労務

セクハラ・パワハラ被害相談への対応のポイント

  • このエントリーをはてなブックマークに追加
  • Pocket

ハラスメント撲滅が叫ばれて久しい昨今においても、セクハラやパワハラに関する問題のニュース報道が絶えることはありません。
そのような状況を受け、政府は、パワハラ防止について明記した労働施策総合推進法(労働施策の総合的な推進並びに労働者の雇用の安定及び職業生活の充実等に関する法律)の制定や、女性の職業生活における活躍の推進に関する法律等の一部を改正する法律案の可決、国際労働機関(ILO)による仕事上でのパワハラ・セクハラを禁じる初めての国際条約の採択への賛成(批准は未定)など、セクハラ・パワハラに対する施策を強力に推し進めています。
特に、労働施策総合推進法は、場におけるパワハラ防止のため、事業主には雇用管理上必要な措置を講じることが義務付けられるなど、単なる理念にとどまらない具体的なアクションを求められていることに注意が必要です。

ハラスメントが生じる原因は様々ですが、会社としては、身近に生じうる問題であることには自覚的であるべきといえます。
近年では、セクハラやパワハラの被害申告に対して会社が適切対応していないと考えた被害者が、SNSに書込みを行うなどして会社に甚大な風評被害を生じることもあるため、社内の問題であると甘く見ることなく、迅速・適切に対応すべきといえます。
他方で、プライバシーへの配慮の必要性など、その調査や処分に当たって注意すべき点も多く存在します

今回は、社員から社内におけるハラスメント被害の申告を受けた場合の対応のポイントについて解説したいと思います。

1 パワハラ・セクハラとは?

パワハラやセクハラについては、ハラスメントを行っている社員自身に自覚がないことが多いと言われます。その原因の一つとして、そもそも何がパワハラ・セクハラに該当するかの定義が曖昧であることが挙げられます。
労働施策総合推進法の改正により、パワハラについては、次の3つの要素を全て満たすものであると定義されました。
① 優越的な関係を背景とした
② 業務上必要かつ相当な範囲を超えた言動により
③ 就業環境を害すること(身体的若しくは精神的な苦痛を与えること)

したがって、上長と部下など優越的な関係を背景としない場合や、適正な範囲の業務指示ないし指導は、パワハラには該当しません。

他方で、セクハラに関しては、現在のところ法律上の定義はありませんが、厚生労働省の指針においては、次のとおり分類されています。
対価型セクシュアルハラスメント
職場において行われる性的な言動に対する労働者の対応により当該労働者がその労働条件につき不利益を受けるもの
環境型セクシュアルハラスメント
当該性的な言動により労働者の就業環境が害されるもの

被害社員からの相談を受けた場合には、これらの定義を念頭に置いて、事実関係の確認を進めていくこととなります。

2 相談者からのヒアリング

セクハラ・パワハラの被害を受けた本人や、その周囲の社員から相談を受けた場合、まずは迅速かつ正確に事実関係を確認した上で、適正な対処を行う必要があります。
これは、被害社員の救済はもちろんですが、会社としても事実を把握していながら対処を怠った場合には、不作為による安全配慮義務違反等として損害賠償責任を問われかねないためでもあります。
そのため、セクハラやパワハラの相談を受けた場合、迅速に相談者から事実関係のヒアリングを実施しましょう。ヒアリングの際のポイントは、次の3点です。

2−1 5W1Hを意識した客観的な事実の確認

ハラスメント被害を受けた本人は、精神的に追い詰められていたり、行為者に対する恐怖心や嫌悪感を有していることが大半です。そのような相談に対しては、まずは親身に話を聞く姿勢をもって、被害社員が心を開いて話をしやすい環境を作ることが不可欠です
もっとも、過度な感情移入や一方的な肩入れは、先入観となって、その後の対処を誤ることにも繋がりかねません。特に、被害を申告する社員は感情に囚われていることが多いため、ヒアリングを行う側の対応としては、5W1H(誰が、いつ、どこで、何を、どのように、どうしたか)という客観的な事実関係を、時系列に沿って確認する必要があります
では、直接被害にあった社員ではなく、その周囲の社員からの報告であればそのまま信用できるかといえば、必ずしもそうではありません。この場合にも、申告を行う社員には、「自分が何とかしなくては」という正義感や、被害社員や行為者との人間関係の中で、偏った判断をしてしまっていることが往々にして見受けられます
ヒアリングを行う側の対応としては、この場合も同様に、客観的な事実関係の把握に努めましょう。

2−2 動かざる証拠の収集

人の話はとても曖昧なもので、常に誤りが生じる可能性をはらんでいます。
これは、必ずしも積極的に虚偽を述べる場合だけでなく、同じ出来事についても、知覚する過程での誤り(見間違い、聞き間違い)、記憶する過程での誤り(記憶違い)、事実を伝える際の誤り(言い間違い)など、様々な誤謬が介在する可能性があるということです。
そのため、ハラスメントの相談を受けた際にも、話を聞くだけではなく、裏付けとなる客観的な証拠もあわせて確認するようにしましょう
具体的には、「休日にもしつこく食事に誘ってくる」というセクハラの相談に対しては、誘いのメール、メモ、写真等が残っている可能性がありますし、「長時間にわたり延々と怒鳴られる」というパワハラの申告であれば、録音や、場所によっては防犯カメラ映像にその様子が残っていることもあります。
このような客観的な証拠があれば、行為者への事情聴取における言い逃れの余地をなくし、適正に処分を行うことが可能となります。

2−3 プライバシーへの配慮等

被害社員からのヒアリングにあたっては、プライバシー保護に万全を期することも重要となります
まず、報復などを恐れて匿名を希望する人もいますので、調査にあたり匿名で行うことを希望するかの意向を確認するようにしましょう
また、特にセクハラの場合、被害にあっていること自体を隠しておきたいという社員も多くいます。万が一、被害社員から聞き取った内容について、本人の意思に反して他の社員に知られることとなった場合、そのこと自体が二次的な被害ともなりかねません。
したがって、聞き取った内容について、どの事実について、どの範囲まで共有して良いかのコンセンサスをきちんと取ることが重要となります
他方で、共有できる情報の範囲が限られる場合、どうしてもその後の調査も限定的とならざるを得ないことは説明しておくべきでしょう。
その他、女性の相談者に対してはヒアリング実施者に女性も加えることを希望するかを確認することや、ヒアリングの実施場所についても出入りを含め他の社員の目に触れない部屋を選ぶことなどの配慮も必要となります

3 事実関係の調査

3-1 記録化の必要性

調査の結果、行為者への処分を行うこととなった場合、その根拠となる証拠を揃えておかなければ、処分自体が違法・無効であるなどとして争われる可能性があります
そのような事態を避けるためにも、被害社員や行為者からのヒアリングについては、必ず聞き取った内容を聴取メモなどに纏めて記録化しましょう。また、当該メモに署名を貰ったり、メールで送信して間違いないかの確認を求めることも重要となります。
可能であれば、了解を得た上で録音を行うことも、有効な記録化の手段といえます。

3-2 行為者へのヒアリング

行為者に対しては、ヒアリングを実施する趣旨や目的をきちんと説明した上で、相談者からの被害申告の内容(但し、匿名を希望している場合など、伝える内容の範囲については上記2-3のとおり注意が必要です。)を伝え、これに対する事実関係の有無を含む言い分を聞きます。
行為者からのヒアリングは、その後に懲戒処分を行う場合の告知弁明の機会となりますので、言いたいことを十分に話させることが重要となります
その際には、被害申告者の言い分と食い違っている点を意識して聞くことで、争点の有無及び内容を明確化することを心掛けましょう。
また、被害社員に対して報復を行う、圧力をかける、その他当該問題について直接交渉することは厳に禁じるようにしましょう。このような行為が予想される場合、調査が終了するまでの間、自宅待機を命じることも検討すべきといえます。

3-3 第三者へのヒアリング

被害申告者と行為者との間で、事実関係の認識に争いがある場合、まずは、客観的な資料から確定できないかを調査します。
もっとも、必ずしも証拠が十分ではないことも往々にしてありますので、この場合には、争いとなっている事実関係について知り得る他の社員(過剰な叱責の現場を目撃していた者、同じようにセクハラを受けていた者など)に対してもヒアリングを実施することとなります。
もっとも、この場合には、当該社員対しても知られてしまうことについて、被害社員のプライバシーの問題が生じます。加えて、当該第三者についても、調査に協力したことにより行為者から報復を受ける事態にもなりかねません
調査対象の範囲を広げる場合には、このような視点を十分にもって臨むことが肝心となります。

4 処分

上記の調査を行った結果としてハラスメントの事実が確認できた場合、行為者に対しては、口頭での注意に加え、注意書や警告文といった書面に残す形で指導を行うことが望ましいといえます。
また、事案の内容によっては、さらに進んで懲戒処分を検討すべきケースもあります。
もっとも、懲戒処分を科すためには、事前に就業規則や懲戒規程などにより懲戒事由とその処分内容を定めておく必要があることに加え、具体的な処分決定にあたっても、過去の同種事例との均衡を欠くなど不合理な処分となっていないかなど、注意すべき点が多数あります。

これらの注意警告や処分を行う際に押さえておくべきポイントについては、次の記事をご参照ください(注意書・警告文のサンプルも掲載しております。)。

 

  • このエントリーをはてなブックマークに追加
  • Pocket

法律相談はこちら

当サイトの記事をお読み頂いても解決できない場合には弁護士にご相談頂いた方がよい可能性があります。

TF法律事務所までお問い合わせください。


メールによる問い合わせ

コメントを残す

ここにテキストを入れてください。
ここにサブテキスト的なものを入れてください。