あなたの会社には、困った社員、問題のある社員はいませんか。
代表的な例としてのセクハラやパワハラのほか、頻繁に遅刻・無断欠勤を繰り返す、SNS上で会社の誹謗中傷を行う、就業時間中にネットサーフィンしている、会社のPCを使用して私的なメールや不正行為を行う・・・など、ひとことに「問題社員」といっても、様々な例が挙げられると思います。
特に近年では、職場での問題行動を撮影した動画をSNSにアップして炎上し、ニュース報道などで取り上げられるといったケースも後を絶ちません(いわゆる「バカッター」問題)。
このような問題社員の存在は、会社に様々な悪影響を及ぼしてしまいます。
(例)
・遅刻欠勤を繰り返す →周囲の社員の士気が下がり、風紀を乱す
・過度な権利主張 →他の社員も同じような取扱いを求めるようになる
・注意や指導に上長の時間労力が奪われる →経済的損失、機会的損失
・取引先や関係者への影響 →社員教育が不十分との風評につながる
このような問題社員に対して、会社はどのように対処すべきかにつき、「事前予防編」(本稿)と「事後対応編」(https://houmu-bu.com/problem-employee-2-1318)に分けて解説したいと思います。
Contents
1 就業規則の整備
1-1 総論
あなたの会社の就業規則は、いつ、どのようにして作られたものでしょうか。また、最後に改定や見直しを行ったのは、何年前でしょうか。
場合によっては、会社設立時にモデル就業規則をベースに策定し、そのまま長年に渡り改訂していないというケースも多く見受けられます。
(参考)厚生労働省モデル就業規則
https://www.mhlw.go.jp/file/06-Seisakujouhou-11200000-Roudoukijunkyoku/0000118951.pdf
しかし、このモデル就業規則は、あくまで厚生労働省が規程例として示したものに過ぎず、実際の会社運営の実情に適さないことも多くあります。
そこで、本項目では、就業規則の重要性を、具体的な改訂例とともにお伝えしていきます。
1-2 就業規則の重要性
「就業規則は、会社を守る盾である」という言葉をお聞きになられたことがあるかもしれません。これは、会社と社員との間における包括的合意事項としての就業規則をきちんと定めておかなければ、社員との間に問題が生じた場合にも適切に対処できなくなるということです。
具体的な就業規則の役割としては、大きく次の2つに分けられます。
① 社員に対して、当該会社において禁止される行為を明示し、理解浸透させること
② 現実に違反行為が生じた場合に、懲戒処分の根拠となること
特に②については、何か問題が生じた後にこれを禁止する条項を設けても、これに基づいて懲戒処分を科すことはできないことに、注意が必要です(いわゆる「遡及処罰の禁止」)。
そのため、ひと昔前であれば想定できなかったSNSを通じた問題行動などについてもフォローできるよう、就業規則の定期的な見直しとアップデートを行うことが推奨されます。
それでは、具体的にどのような場面で就業規則が役割を果たすこととなるのか、就業規則の改定例とともに説明します。
1-3 具体例
ケース1:社員が同僚に対して、休憩時間や就業時間後にマルチ商法の勧誘を行っており迷惑であると周囲の社員から苦情が出ている場合
上記の厚生労働省モデル就業規則においては、マルチ商法を禁止する直接の規程はありません。
また副業や兼業に関して定められた第67条においても、原則として、勤務時間外には、届出さえ行っておけば他の会社の業務を行うことができることとされています。
仮に、厚生労働省モデル就業規則と同じ定めしかおいていなかった場合、①マルチ商法の勧誘を行っている社員自身には、これが社内で禁止されている行為であるという認識がない可能性もありますし、②マルチ商法の勧誘行為の事実をもって指導や懲戒処分を行うことが困難となる場合があります。
そのため、当該社員から、「良いと思う商品を勧めているだけで、商売や兼業ではないです。」「休憩時間や就業時間後の行為であるから、正式に届出さえすれば認めてもらえるんですよね?」といった反論を受けることにもなりかねません。
そこで、次の条項を定めておくことが考えられます。
- 就業時間の内外を問わず、会社の関係者(従業員、顧客、取引先等)に対して、いわゆる「連鎖販売取引」(マルチ商法、マルチまがい商法、ネットワークビジネス(NB)、ネットワークマーケティング、紹介販売、マルチレーベルマーケティング(MLM)を含むが、これらに限定されない)又はこれに類するものの勧誘を行うことを禁止する。
ケース2:社員が会社の貸与パソコンを使って不正行為を行っている疑いがあるが、パソコン内のメール等を調査して良いか?
厚生労働省モデル就業規則には、会社の貸与パソコンの私的利用禁止や会社によるモニタリングに関する規定はありません。
そのため「無断で調査を行えば、社員のプライバシー侵害とならないか」とか、逆に「事前に調査することを伝えると、証拠データを削除されてしまわないか」などと心配になる方が多いようです。
この点、裁判例(東京地方裁判所平成13年12月3日判決)は、社員による電子メールの私的使用の禁止が徹底されたこともなく,社員の電子メールの私的使用に対する会社の調査等に関する基準や指針,会社による私的電子メールの閲読の可能性等が社員に告知されたこともなかった会社について、会社の貸与パソコンによる私的メールの閲覧を行うことができるとしつつも、社員のプライバシー権に配慮し、①責任者でない者による監視、②責任者でも、監視の合理的必要性が全くないのに専ら個人的な好奇心等による監視、③管理部署その他の社内の第三者に秘匿して個人の恣意に基づく手段方法により行われる監視のような場合にはプライバシー権侵害が肯定されるとしています。
東京地方裁判所平成13年12月3日判決(労働判例826号76頁)
「従業員が社内ネットワークシステムを用いて電子メールを私的に使用する場合に期待し得るプライバシーの保護の範囲は,通常の電話装置における場合よりも相当程度低減されることを甘受すべきであり,職務上従業員の電子メールの私的使用を監視するような責任ある立場にない者が監視した場合,あるいは,責任ある立場にある者でも,これを監視する職務上の合理的必要性が全くないのに専ら個人的な好奇心等から監視した場合あるいは社内の管理部署その他の社内の第三者に対して監視の事実を秘匿したまま個人の恣意に基づく手段方法により監視した場合など,監視の目的,手段及びその態様等を総合考慮し,監視される側に生じた不利益とを比較衡量の上,社会通念上相当な範囲を逸脱した監視がなされた場合に限り,プライバシー権の侵害となると解するのが相当である。」
そこで、このようなプライバシー権侵害に該当することなく必要なモニタリング調査を行うことができるよう、次の条項を定めておくことが考えられます。
1 従業員は社用パソコンの使用にあたり、次の行為を行ってはならない。
① 業務に関係のない文書の作成
② 私的な電子メール(社内メールを含む)の送受信
③ 業務に関係のないウェブサイトの閲覧
④ 機密情報を取り外し可能な記録媒体にコピーすること
2 会社は必要に応じ、送受信した電子メールその他社用パソコン内に保存蓄積されたデータ等を閲覧することができる。従業員は閲覧に必要なパスワードを開示する等会社による閲覧に協力しなければならない。
2 SNS関連
2-1 社内におけるソーシャルハラスメント
「ソーシャルハラスメント」とは、SNSを通じて行われるいじめ行為や嫌がらせなど全般を指します。
例えば、ある調査では、社会人の約2割が、上司からfacebookの「いいね!」やコメント、Twitterのリツイートなどを強要された経験があるとの結果が報告されていますが、これもソーシャルハラスメントの一種といえます。
2-2 対外的な発信
かつては、新入社員やアルバイトが、会社の存立を危うくするような損害を与える事態は稀でした。
しかし、例えば平成25年には、そば屋のアルバイトが食洗機内に入った写真をツイッターに投稿して炎上したことがきっかけで、当該そば屋は客が激減、営業継続が困難となりが破産するに至った事件も発生しています。
このように、一般人である1人の個人が容易に全世界に発信できてしまう点や、ひとたび炎上すると瞬く間に拡散されて巨額の損害を生じる点に、SNSの怖さがあるといえます。
2-3 SNS対策の3点セット
このように、社内だけでなく社外に対しても多くの問題を生じるSNSについては、きちんんと事前予防策を講じておく必要があります。
具体的には、誓約書の作成、SNSガイドラインの策定、社員教育の3点セットによる対策を推奨しています。
社員のSNSトラブルの予防に関しては、以下の記事に詳しく記載しているので、参考にしてください。