Xは、一緒にR社を経営してきたYから「取締役を解任した」「Xの代わりにZを取締役に選任して、代表取締役に選任した」と言われました。
中小企業においては、会社経営の方針などに対立が生じ、意見が合わないものを排除しようとすることはよくあることです。
取締役の解任は株主総会決議で行うものですが、その手続が不透明なことなども多いにもかかわず、株主総会で決まったものであるからと考えて、諦めてしまう経営者も多くいます。
相手方が100%株式を保有している場合には、争う余地はありませんがが、100%の株式を保有していない場合には、解任決議が適法に行われていないことも多く、争う余地がある場合も多くあります。
そこで、本記事では、Xが解任された事案を参考に、Xが採り得る対処方法を解説します。
なお、全員が解任された乗っ取り事案については、以下の記事で記載しているので、参考にしてください。
Contents
1 取締役の選任・解任するためには株主総会決議が必要
取締役の選任・解任は株主総会決議でしかできません。
したがって、株主総会決議を経ずに、Xを解任し、Zを取締役に選任していた場合には、無効となります。
そこで、株主総会が適法に開催されているかどうかを確認する必要があります。
会社法339条1項 役員及び会計監査人は、いつでも、株主総会の決議によって解任することができる。
2 相手方が株式を100%保有している場合
YやZが、R社の株式を100%保有している場合には、株主総会招集手続を経ることなく、株主全員で株主総会を適法に開催することができます。
株主総会招集手続を経ることなく、株主総会を成立させる方法については以下の記事を参考にしてください。
したがって、YやZらが100%の株式を保有している場合には、取締役の解任を争うことはできません。
Xは、正当な理由なく解任されたとして、損害賠償請求をすることを検討します。
適法に解任された場合の対処法については、以下の記事を参考してください。
3 相手方が株式を100%保有していない場合
XやXの協力者が株式を保有している場合には、YやZは100%の株式を保有していません。
この場合、株主総会招集手続を省略せずに、株主総会を開催することはできません。そこで、株主総会招集通知が発送されているかどうかを確認します。
招集時期、招集方法等については、こちらの記事を参考にしてください。
3-1 株主総会招集通知が発送されていた場合
適法に株主総会招集通知が発送されていた場合(議題に「取締役の解任」「取締役の選任」が記載されていることが前提となります)には、Yらが過半数の株式を保有している限り、株主総会における解任決議は適法に成立するので、争うことができません。
正当な理由なく解任されたとして、損害賠償請求をすることを検討します。
3-2 株主総会招集通知が発送されていない場合
株主総会招集通知を発送していない場合、株主総会の招集手続を行っていないことになります。
そのため、株主総会自体が開催されていない場合には株主総会不存在、開催されていた場合には、招集通知を経ていないことから、株主総会決議が無効となります。
そこで、株主総会決議が不存在あるいは無効であることを理由に、Xの取締役の地位確認の訴え、Zについては、取締役及び代表取締役の地位不存在の訴えをすることが可能となります。
また、Zが代表取締役として業務を進めないように、Zの職務執行の停止の仮処分・代行者選任の仮処分(会社法352条・917条1号)という措置をとることができます。これによると、Zの職務執行が停止され、代行者(通常は裁判所から選任された弁護士)がR社の業務執行をすることになりますので、Yらは業務執行をすることはできなくなります。
取締役の地位確認の訴え、職務執行停止の仮処分については、以下の記事に記載をしていますので、詳しくはこちらを参考にしてください。
3―3 再度、招集通知を発送して、株主総会決議をした場合
株主総会が適法に開催されておらず、解任は無効であることを主張すると、会社側で対抗策としてよく行われるのが、株主総会招集通知を発送して、再度、株主総会を開催し、Xを解任することです。この場合にはどうなるでしょうか。
判例は、「その決議は、いわゆる全員出席総会においてされたなどの特段の事情がない限り、法律上存在しないものといわざるを得ず、この瑕疵が継続する限り、以後の株主総会において新たに取締役を選任することはできないこととなる」としています。
すなわち、Xを取締役から解任し、Zを取締役に選任した株主総会が違法である以上、その後、違法に選任された取締役で構成される取締役会決議で選任された代表取締役Zが株主総会を開催したとしても、適法な株主総会として成立しないから無効であるという論理です。
簡単に記載すると以下のとおりとなります。
① Xの取締役解任及びZの取締役選任は無効
↓
② Zを取締役会の構成員とする取締役会決議に基づき選任されたZの代表取締役選任は無効(代表取締役の選任は取締役会です)
↓
③ Zが行った株主総会招集通知は、代表取締役が行ったものではないから、これに基づき開催された株主総会は株主総会ではない
したがって、R社が、いくら株主総会決議を行ったとしても、解任を有効にする手段はできなくなります。
なお、判例は、「いわゆる全員出席総会においてされたなどの特段の事情がない限り」と留保をつけています。
これは、原則として後の決議は無効となるが、Xが株主総会に出席して、そこで承認をした場合には、適法に株主総会が成立したのであるから有効になるという趣旨です。
したがって、解任決議を争っているのであれば、Xは株主総会招集通知が送られてきたとしても、株主総会に出席してはいけません。
適法になされた株主総会招集通知ではないので、無視すれば足りることになります。
最高裁判所判決 平成2年4月17日
取締役及び監査役を選任する株主総会決議が存在しないことの確認を求める訴訟の係属中に、後の株主総会決議が適法に行われ、新たに取締役等が選任されたときは、特別の事情のない限り、先の株主総会決議の不存在確認を求める訴えの利益は消滅すると解される。
しかし、取締役を選任する先の株主総会の決議が存在するものとはいえない場合においては、その総会で選任されたと称する取締役によって構成される取締役会の招集決定に基づき右取締役会で選任された代表取締役が招集した後の株主総会において新たに取締役を選任する決議がされたとしても、その決議は、いわゆる全員出席総会においてされたなどの特段の事情がない限り、法律上存在しないものといわざるを得ず、この瑕疵が継続する限り、以後の株主総会において新たに取締役を選任することはできないこととなる
4 まとめ
以上のように、適法に株主総会決議がなされなかった場合には、訴訟で争うことが可能となります。
しかしながら、Xが過半数を超える株式を保有していない以上(保有していれば解任されることはありません)、最終的には取締役を退任する、株式を売却せざるを得なくなります。
株式のシェアが3分の1未満である場合には、スクイーズアウトにより強制的に締め出される可能性もあります。
このような状況から、中小企業において、株主総会決議の適法性を巡って争われる場合、最終的には和解で終了することがほとんどです。
しかしながら、会社側が任期満了までの報酬を支払わない、適正な価格の株式譲渡代金を提示しない場合には、株主総会決議自体を争い、訴訟において解決を図るというのも有効な手段となります。
なお、会社経営に携わりたいのであれば、株式のシェアを過半数もつか、これが難しい場合には株主間で合意をして、事前の対策を採っておくことが必要です。