会社法務

役員の報酬を業績に連動させて出す方法|譲渡制限付き株式(日本版リストリクテッドストック)の活用

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 「日本版リストリクテッド・ストック」という言葉を聞いたことはありませんか?新しいタイプの役員報酬として、平成28年から導入可能となったものです。いわゆる業績連動型の役員報酬の一種で、これを上手く活用することで、役員にとって会社の業績を上げるインセンティブとなり、中長期的な会社の成長につながることが期待できます。

 とはいえ、新しい制度ですから、よく分からないという方も多いと思います。そこで、今回は、日本版リストリクテッド・ストックと、その導入に当たっての留意点について、概要を解説します。

 

1、役員報酬としてのリストリクテッド・ストックとは何か

 リストリクテッド・ストックとは、譲渡制限付株式、すなわち、譲渡が制限される株式のことです。

 一定期間譲渡が制限され、その期間が経過した後は譲渡が可能となる株式を、役員に対する報酬として支給することにすれば、会社の業績が上がれば株価も上がり、高値で売却できますから、支給を受けた役員としては、会社の業績を上げるよう努める動機付けとなって、業績連動型の役員報酬として機能することになります。

 

2、導入の背景

 このように、リストリクテッド・ストックは業績連動型の役員報酬として活用できるものであり、欧米では以前から存在しましたが、日本では、会社法との関係で違法となる可能性が指摘され、また、支給を受けた側の所得税や支給した側の法人税の取扱いも整理されておらず、導入することができませんでした。

 今般、会社法の解釈として違法ではないと考えられることが整理され、また、平成28年の税法の改正により、税法上の取扱いも整理されたことにより、いわば日本版リストリクテッド・ストックとして、譲渡制限付株式の役員報酬が導入可能となったのです。

 

3、日本版リストリクテッド・ストックの基本的な仕組み

 まず、会社は役員に対して、一旦、確定した金額での金銭の報酬債権を付与します。そして、その金銭報酬債権の現物出資を受けることにより、特定譲渡制限付株式を交付するという構成となります。

 特定譲渡制限付株式の交付を受ける役員に対する所得課税について、その時期は、上記の金銭報酬債権の付与の時ではなく、この債権と引き換えに交付を受けた特定譲渡制限付株式の譲渡制限が解除された時となります。そして、その金額は、その譲渡制限解除日におけるその株式の時価となります。

 特定譲渡制限付株式を交付する会社の側の法人課税については、法人税法上の「事前確定届出給与」として支給することにより、役員に給与等の課税事由が生じた日、すなわち、特定譲渡制限付株式の譲渡制限が解除された日の属する事業年度に損金算入が認められます。損金算入額は、その株式の時価ではなく、その役員により現物出資された報酬債権の額となります。

 これが日本版リストリクテッド・ストックの基本的な仕組みです。では、どのようなものが「特定譲渡制限付株式」に当たるのでしょうか。また、どのような場合に、法人税法上の「事前確定届出給与」として認められるのでしょうか。それを次に見ていきます。

 

4、特定譲渡制限付株式とは

1、譲渡制限付株式とは

 譲渡制限付株式とは、次の2つの要件を満たす株式をいいます(所得税法施行令84条1項、法人税法施行令111条の2第2項)。

① 一定期間の譲渡制限が設けられている株式であること

② 法人により無償取得される事由(無償取得事由)が定められている株式であること

2、特定譲渡制限付株式とは

 特定譲渡制限付株式とは、「譲渡制限付株式」のうち、次のものをいいます(所得税法施行令84条1項、法人税法54条1項)。

付与対象となる個人に対する報酬債権と引き換えに交付される株式

 付与対象となるのは個人となりますので、執行役員への付与も可能です。

3、株式

 譲渡制限は、付与対象者である役員と会社との間の契約上の制限で足り、種類株式を発行しなければならないわけではありません。よって、普通株式でも、特定譲渡制限付株式とすることができます。その場合には、譲渡制限を確保する方法を検討する必要があります。具体的には、特定譲渡制限付株式の交付時に役員との間で締結する割当契約において、譲渡制限と、会社指定の証券口座による管理義務を定め、当該証券口座の株式は会社から譲渡制限解除の通知があったものに限って当該役員の別の証券口座に振替が可能という対応をすることが考えられます。

 なお、普通株式を用いる場合、付与された役員は、譲渡制限期間中であっても、議決権を行使することができ、配当を受けることができます。

 株式は、新株を発行するほか、自己株式の処分によることも可能です。また、役務提供を受ける法人自身の株式のみならず、その法人の直接かつ完全親法人の株式とすることも可能です。この場合には、子会社において子会社役員に対して金銭報酬債権を付与した上で、当該役員が当該債権を親会社に対して現物出資することや、親会社が当該債権の債務引受けを行い親会社への債権たる当該債権を現物出資することにより、株式の割当てを受けるという整理となります。

4、無償取得事由

 無償取得事由は、次の2つの事由であることが求められますが、これらに付加した無償取得事由を定めることは可能です。無償取得事由も、契約において規定することで足り、株式の内容として定款に規定しなければならないわけではありません。

① 当該個人の勤務の状況に基づく事由

・ 交付を受けた個人が譲渡制限期間内の所定の期間勤務を継続(子会社を含めることも可能)しないこと

・ 交付を受けた個人の勤務実績が良好でないこと など

② 法人の業績等の指標の状況に基づく事由

・ 法人の業績があらかじめ定めた基準(株主総利回り、自己資本利益率など)に達しないこと など

● これらに付加した事由

・ 組織再編の際に無償取得すること など

 

5、事前確定届出給与として支給する方法

1、事前確定届出給与

 特定譲渡制限付株式が法人税法上の「事前確定届出給与」と認められるための主な要件は、次のとおりです(法人税法施行令69条2項)。この要件を満たす場合には、事前の「届出」は不要となります(法人税法34条1項2号)。

① 職務執行開始日から1か月を経過する日までに、株主総会等(株主総会の委任を受けた取締役会を含む)において、対象となる役員毎に、その職務執行期間に係る報酬債権の額が確定していること

② 上記①に係る決議からさらに1か月を経過する日までに、当該役員によるその報酬債権の現物出資と引換えに特定譲渡制限付株式が交付されること

 特定譲渡制限付株式を執行役員に付与する場合、当該執行役員が法人税法上のみなし役員(法人税法2条15号、法人税法施行令7条1号)に該当する場合には、損金算入が認められるようにするには、上記の要件を満たすようにする必要があります。他方、みなし役員に該当しない場合には、法人税法上は使用人に対する賞与となり、譲渡制限解除時に損金算入が認められます。

2、職務執行開始日

 原則として、定時株主総会の日となります。

 また、発行決議において有利発行となることを避ける観点から、発行決議の前日の終値を基礎に定める1株当たりの払込金額と、現物出資に充てるべき確定額の金銭報酬債権を同時に定めることが求められ、上記の①と②の決議は同時に行うことになると考えられています。

3、職務執行期間

 特定譲渡制限付株式は、「将来の役務の提供」の対価として付与されるものに限定されているため、交付の前年度の業績に基づいて前事業年度の報酬として付与するような場合には、特定譲渡制限付株式の要件を満たさないことになります。

 

6、税務上の取扱い

1、支給を受ける役員の所得税

 特定譲渡制限付株式の交付を受ける役員に対する所得課税は、特定譲渡制限付株式の譲渡制限が解除された日に、その日におけるその株式の時価で、給与等とされます(所得税法36条2項、所得税法施行令84条1項)。

 役員は会社に対し源泉徴収相当額を支払う必要がありますが(所得税法222条)、譲渡制限解除の時点では役員には現金での収入がありませんので、制度設計において手当てを検討する必要があります。

 また、譲渡制限解除を退職と結び付けることで、退職所得とすることについては、事前確定届出給与として損金算入が認められるためには損金算入の時期(譲渡制限期間の末日)が確定日(●年●月●日など)であることが要求されますので、付与時に退職日が確定日で決まっている場合に限られることになります。

2、支給をする会社の法人税

 法人税法上は、役員に給与等課税事由が生じた日、すなわち、特定譲渡制限付株式の譲渡制限が解除された日の属する事業年度に、その株式の交付と引き換えにその役員により現物出資された報酬債権の額が損金算入されます(法人税法54条1項、法人税法施行令111条の2第5項)。

  会社は、源泉徴収義務を負い、譲渡制限が解除された日の属する月の翌月10日までに源泉税を納付しなければなりません(所得税法183条、199条)。

 

7、上場会社の場合の金融商品取引法上の問題

 特定譲渡制限付株式の交付を自己株式の処分により行う場合は、インサイダー取引規制の対象(「売買その他の有償の譲渡若しくは譲受け」、金融商品取引法166条1項)に該当することになりますので、交付時に当該規制に違反する事態とならないように注意する必要があります。譲渡制限解除時に株式を譲渡する場合も同様です。

 また、上場会社の役員は、自社の株式の買付けや売付けに関する報告義務や、その6か月以内の反対売買による獲得利益の提供義務がありますので(金融商品取引法163条、164条)、その点も注意が必要です。

 さらに、特定譲渡制限付株式の交付は、第三者割当として、金融商品取引法上の発行開示が必要となりますので、その点にも注意が必要となります。

 

 今回は、平成28年に新たに導入可能となった日本版リストリクテッド・ストックと、その導入に当たっての留意点について、概要を解説しました。

(2016年12月27日更新)

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