取引先Xが、あなたの会社が納品した商品を加工して、売掛先Yに商品を納品しているのであれば、取引先Xは、Yに対し売掛金を有していることになりますので、この売掛金を仮差押することが可能となります。

また、消費者を対象に商売を行っている会社の場合には、クレジットカード決済を行っている会社も多くあります。インターネットで商品販売を行っている会社では、クレジットカード決済ができるようになっている会社も多くなってきました。

クレジットカード決済ができる会社では、クレジットカード会社に対する売掛金が大きな債権となります。そこで、クレジットカード会社に対する債権を仮差押することが可能となります。

2-2-3 預金口座

預金口座を仮差押するためには、銀行名だけではなく、支店名を特定してなければならないとされています。口座番号までは不要です。

支店名を特定するためには、過去に取引先に対し入金をしたことがある場合には、その入金口座を確認します。また、インターネットで商品を販売している会社では、商品代金の振込先として、銀行名、支店名が記載されていることもあります。これらの情報等を使って銀行口座及び支店を特定していきます。

また、取引先が所有する不動産に銀行の担保が設定されている場合、その銀行の口座を持っている蓋然性が高いです。不動産登記情報には、融資をしている銀行名と支店名が記載されていますので、これらを確認します。

これらの調査を行い、預金口座の銀行名、支店名を特定していくことなります。

これらの調査をしても、分からない場合には、本店周辺の銀行に口座があると予想して、仮差押をすることもあります。

3、仮差押えの手続

仮差押をする対象が決まったら、仮差押の申立てをします。

仮差押えの標準的な流れは以下のとおりです(東京地方裁判所の場合です)です。

日数 流れ
1日 仮差押申立て
3日 裁判官面接、担保決定
4日 法務局へ担保金を供託
5日 仮差押決定

 

ただし、裁判官面接後、直ぐに供託をして、供託書を午前11時までに裁判所に持ち込めば、その日のうちに仮差押決定を得ることはできますでので、最短で2日で仮差押決定をすることは可能です。

 3-1 仮差押の申立て

仮差押申立てをすると、裁判官との面接日を予約することになります。

午前中までに申立てをすれば、翌日に裁判官面接をいれることは可能ですが、午後に申立てをすると翌日に面接をいれることは難しく、裁判官面接は2日後になります。そのため、仮差押を急いでいるのであれば、朝一で申立てをすることが必要です。

申立て後、裁判官面接までの間、裁判所書記官が申立の要件、不備等をチェックし、仮差押決定の発令に向けて、書面の補充等を求められることがあります。

3-2 裁判官面接及び担保決定

申立書の補充等を確認されることがあります。

特に問題なければ、その場で、裁判官から担保決定が口頭で伝えられます。担保金の相場は、後述のとおりです。

担保決定は、通常、「本日から1週間以内に●●を担保することを条件に、仮差押決定をする」という内容となります。

3-3 担保金の供託

担保決定を受けて担保金を法務局に供託することになります。

振込による供託をすることも可能です。ただし、この場合、法務局に供託の申請をして、法務局の受け入れ体制が整った後に、振込をすることになるため、少しタイムラグがあります。

仮差押を急いでいる場合には、法務局に現金を持ち込む必要がありますので、段取りを決めておく必要があります。

3-4 仮差押決定

法務局に担保金を供託して、供託正本の写しを裁判所に提出すると、仮差押決定となります。

仮差押決定は、当日の午前11時までに供託正本の写しを提出すれば、その日の17時に仮差押決定が発令されます。

午前11時以降の場合には、原則として、翌日の17時に仮差押決定が発令される取り扱いとなりますので、急いでいる場合には、注意が必要です。

3-4 仮差押決定の送達

仮差押決定が発令されたら、裁判所は、対象が不動産の場合には、法務局に登記の嘱託(依頼)をかけます。仮差押の対象が売掛金や預金口座であった場合には、売掛先や銀行(これを第三債務者といいます。)に仮差押決定を送付します。

その後、本人に対し、仮差押を送達します。本人への送達を遅らせているのは、法務局や第三者債務者より先に仮差押決定が送達されて、本人が資産を移転してしまうのを防ぐためです。

3-5 第三債務者からの陳述

通常、仮差押の申立てと同時に、第三債務者に対する陳述催告の申立てを行います。第三債務者というのは、あなたが取引先Xに対し債権を有している場合に、Xの売掛先Yあるいは、Xが取引を行っている銀行などです。

仮差押の決定が売掛先Yや銀行に送付されると、売掛先Yや銀行は、取引先Xに対する債務、すなわち、Yから見た場合の買掛金、銀行からみた場合の預金返還債務があるかどうか、ある場合に、いくらかあるのかを回答します。

これにより、仮差押が空振りになったのか、仮差押ができたとして、いくらがその対象になったかを把握することができます。

4、仮差押えにおける担保金の金額は

仮差押は、あくまで仮の手続であり、相手方に反論の機会を与えることなく裁判所が決定をしますので、裁判所の判断に誤りがあるかもしれません。そこで、仮差押をされる側の損害を担保するために、裁判所は、仮差押決定をする条件として、担保決定を決定をします。担保金の金額の目安は、下表のとおりです。

数値は、請求金額の●%という意味です。例えば、「その他の損害賠償」を1000万円(被保全権利)として、預金に仮差押をする場合、担保金の目安は、1000万円の15%~30%、すなわち、150万円から300万円ということになります。

被保全権利 目的物
動産 不動産 債権

預金・給料

敷金等

その他
賃料・売買代金等 10~30 10~25 10~30 10~25 10~30
損害賠償等 20~30 15~30 15~30 15~30 20~30

 

仮差押えをするにあたっては、多額の担保金が必要な場合があります。担保金は、一度、供託すると、訴訟で決着するまでは、戻ってこないのが原則です。

なお、仮差押をするにあたっては、債権全額について仮差押をしなければならないというものではありません。

例えば、1000万円の債権がある場合において、1000万円全額を保全するために仮差押をする必要はなく、1000万円のうちの500万円について仮差押を行うこともできます。この場合、担保金は半額の150万円程度に押さえることできます。

この場合、仮差押のとして保全される金額は500万円に限られますが、売掛金や銀行口座に仮差押をした場合には、次に説明するとおり、取引先であるXはその対応に追われる可能性があり、債権全額を支払ってくる可能性もあります。

したがって、仮差押による早期回収を狙って、供託金を準備できる範囲内で、仮差押をするということも十分に考えれらます。 

 仮差押えにおける担保金のポイント

  • 請求する金額によっては、金額が大きくなる
  • 裁判が決着するまで戻ってこない
  • 担保金が多額になる場合には、請求金額を下げることを検討する
  • 請求金額を下げたとしても、債権を満額回収できる可能性もある

 

5、仮差押えの効果を最大限発揮するには

5-1 仮差押えの対象を売掛金や借入れのある預金口座にする

前述のとおり、仮差押えは、将来の強制執行に備えて、資産を保全する手続です。

しかし、不動産に仮差押ができない場合、売掛金や預金口座に対して仮差押をすることが認められています。

5-1-1 売掛金に仮差押えをした場合

では、売掛金を仮差押したらどうなるでしょうか。取引先Xの売掛先であるYは、取引先Xが経営が大丈夫なのかと思い、Xに説明を求め、仮差押が解除されないのであれば、今後取引をしないという話をするかもしれません。

Yの売掛先が大企業である場合、通常、取引基本契約が締結されており、仮差押がされたことが契約の解除事由となっていることがほとんどです。YはXに対し、仮差押が解除されない限り、取引契約を解除して取引を打ち切るという対応をするかもしれません。

そのため、仮差押により、取引先Xに対し、あなたの債権を放置しておけない状況に追い込むことができるかもしれません。

5-1-2 銀行口座に仮差押をした場合

取引先であるXは、その銀行から融資を受けている可能性があります。銀行との契約書で、仮差押は、貸付金の期限の利益喪失事由となっていますので、銀行から取引先Xに対し、速やかに、仮差押を解除しなければ、期限の利益を喪失すると言われるかもしれません。

また、Xの預金についても、銀行は、将来、期限の利益を喪失させて、貸付金と相殺するために、預金の引き出しに応じてない可能性があります。

そのため、仮差押により、取引先Xに対し、あなたの債権を放置しておけない状況に追い込むことができるかもしれません。

5-1-3 複数の売掛先や銀行口座を対象にする

上記のとおり、売掛先や銀行口座を仮差押することが効果的な方法ですが、仮差押をするにあたり、複数の売掛先や銀行口座を対象にするとより効果的です。

たとえば、1000万円の債権を保全するために、1つの売掛先や1つの預金口座を対象とするのではなく、売掛先Y、A銀行●支店の預金口座及びB銀行●支店の預金口座の合計3つを仮差押の対象にするということです。

ただし、複数を仮差押の対象にした場合、1000万円の債権を保全するために、売掛先Y対しては500万、A銀行に対しては250万円、B銀行に対して250万円というように割付を行う必要があります。(割付の方法については、申立人で決めることができます。)

割付をしないと、売掛先Yに対し1000万円、A銀行に対し1000万円、B銀行に対し1000万円の合計3000万円が保全される可能性があり、請求をしている1000万円以上の仮差押が認められる可能性があるからです。

このように割付をすると、A銀行に対して1000万円の預金があったとしても、250万円しか保全されないことになるので、仮差押の対象を複数にせず、1つに絞った方がよいのではないかと思う方もいるかもしれません。

A銀行に1000万円の預金があることが確実であるということであれば、そのような対応方法でもよいかもしれませんが、通常、売掛先に対しいくらの債権があるか、銀行の預金残高としていくらあるのかは、こちらでは把握できません。

5-1-1で述べたように、売掛先や預金口座に仮差押をすることによる効果を狙うのであれば、複数の売掛先や銀行口座を仮差押の対象にした方が、相手方も複数の売掛先や銀行の対応に追われることになり、より効果的になるといえるでしょう。

5-2 仮差押の時期をコントロールする

売掛金や預金口座を仮差押をする場合、残高が最大になるときに、仮差押をすることにより大きな効果を得ることができます。

仮差押は、裁判所から仮差押の決定が売掛先や銀行に送達された時点での残高に対し、効果が生じます。預金残高がないときに送達された場合、仮差押は空振りということになります。

通常、売掛金の入金は月末の会社が多いと思われます。また、クレジットカード会社に対する売掛金の入金は、15日と月末の2回という場合が多いです。

そのため、売掛金の入金が予定されている月末に、仮差押の決定が送達されるように日付指定をして、送達する方法も検討します。

5-3 仮差押を受けた取引先の対応は

5-1の記載したとおり、売掛先や預金口座に仮差押をすると、取引先Xは売掛先や銀行の対応に追われる可能性があります。

それでは、取引先Xとしては、どのように対応をすることになるでしょうか。(なお、ここでは、あなたの会社の債権が確実にあることが前提にしており、Yが債権の存在を争えないことを前提にしています。)

方法としては3つ考えられます。

  1. あなたの会社に対し債権全額を支払って、仮差押を取下げてもらう
  2. 仮差押の解放金を支払い、売掛先や銀行口座の仮差押を解除する
  3. 何も対応しない

 それでは、これら3つの対応についてみていきます。

5-3-1 あなたの会社に対し債権全額を支払って、仮差押を取下げてもらう

この場合、裁判手続等を経ずに、債権全額を回収できたことになり、目的を達成できたことになります。

その後、あなたは、仮差押の取下げをして仮差押のために供託をした担保金を取り戻す必要があります。

担保金を取り戻すにあたっては、裁判所に対し担保取消手続を行う必要があります。

担保取消手続については、民事訴訟法79条に3つの場合が規定されています。

① 全部勝訴の判決など、担保事由が消滅した場合(79条1項)

② 相手方の同意があった場合(79条2項

③ 訴訟が終了し、相手方に権利行使の催告をして、相手方がそれを行使しないとき(79条3項) 

 

民事訴訟法
第79条 担保を立てた者が担保の事由が消滅したことを証明したときは、裁判所は、申立てにより、担保の取消しの決定をしなければならない。
2 担保を立てた者が担保の取消しについて担保権利者の同意を得たことを証明したときも、前項と同様とする。
3 訴訟の完結後、裁判所が、担保を立てた者の申立てにより、担保権利者に対し、一定の期間内にその権利を行使すべき旨を催告し、担保権利者がその行使をしないときは、担保の取消しについて担保権利者の同意があったものとみなす。

差押の解放金というのは、仮差押決定が出されたときに定められています。

 

本件の場合、勝訴判決などがあるわけではないので、①には該当しません。②、③の方法により、担保金の取り戻しをする必要がありますが、③の権利行使催告をする場合、相手方が異議をする期間などの関係もあり、担保金を取り戻すまでに約2か月ほどかかります。

これに対し、②の相手方から同意をもらった場合には、相手方の同意書を添付して裁判所に担保取消しの申立てをすれば、直ぐに担保金を取り戻すことが可能となります。

そこで、相手方から同意書を取得することが可能なのであれば、同意書を取得したうえで、担保取消しをして担保金を取り戻すことになります。

5-3-2 仮差押の解放金を支払い、売掛先や銀行口座の仮差押を解除する

仮差押の解放金は、仮差押決定に、「債務者は、仮差押額の合計額を供託するときは、この決定の執行の停止又はその執行処分の取り消しを求めることができる」と規定されています。

(仮差押解放金)
第22条 仮差押命令においては、仮差押えの執行の停止を得るため、又は既にした仮差押えの執行の取消しを得るために債務者が供託すべき金銭の額を定めなければならない。
2 前項の金銭の供託は、仮差押命令を発した裁判所又は保全執行裁判所の所在地を管轄する地方裁判所の管轄区域内の供託所にしなければならない。
 

債務者は、仮差押の金額(解放金)を供託するときは「処分の取り消し」、すなわち、売掛金に対する仮差押の解除や預金口座の仮差押の解除をすることができることになります。

この場合、あなたの会社は、勝訴判決を得たとしても、売掛先Yや預金口座から直接回収できなくなりますが、取引先Xが行った解放金(供託金)を差押えて、回収することが可能になります。

例えば、1000万円の請求権を保全するために仮差押をした場合、債務者、すなわち、取引先であるXは1000万円の解放金を法務局に供託することにより、売掛先や銀行口座に対する仮差押を解除することができます。この場合、あなたは、将来、売掛先や銀行口座を差押えをすることはできませんが、1000万円の供託金を差押えをして回収することができるようになります。売掛先や銀行口座に仮差押をしたものが、供託金に入れ替わったイメージとなります。

これは、1000万円の請求を保全するために仮差押を行った場合で、売掛先や銀行口座に1000万円の残高がなかった場合にも同様の結果となります。

例えば、1000万円の請求権を保全するために、仮差押の申立てをしたところ、仮差押の対象になったのは、仮差押時の預金残高100万円だけだったということもよくあります。この場合、勝訴判決を得て、強制的に回収できるのは、100万円だけとなります。

しかし、5-1で説明をしたとおり、取引先Xは、売掛先や銀行から仮差押の解除を求められたりしている可能性があります。この場合、取引先Xは、あなたの会社に1000万円を支払うことを選択せず(後の裁判で争うことを考えている場合などです)、1000万円の解放金を供託をして、仮差押の解除をする場合もあります。

この場合、仮差押をできた金額はわずか100万円であったにもかかわらず、最終的には、1000万円の仮差押をした結果になります。

あとは、本訴等を提起して、勝訴判決などの債務名義を取得して、供託金の差押えをして、全額回収することができるようになります。

5-3-3 相手方が何もしない場合

5-1で説明したとおり、仮差押を受けると、売掛先対応や銀行対応に追われることがほとんどです。

それにもかかわらず、何もしないということは、取引先Xの経営状態がよくない可能性が高いです。そこで、できる限り早く、訴訟、支払督促などを行い、債務名義を取得し、回収をすることが必要です。

なお、取引先Xが破産した場合には、仮差押の効力は無効となります(破産法42条2項)。

そのため、元々、取引先Xの経営状態が悪い場合には、仮差押をするかどうかも慎重に検討しましょう。

 

破産法第42条 破産手続開始の決定があった場合には、破産財団に属する財産に対する強制執行、仮差押え、仮処分、一般の先取特権の実行、企業担保権の実行又は外国租税滞納処分で、破産債権若しくは財団債権に基づくもの又は破産債権若しくは財団債権を被担保債権とするものは、することができない。

2 前項に規定する場合には、同項に規定する強制執行、仮差押え、仮処分、一般の先取特権の実行及び企業担保権の実行の手続並びに外国租税滞納処分で、破産財団に属する財産に対して既にされているものは、破産財団に対してはその効力を失う。ただし、同項に規定する強制執行又は一般の先取特権の実行(以下この条において「強制執行又は先取特権の実行」という。)の手続については、破産管財人において破産財団のためにその手続を続行することを妨げない。
 
(以下省略)

 

7、まとめ

 このように、仮差押は、資産の保全手段ですが、仮差押の方法次第では、早期債権回収の有効手段ともなり得るものです。

 仮差押えは、裁判所に申し立てるための資料さえ揃えさえすれば3日程度取得することができます。

 債権回収手段の一つして是非参考にしてみてください。

仮差押えは、取引先の事業に大きな影響を与える場合があり、取引先としては、すぐに債権を支払って解決しようとする傾向にあります。

その結果、裁判をするよりも、短期間で、売掛金を回収することができることになります。 

 

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