会社法務

【弁護士解説】取締役を解任されそう、解任された場合の対処方法

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取締役として会社に貢献してきたにもかかわらず、突如取締役としての地位を追われてしまうといった事態は、数多く生じています。

我々は、取締役が解任されそうな場合、取締役が解任された場合の相談を多数受けてきました。実際に話を聞いてみると、解任が無効であったり、解任が有効であっても、会社に対し損害賠償請求ができる場面は少なくありません。また、解任に伴い、会社が株式の買い取りを要求してくる場面もよくありますが、会社から提示された金額があまりにも低額である場合も多くあります。

そこで、本記事では、実際に経験をした事案等も踏まえ、取締役を解任されそうな場合、解任された場合の対処方法を解説します。
是非参考にしてください。

取締役を解任する場合の進め方については、下記の記事をご参照ください。

1 取締役の解任とは-退任、辞任の違い

取締役解任とは、会社により任期の途中で、強制的に取締役を辞めさせることをいいます。取締役が自らの意思で辞める辞任、任期満了により辞めることになる退任とは異なります。

会社の社員(従業員)の場合には、強制的に会社を辞めさせる場合(解雇)には、厳格な要件や手続が必要ですが、取締役の場合には、株主総会決議があれば、自由に強制的に辞めさせること、すなわち、解任をすることができます。

2 取締役を解任する方法

取締役を解任する方法は、会社法に定めがあり、原則として、株主総会の決議をする必要があります(会社法339条1項)。

すなわち、50%を上回る議決権を有する株主が出席し、出席した株主の過半数が、取締役の解任に賛成すれば、取締役は解任されることになります。
したがって、解任しようとしている側が、50%を超える会社の株式(議決権)をコントロールできるのであれば、取締役をいつでも解任することができます。
取締役の解任において、取締役の能力が不足しているとか、職務怠慢があったなどの理由は必要ありません。
いくら会社に貢献していたとしても、株主の意向により取締役を解任することはできます。
しかし、「正当な理由」がないのに取締役を解任すれば、会社は損害賠償責任を負うことになります。

第339条

1項 役員及び会計監査人は、いつでも、株主総会の決議によって解任することができる。
2項 前項の規定により解任された者は、その解任について正当な理由がある場合を除き、株式会社に対し、解任によって生じた損害の賠償を請求することができる。

以上をまとめると以下のとおりとなります。

会社は、株主総会決議(株主の過半数)で取締役を自由に解任することができる
・ただし、正当な理由がないのに解任をした場合には、取締役は会社に対し損害賠償請求をすることができる

それでは、あなたが取締役を解任されそう、取締役を解任された場合、どのような対処法があるでしょうか。

以下では、取締役を解任されそうな場合(まだ解任されていない場合)と取締役が解任された場合(すでに解任されている場合)に分けて説明をします。

すでに取締役を解任された場合には、「4 取締役を解任された場合の対処方法」をご確認ください。

3 取締役を解任されそうな場合の対処法

3-1 解任決議を阻止する

3-1-1 解任しようとしている株主側の保有株式数を確認する

さきほど、株主総会決議で、株主の過半数で取締役を解任することができることを説明しました。

それでは、解任しようとする株主は、株式の過半数を保有しているでしょうか。

中小企業の場合、株式数を適切に管理していない会社が多いのが現状です。
会社の株主名簿や税務申告書に添付されている「同族会社等の判定に関する明細書」には、解任をしようとしている株主が過半数を保有しているように記載されていても、確認したところ、実際の株式数を反映されていない場合も多くあります。

我々が相談をうけた事案でも、株式の変遷を過去に遡って確認をしたところ、解任しようした株主側が株式の過半数を保有していないという事案がありました。
したがって、解任しようとしている株主が、会社の株式の過半数を有していることに疑問がある場合には、本当に株式の過半数を保有しているのかを確認してみるのも1つの手段です。

解任しようとしている株主が、過半数を有していない場合には、株主総会で取締役の解任決議をすることはできません。株主の調査方法の具体例は以下のとおりです。

株主の調査方法

  • 株主名簿や会社の税務申告書の株主欄を過去に遡って確認する
  • 株主の変動があるところについては、実際に株式譲渡がされていたのか、取締役会や株主総会で、株式譲渡の承認手続がされているかを確認する
  • 増資がされていた場合には、増資に関する株主総会手続等が適法にされているか確認する
  • 増資が適法にされていたとして、増資に見合った金額が実際に振り込まれているのか、振り込まれたとして、その金額がすぐに引き出されていて、適法な増資とはなっているかを確認する(振り込んだ金額をすぐに引き出していた場合には、「見せ金」となり無効となる可能性があります)
  • 相続が発生している場合に、遺産分割協議等により、株主が確定しているかを確認する

事案によっては、他にも株主の調査方法はいろいろとありますが、過去に遡って調査をすると、実際には、その株主が過半数を保有していなかったということもあります。

疑問がある場合には、解任しようとする側が、株式を過半数を所有しているかどうかを疑い、確認をするのもの1つの手段となります。

3-1-2 名義株であるかどうかを確認する

株主については、実質的に資金を負担した者が株主とするというの判例です(最高裁判所昭和42年11月17日第二小法廷判決)。

たとえば、株主名簿や会社の税務申告書の株主欄に、株主として「B」の名前が記載されていたとしても、「B」は実際には、資金負担をしていなく、実際に資金負担をしたのが「A」であった場合には、Aが株主になるというのが判例の考え方です。

そのため、解任しようとする側の株主の名前が株主名簿上に記載されていたとしても、例えば、あなたが資金負担者であれば、あなたが株主であり、株主権を争うことが可能となります。
この場合、自分が株主であることを主張し、解任決議を争うことが可能となります。

最高裁判所昭和42年11月17日第二小法廷判決・民集21巻9号2448頁

他人の承諾を得てその名義を用い株式を引き受けた場合においては,名義人すなわち名義貸与者ではなく,実質上の引受人すなわち名義借用者がその株主となる。

3-2 損害賠償請求の予告

解任しようとする側が、株式の過半数を所有していることに疑義がない場合には、株主総会決議によって、取締役をいつでも解任することができることになります。

この場合、取締役の解任に「正当な理由」がないことを理由に、会社に対して損害賠償請求をするになります。
会社に対して請求することのできる金額は、原則として残存任期中に得られるはずであった報酬相当額となります(大阪高判昭和56年1月30日)ので、残存任期が長く残っている場合、多額の損害賠償請求が認められる可能性があります。
したがって、会社が取締役を解任しようとする場合には、損害賠償請求をする旨の通知をしたうえで、以下の対応を求めることを考えます。

  • 会社と交渉をして、解任することを諦めてもうらう
  • 会社と交渉をして、退職金の請求や株式の買い取り請求を行うなど有利な条件を引き出す

大阪高判昭和56年1月30日
被控訴人は、常勤の取締役として働き、控訴人から受けた報酬、、賞与を主な生活収入としてきたところ、商法二五七条一項但し書にいう損害賠償責任は、取締役を正当な事由なく解任したことについて故意、過失を必要としない株式会社に課された法定の責任であつて、その損害の範囲は、取締役を解任されなければ残存任期期間中と任期満了時に得べかりし利益(所得)の喪失による損害を指すものと解するのが相当である。

4 取締役を解任された場合の対処方法

4-1 取締役の解任決議を争う

4-1-1 株主権に争いがある場合

解任した側の株主が過半数を有しているかどうかに疑義があるにもかかわらず、強行に株主総会決議をして、取締役を解任することはよくあることです。

このような場合には、株主総会の解任決議が無効であるとして、株主総会決議無効の訴えをするとともに、取締役の地位を仮に定める仮処分という申し立てをすることを検討します。

本来、解任された取締役は、株主総会決議無効の訴えを提起し勝訴判決を得て、取締役の解任を無効とし、取締役に復帰するというのが原則です。しかしながら、判決を得るまでには相当な期間がかかり、その間、会社は、取締役としての復帰を認めません。
そこで、(判決で)株主総会決議が無効となる可能性が高いという場合に、判決が出る前であっても、「仮に」その者が法的に取締役の地位にあるものとして扱われるということを認めてもらうための制度が仮処分です。

仮処分について、簡単に説明をしますと、役員の地位を仮に定める仮処分は、民事保全法上の「仮の地位を定める仮処分」(民事保全法23条2項)を活用した救済手続です。
仮の地位を定める仮処分命令が発令されるためには、(1)被保全権利の存在と(2)保全の必要性が必要です(民事保全法13条)。
まず、被保全権利としては、取締役の地位を仮に定める仮処分の場合は、例えば、以下の訴えが考えられます。

  • 新たに選任された取締役についての取締役の地位不存在確認の訴え
  • 解任された取締役についての取締役の地位確認の訴え
  • 取締役解任の株主総会決議取消しの訴え、不存在・無効確認の訴え
  • 新取締役の取締役選任の株主総会決議取消しの訴え、不存在・無効確認の訴え
  • 新代表取締役選定の取締役会決議の不存在・無効確認の訴え

次に、保全の必要性についてですが、被保全権利の存在が明白であり、かつ解任された取締役に損害が発生するとしても、会社に損害が発生しない以上、仮処分命令を発令することはできないと解されています(東京高決昭和52年11月8日判時878号100頁等参照)。

したがって、解任された取締役としては、会社の信用が解任された取締役個人の信用に依存していること、新取締役に経営能力がないこと、新取締役が会社の財産を自己の利益のために費消するおそれがあること等を具体的に主張し、疎明することが必要になります。

4-1-2 株主権に争いがない場合

株主権に争いがない場合であっても、適法に株主総会が開催されていなければ、解任決議を争うことができます。
株主総会の「招集手続」が法令・定款に違反がある場合、解任決議を行った株主総会決議の取消しの訴えをすることができます。

また、株主総会が取消されるものとして、取締役の地位を仮に定める仮処分という申し立てをすることも検討します。

仮処分の内容のについては、先ほど説明をしたとおりです。

また、訴訟の詳細については、以下の記事で記載をしてますので、こちらを参考にしてください。

4-2 損害賠償請求

株主総会決議を争うことができない、あるいは争うことにメリットがない場合には、会社に対する損害賠償を検討することになります。

すでに説明したとおり、会社は、50%を上回る議決権を有する株主が出席し、出席した株主の過半数が取締役の解任に賛成すれば、取締役をいつでも解任することができますが、「正当な理由」がない場合、解任された取締役は会社に対して損害賠償請求をすることが可能となります(会社法339条2項)。

会社に対して請求することのできる金額は、原則として残存任期中に得られるはずであった報酬相当額となります(大阪高判昭和56年1月30日)。

第339条1項 役員及び会計監査人は、いつでも、株主総会の決議によって解任することができる。
2項 解任された者は、その解任について正当な理由がある場合を除き、株式会社に対し、解任によって生じた損害の賠償を請求することができる。

大阪高判昭和56年1月30日
被控訴人は、常勤の取締役として働き、控訴人から受けた報酬、、賞与を主な生活収入としてきたところ、商法二五七条一項但し書にいう損害賠償責任は、取締役を正当な事由なく解任したことについて故意、過失を必要としない株式会社に課された法定の責任であつて、その損害の範囲は、取締役を解任されなければ残存任期期間中と任期満了時に得べかりし利益(所得)の喪失による損害を指すものと解するのが相当である。

そのため、残存任期が長く残っている場合、多額の損害賠償請求が認められる可能性があります。
どのような場合が「正当な理由」があると判断されるのかについては下記の記事を参考にしてください。

4-3 退職金の請求

取締役を解任された場合、会社は、取締役が解任されたことを理由に退職金を支給しないという場合がよくあります。
しかし、退職金規定に取締役解任時は退職金を支給しない旨の規定があったとしても、解任が無効であれば退職金を請求できる可能性があります。
退職金を請求する際の留意点については、下記の記事を参考にしてください。

4-4 株式買取請求

中小企業等では取締役が株式の一部を保有していることが少なくありません。
そのため、会社の株式を保有する取締役が会社をやめる場合、会社や他の株主から、当該株式の買取りを求められることがあります。
仮に、会社が大幅な債務超過である場合や毎年赤字を計上しているような場合であれば、株式に価値がつかないといったこともありうるところですが、一定の純資産が計上されているようであれば、株式には一定の価値が認めれるため、適正な価格で買い取ってもらうことを検討することとなります。

会社や他の株主に対し、適正な価格で買い取ってもらう方法については、下記の記事を参考にしてください。

 

4-5 事前準備

以上のとおり、取締役が解任された場合には、
しかし、一度会社から出てしてしまうと、なかなか証拠の収集ができないというのが通常です。
そのため、取締役を解任された後に紛争になることに備え、予め集めておきたいものを下記にまとめましたので参考にしてください。

  • 定款
  • 退職金支給規定
  • 取締役会議事録(解任決議の招集に関するもの)
  • 株主総会議事録(解任決議がなされた際のもの)
  • 解任事由に関係のあるもの
    例)業績不振⇒担当している業務の業績に関する資料

 

 

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