労務

社員の失踪!?これで大丈夫、経営者が取るべき対応

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 ある日、あなたの会社の社員が、突然、会社に来なくなりました。連絡も取れません。経営者であるあなたは、どうしたらいいでしょうか。

 その社員は、会社を辞めたいのかもしれません。会社に来たいのに、事件や事故に巻き込まれて、来られないのかもしれません。連絡が取れれば、それを確認して対応することができますが、連絡が取れない場合に、どうすればよいのか、また、事前にどのような対策を取っておけば上手く対処できるのか、気になりませんか?

 今回は、社員が失踪した場合に、経営者として取るべき対応と、取っておくべき事前の対策について解説します。これを押さえておけば、社員が失踪した場合でも、しっかり対応できます。

 

1、まずは事実関係を確認する

 会社に出勤してこない。本人の携帯電話に掛けても出ない。自宅の固定電話に掛けても出ない。

 そのような状況の場合、その他に連絡が取れる手段がないか、考えることになります。

 同居の家族がいるのであれば、その人に連絡をしてみるのも一つでしょうし、社内に親しく付き合っている友人等がいるのであれば、その人から話を聞いてみるのも一つでしょう。

 事件や事故に巻き込まれている可能性もありますので、ニュースにも注意を払う必要があります。

 その他、例えば、その社員が自動車を持っているのであれば、それが駐車場にあるか否かを確認したり、その社員がいわゆるSNSをやっているのであれば、その更新の状況を確認したりすることも考えられます。

 可能な範囲で事実関係の確認を行い、それを尽くしても、居場所が分からない、連絡が取れない、引き続き出勤してこないという状況であれば、次のステップに移ることになります。

 

2、雇用関係を終了させる方法を検討する

 社員が出勤してこないとしても、それだけで、当然に、雇用関係を終了させることができるわけではありません。

 雇用関係は雇用契約という契約関係ですので、それを終了させるためには、根拠が必要となります。

 なお、社員が失踪したことを、会社に対する退職の意思表示と評価できれば、その社員との雇用関係を終了させる根拠となりますが、社員による退職の意思表示はそれが明確なものでなければ認められないと考えられていますので、出勤しないことをもって退職の意思表示と評価することは極めて困難といえます。退職の意思表示と評価できるくらいの期間、無断欠勤が続いた場合には、この後紹介する方法で、雇用関係の終了を認めることができます。

1、就業規則上の退職事由

 一つは、就業規則に、退職事由として、無断欠勤を定めている場合、その定めを根拠として、その社員が退職したものすることができます。

 就業規則では、無断欠勤の期間と併せて定めているものが多いと思います。

  • 「無断欠勤が○日に及んだ場合」

 就業規則で定められた期間の無断欠勤が認められれば、就業規則上は、退職事由に該当することになります。

 もっとも、解雇の場合は、30日前にその予告をする必要があるとされています。無断欠勤は、この後紹介するように、退職事由ではなく、解雇事由と定める例も少なくありませんが、退職事由となる無断欠勤の期間を短く定めることによって、実質的に、解雇を容易にすることも可能となってしまいます。この点は、後になって、その社員から、規定自体が不合理で違法だとか、規定の適用方法が不合理で違法だといって争われたような場合に、退職が無効となるリスクの一つになります。

 退職事由となる無断欠勤の期間を30日未満と定めている場合であっても、無断欠勤の期間が30日に到達するのを待って、退職とする方が、処理として無難といえるでしょう。

2、就業規則上の解雇事由

1、普通解雇

 もう一つは、就業規則に、解雇事由として、無断欠勤を定めている場合、その定めを根拠として、その社員を解雇することができます。

 解雇は、普通解雇事由として定めているか、懲戒解雇事由として定めているかによって、対応が異なってきます。

 普通解雇事由として定めている場合の対応は、退職事由として定めている場合と、大きく異なるものではありません。

 就業規則に無断欠勤の期間が規定されている場合であっても、30日程度待ってから解雇とする方が無難です

2、懲戒解雇

 懲戒解雇事由として定めている場合、就業規則の定めに従うことになりますが、具体的に問題となるのは、弁明の機会を与える手続です。

 懲戒解雇を行うには、懲戒対象者に弁明の機会を与える必要があります。

 本人と連絡が取れる通常の場合は、問題なく行うことができますが、失踪している場合には、これを行うことが不可能です。

 この場合に、弁明の機会を与えることが不可能であることを理由に、弁明の機会を与えずに懲戒解雇を行うことができるかが問題となります。

 会社として、本人に連絡を取る手段を尽くした結果、真に不可能であると認められる場合には、弁明の機会を与えなかったとしても、直ちに手続に問題があることにはならないと考えられますが、手段を尽くしたといえるか否か、真に不可能であるといえるか否かについては、疑義が残ってしまいます

 この観点から、失踪や無断欠勤を理由とする解雇については、普通解雇によって対処することができるように、就業規則を工夫しておいた方が良いといえます。

3、解雇の意思表示をどのように行うか

 普通解雇による場合も、懲戒解雇による場合も、解雇をするには、解雇の意思表示を会社から社員本人に伝える必要があります。

 問題点は弁明の機会と同じですが、これについては、就業規則で、会社から社員に対する意思表示は、社員が会社に届け出た場所に対して行えば、その社員に伝達されたものをみなすことにしておくことで、対処することができます。

  • 会社から従業員に対する意思表示は、従業員が会社に届け出た居所に送達されれば、当該従業員に送達されたものとみなす。

 その他には、裁判所の公示送達という手続もあります。

4、解雇予告手当を支払う必要があるか

 普通解雇による場合も、懲戒解雇による場合も、解雇をするときには、30日前にその予告をするか、30日分の平均賃金を支払う必要があります。これは、一般に、「解雇予告手当」と呼ばれています。

 もっとも、この解雇予告手当は、「労働者の責めに帰すべき事由」に基づいて解雇をする場合には、労働基準監督署長の認定を受けることにより、支給せず、即日に解雇をすることができます。

 2週間以上正当な理由なく無断欠勤をするような場合は、「労働者の責めに帰すべき事由」に該当するとされていますので、30日待たずに解雇をしたい場合には、労働基準監督署長の認定を申請し、その認定を受けることが考えられます。

 

3、賃金や退職金を支払う必要があるか

1、賃金

 会社から社員への賃金の支払は社員から会社への労務の提供の対価ですから、社員から労務の提供がない場合には、会社は賃金の支払義務を負わないのが原則です。これは、一般に、「ノーワーク・ノーペイの原則」と呼ばれています。

 もっとも、給料の定め方が、社員の出勤にかかわらず月給を支払うとされているような場合には、社員が無断欠勤をしているときでも、賃金を支払う必要が生じます。

2、退職金

 退職金については、無断欠勤をしているからといって、直ちに支払義務を負わなくなるものではありません。退職金規程や労働契約において、退職時に退職金を支給することが定められているのであれば、無断欠勤・失踪した社員に対しても、退職金を支払う必要があります

 退職金規程等において、懲戒解雇をする場合には退職金を不支給とする旨の定めが置かれている場合もありますが、そのような定めがあっても、退職金の支払義務を免れるとは限りません。このような定めが有効となるのは、懲戒解雇事由が、その社員のこれまでの勤続の功を抹消するほどの著しい非行といえる場合に限られると考えられているからです。

 無断欠勤や失踪がそのような非行に該当するか否かは、慎重な判断が必要です。

 

4、まとめ

 社員が失踪した場合に、経営者として取るべき対応について解説しました。

 以上を踏まえると、社員が失踪した場合に備えて、取っておくべき事前の対策としては、次のことが挙げられます。

  • 社員の無断欠勤が一定の日数続いた場合を、当然に退職したこととなる事由に含めておく
  • 当然に退職したこととなる事由に含めることに抵抗がある場合には、普通解雇の事由に含めておく
  • 解雇の意思表示について、社員が会社に届け出た居所に送達すれば社員に到達したものとみなす旨を定めておく
  • 無断欠勤している間も賃金が発生することにならないように給与を定めておく
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