自社の社員で組織された労働組合がある会社というのは、大企業を除けば、一般的にはそれほど多くありません。そのため、労働組合との団体交渉などは、自社とは関係がないと考えておられる経営者の方も多くおられます。
しかし、労働組合は何も自社の社員で組織されたものに限りません。あなたの会社に労働組合がなかったとしても、社員との間で何らかの労務トラブルとなった場合、社員が、外部の労働組合に相談に行き、突如、そのような労働組合から会社に対して団体交渉の申入れがなされることがあります。このような労働組合は、特定の企業の内部ではなく、一定地域を団結の場として組織された労働組合であり、合同労組・ユニオン等と呼ばれ、企業内組合のない中小企業の社員の駆け込み寺として機能しています。
我々も、ある日突然、合同労組・ユニオンから団体交渉の申入れの書面が届いたとして、経営者の方が慌てて相談に来られ、代理人として交渉に立ち会うことがよくあります。このような書面が突然届けば、身構え、交渉を拒否したいと思うのは当然ですが、これを徒に無視することは不当労働行為としてさらなるトラブルに発展する可能性があります。このような場合、準備をして適切な方法で対応をすることで、紛争を抜本的に解決するチャンスでもあります。
この記事では、外部の合同労組・ユニオンから団体交渉申入れがなされた場合に、どのような準備をして臨み、また、どのようなスタンスで交渉をすべきかについて、ポイントを解説します。ぜひ参考にしてください。
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1、ポイント① 団体交渉申入書に対して即座にこれに応じる旨の回答をしない
合同労組・ユニオンから送付されてくる団体交渉申入書には、日時と場所を予め指定した上で、抽象的な協議事項が記載されていることが一般的です。会社がこれを無視することは、既に述べたとおり、不当労働行為に該当しさらなる紛争化を招く可能性がありますが、かといって、相手方が指定した内容をそのまま受け容れることはしてはなりません。
会社側としては、まず、当該合同労組・ユニオンの情報をインターネット等を通じて把握するとともに、紛争の具体的な事実関係を把握し、これに対する会社の法的見解を整理する必要があります。これらを把握しないまま、団体交渉に臨み、相手のペースに支配されて不利な合意をすることは避けなければなりません。
そのため、まずは、当該組合に対して、事実関係等の把握のためとして、申入書に対する回答期限を一定期間(3週間程度)猶予して欲しい旨の回答をすべきです。また、回答をするに当たっては、簡単なもので構わないので、「回答書」として書面で行い、回答書には今後のやり取りは正確性を期すため、すべて書面で行いたい旨記載しておくべきでしょう。
2、ポイント② 早期に事実関係の把握と会社の法的見解を整理する
上記のとおり、団体交渉申入書に協議事項として記載されている内容は、「組合員●●の雇用契約について」等、抽象的な内容となっていることが多くあります。会社側において、ある程度は想像がつく場合であっても、事前に準備を行うため、書面を送付して、協議事項の具体的内容を明らかにすべきよう求めるべきでしょう。
なお、協議事項の内容は、解雇や雇止めの有効性や未払賃金の請求、職場環境に関して精神的苦痛を受けたことなど、多岐にわたりますが、具体的な事実関係を把握した上で、会社側の法的な主張を整理すべく早期に弁護士に相談をしておくべきでしょう。労働組合との団体交渉の場で、組合側で交渉を担当する者は、通常は労務問題についての高度の専門的な知見を持っています。書面ではなく、そのような相手方との交渉の現場において、即時に会社の立場に立って適切な発言をするには、弁護士を代理人として選任すべき場合が多いと思われます。
3、ポイント③ 団体交渉の進め方について相手方のペースに乗せられない
ポイント①でも述べたとおり、団体交渉申入書において指定された交渉日時が、会社が十分な事前調査をして臨むには不十分な場合には、その旨伝え、回答期限を一定期間(3週間程度)猶予して欲しい旨の回答をすることになります。会社の方で、事前準備が整った段階で、具体的な日時等を指定する回答をすべきことになりますが、その際の留意点は、次の4点です。組合からの団体交渉の申入れを会社が拒絶することは不当労働行為となりますが、会社が団体交渉に応じる限り、以下のようなルールを主導して提案することは問題がありませんし、組合側も慣れていることが多いのでこれに応じることが通常だと思われます。初回の団体交渉について、組合側の求める通りの進め方で開始した場合には、それが労使慣行となったとして、会社にとって必ずしも好ましくない方法で、2回目以降の交渉も進められる可能性があるため、進め方を会社側が主導することは重要です。
- 開催場所は、会社でも組合でもなく、ホテルなどの貸会議室を利用する
- 組合側・会社側それぞれの出席人数について予め上限を設けておく(総務・人事労務担当者数名と弁護士、社労士で合計4~5名程度が通常でしょう)
- 団体交渉を行う時間は、「15時~17時」など、時間を区切る
- 録音は禁止する
4、ポイント④ 団体交渉の場には最終的な決定権限を持つ者は出席しない
団体交渉の場では、社長等、当該労働紛争の解決について最終的な決定権限を持つ者が出席しないということが重要です。最終的な決定権限を持つ者が出席している場合、その場で十分な検討をする間もない状態で最終的な決断を迫られる可能性があるためです。会社としては、もちろん団体交渉に誠実に応じる義務はありますが、検討不十分な状況で妥結することは避けなければなりません。
また、交渉を重ねた結果、最終的に組合側の提示した合意内容について、会社側がどうしても応じることが難しいものであった場合、これに応じる義務はありません。会社として、誠実に対応していても、無理難題が提案されることはよくあります。このような場合は、会社としては、訴訟や労働審判などの裁判所の手続が申し立てられるのを座視するのではなく、各都道府県の労働委員会に労働紛争のあっせん手続の申請をすることも考えられます。これまで当事者間のみの団体交渉では合理的な解決が図れなかった事例であっても、あっせんの手続であれば、中立的なあっせん員が関与し、和解による解決を目指すことになるため、訴訟等に発展する前に妥結をすることができる可能性も十分あります。