会社法務

スクイーズアウトへの対抗方法を解説ー安易に妥協しない

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あなたが出資した会社において、株主同士の関係がうまくいっているうちはよいのですが、必ずしもそれが続くとは限りません。我々は、創業者とその他の株主で対立が生じ、支配権を巡る争いにより、内紛状態となった会社を何度もみてきました。

もしあなたが、会社の発行する株式のうち少数しか保有していない株主であり、多数派株主との間で意見が相違したような場合には、意に沿わない少数株主として、会社から締め出されてしまうかもしれません。このように、他の株主の意思にかかわらず、強制的にこれを締め出すことを、「スクイーズアウト」あるいは「キャッシュアウト」と呼ぶことがあります。

スクイーズアウトには、株式併合や株式売渡請求を用いた方法がありますが、それらの具体的手続や内容については、以下の記事を参考にしてみてください。

 本記事では、そのような会社(非上場会社であることを念頭に置いています。)のトラブルに巻き込まれたあなたのために、スクイーズアウトへの対抗手段を説明します。

 正しい知識を持てば、スクイーズアウトをされたとしても、株式を安く買いたたかれることはなくなります。

1 株式併合を用いたスクイーズアウトへの対抗手段

1-1 はじめに

 株式の併合とは、数個の株式を合わせて、それよりも少数の株式にすることであり、すべての株主の保有株式数を一律に減少させることになります(会社法180条1項)。

 例えば、500株を1株に併合する場合、4000株保有する株主は8株となりますが、300株しか保有しない株主は0.6株となってしまいます。

 このように1株に満たない端数が生じた場合、これを会社が強制的に買い取ることもできます(会社法234条、235条)。すると、あなたは、端数の株式すら保有することができず、スクイーズアウトが完成してしまうのです。

株式の併合によるスクイーズアウトは、端数株式を生じさせ、株主としての地位を失わせるドラスティックな手続です。

そのため、これにより不利益を受ける少数株主には、会社法上の対抗手段として、以下の手段が定められています。

①反対株主による株式買取請求

②株主総会決議取消・無効確認の訴え

③株式併合の差止請求

1-2 反対株主の株式買取請求

 株式の併合により1株未満の端数が生じる場合、その株式併合に反対の株主は、会社に対し、自己の有する株式のうち1株に満たない端数となるものの全部を公正な価格で買い取ることを請求できます(会社法182条の4第1項)。

会社が、株式の併合をしようとする場合、その都度、株主総会決議を実施する必要があるのですが(会社法180条2項、309条2項4号)、株式買取請求権を行使するためには、その株主総会に先立ち株式併合に反対する旨を会社に通知し、かつ株主総会において決議に反対しなければなりません(会社法182条の4第2項1号)。

また、株主総会決議では、株式合併の効力を生じる日(効力発生日)が定められるのですが、株式買取請求は、効力発生日の20日前から効力発生日の前日までの間に行う必要がありますので(会社法182条の4第4項)、注意が必要です。

株式の価格の決定については、株式買取請求を行った後、まず会社と協議を行い、協議が整えば、その支払を受けることになりますし(会社法182条の5第1項)、もし協議が整わないようであれば、裁判所に対し、価格決定の申立てをするという流れになります(会社法182条の5第2項)。

会社法182条の4第1項 株式会社が株式の併合をすることにより株式の数に一株に満たない端数が生ずる場合には、反対株主は、当該株式会社に対し、自己の有する株式のうち一株に満たない端数となるものの全部を公正な価格で買い取ることを請求することができる。

会社法182条の4第2項 前項に規定する「反対株主」とは、次に掲げる株主をいう。

同項1号 第百八十条第二項の株主総会に先立って当該株式の併合に反対する旨を当該株式会社に対し通知し、かつ、当該株主総会において当該株式の併合に反対した株主(当該株主総会において議決権を行使することができるものに限る。)

会社法182条の4第4項 第一項の規定による請求(以下この款において「株式買取請求」という。)は、効力発生日の二十日前の日から効力発生日の前日までの間に、その株式買取請求に係る株式の数(種類株式発行会社にあっては、株式の種類及び種類ごとの数)を明らかにしてしなければならない。

会社法182条の5第1項 株式買取請求があった場合において、株式の価格の決定について、株主と株式会社との間に協議が調ったときは、株式会社は、効力発生日から六十日以内にその支払をしなければならない。

会社法182条の5第2項 株式の価格の決定について、効力発生日から三十日以内に協議が調わないときは、株主又は株式会社は、その期間の満了の日後三十日以内に、裁判所に対し、価格の決定の申立てをすることができる。

、新型コロナウィルスの影響で、純資産額が減少している会社も多く、これを機会にスクイーズアウトをして少数株主を安い株式買取価格で排除しようとする会社もあるようです

会社としては、純資産額が減少しているうちに少数株主を排除しようとしていることから、当然、株価は純資産額を基準に算定しています。

しかしながら、裁判例の中には、「純資産方式では株式価値を過小に評価するおそれがある」、純資産方式は「株式価格の最低限を画する機能を有するにとどまる」と指摘する裁判例もあります。

したがって、高く株式を買い取ってもらいたいのであれば、純資産方式で株式の買い取りを請求されても安易に応じず、裁判所に対し価格決定の申立てをすることを検討するのがよいでしょう。

東京高等裁判所決定/平成20年(ラ)第301号

譲渡制限のある非上場会社における当該株式譲渡によって、相手方が会社を完全に支配できることから、当該株式の価格は、純資産方式、収益還元方式を採用して評価すべきであるが、会社が創業してさほど年月が経過しておらず、資産に含み益がある不動産等が存在せず、企業として成長力が大きく、売上が順調に推移し、今後も平成18年3月期、平成19年3月期と同程度の利益が確実に見込まれることを考慮すると、純資産方式では株式価値を過小に評価するおそれがあり、併用することを含め採用するのは相当ではなく、上記収益を基に収益還元方式によって評価するのが相当である。

大阪高等裁判所決定/昭和61年(ラ)第407号

会社の経営支配力を有しない株式の評価にあたっては、純資産方式は株式価格の最低限を画する機能を有するにとどまり、原則的には、配当還元方式によるべきであって、また、配当還元方式の適用に際しては、利益及び配当の増加傾向を予測するゴードン・モデル式によるのが適当である。

1-3 株主総会決議無効確認・取消しの訴え

 株式の併合を行うためには、株主総会決議を経る必要がありますので(会社法180条2項、309条2項4号)、その決議に無効事由や取消事由がある場合には、訴えによって、無効確認や取消しを求めることができます(会社法830条2項、831条1項)。

 無効事由は、決議の内容が法令に違反する場合(会社法830条2項)なのですが、非公開会社のような閉鎖型の会社においては、一般的に少数株主の締出しを目的とした株式併合自体が、多数派株主の権利濫用(民法1条3項)や株主平等原則違反(会社法109条1項)の法令違反を構成する可能性が十分あると考えられます。

 他方、取消事由は、招集手続又は決議の方法が法令・定款に違反する場合や(会社法831条1項1号)、特別利害関係人の議決権行使により著しく不公正な決議がなされた場合です(会社法831条1項3号)。株式併合を決議する株主総会に招集通知漏れがあったり、無効事由同様、多数派株主(特別利害関係人)による少数株主の排除を目的とした株式併合が、これに当たります。

 なお、株主総会決議取消の訴えは、株主総会決議の日から3か月以内に提起しなければいけませんので(会社法831条1項)、注意が必要です。

会社法830条2項 株主総会等の決議については、決議の内容が法令に違反することを理由として、決議が無効であることの確認を、訴えをもって請求することができる。

会社法831条1項 次の各号に掲げる場合には、株主等(当該各号の株主総会等が創立総会又は種類創立総会である場合にあっては、株主等、設立時株主、設立時取締役又は設立時監査役)は、株主総会等の決議の日から三箇月以内に、訴えをもって当該決議の取消しを請求することができる。当該決議の取消しにより株主(当該決議が創立総会の決議である場合にあっては、設立時株主)又は取締役(監査等委員会設置会社にあっては、監査等委員である取締役又はそれ以外の取締役。以下この項において同じ。)、監査役若しくは清算人(当該決議が株主総会又は種類株主総会の決議である場合にあっては第三百四十六条第一項(第四百七十九条第四項において準用する場合を含む。)の規定により取締役、監査役又は清算人としての権利義務を有する者を含み、当該決議が創立総会又は種類創立総会の決議である場合にあっては設立時取締役(設立しようとする株式会社が監査等委員会設置会社である場合にあっては、設立時監査等委員である設立時取締役又はそれ以外の設立時取締役)又は設立時監査役を含む。)となる者も、同様とする。

同項1号 株主総会等の招集の手続又は決議の方法が法令若しくは定款に違反し、又は著しく不公正なとき。

同項3号 株主総会等の決議について特別の利害関係を有する者が議決権を行使したことによって、著しく不当な決議がされたとき。

1-4 株式併合の差止請求

株式の併合が法令・定款に違反する場合において、株主が不利益を受けるおそれがあるときは、会社に対し、株式の併合をやめること(差止め)を請求することができます(会社法182条の3)。

 法令・定款違反の例としては、株式併合を決議する株主総会に無効事由や取消事由がある場合のほか、会社は、株式合併がその効力を生じる日(効力発生日)の20日前までに、株主総会決議で定めた事項を株主に通知又は公告しなければいけませんので(会社法182条の4第3項、181条1項及び2項)、そのような通知等に不備がある場合などが挙げられます。

株式併合の差止請求は、効力発生日までに行わなければ意味がなくなってしまいますので、通常は、裁判所に対し、簡易迅速な判断が得られる、仮処分と呼ばれる暫定的措置を申し立てることになります。

会社法182条の3 株式の併合が法令又は定款に違反する場合において、株主が不利益を受けるおそれがあるときは、株主は、株式会社に対し、当該株式の併合をやめることを請求することができる。

会社法182条の4第3項 株式会社が株式の併合をする場合における株主に対する通知についての第百八十一条第一項の規定の適用については、同項中「二週間」とあるのは、「二十日」とする。

会社法181条1項 株式会社は、効力発生日の二週間前までに、株主(種類株式発行会社にあっては、前条第二項第三号の種類の種類株主。以下この款において同じ。)及びその登録株式質権者に対し、同項各号に掲げる事項を通知しなければならない。

会社法181条2項 前項の規定による通知は、公告をもってこれに代えることができる。

2 株式売渡請求を用いたスクイーズアウトへの対抗手段

2-1 はじめに 

 株式併合の場合、株式の併合を行う主体は会社であり、締め出される株主から株式を買い取るのも会社でした。

 しかし、株式売渡請求(会社法179条1項)の場合、手続を進めるのも、株式を買い取るのも、90%以上の株式を保有している株主が主体となります。

 そのような株主を特別支配株主といい、その他の株主を売渡株主というのですが、特定支配株主は、適正な価格を提示し、かつ会社法に定める手続に従って進める限り、売渡株主が望んでいなくても、強制的に株式を取得することができます。これによりスクイーズアウトが完成してしまうのです。

株式売渡請求によるスクイーズアウトは、株式併合同様、株主としての地位を失わせるドラスティックな手続です。

そのため、これにより不利益を受ける少数株主には、会社法上の対抗手段として、以下の手続が定められています。

①売買価格決定の申立て

②取得無効の訴え

③取得の差止請求

2-2 売買価格決定の申立て

 株式売渡請求があった場合には、売渡株主は、裁判所に対し、自己の有する株式の売買価格決定を申し立てることができます(会社法179条の8第1項)。

 特別支配株主が売渡請求をする場合、売渡株主に対して株式の対価として交付する金銭の額や、株式を取得する日(取得日)等を会社に通知し(会社法179条の3第1項、179条の2)、会社の承認を得ることになるのですが(会社法179条の3第3項)、売買価格決定の申立ては、取得日の20日前から所得日の前日までの間に行う必要がありますので(会社法179条の8第1項)、注意が必要です。

 売買価格決定の申立ては、売渡株主に対する公正な対価の支払を保障するための救済措置であり、裁判所が価格を決定した場合、特定支配株主は、その価格に対する取得日後の法定利率(年3%)の利率により算定した利息も支払わなければいけません(会社法179条の8第2項)。

 株価算定の考え方は、株式併合の際に記載したものと同様になります。

会社法179条の8第1項 株式等売渡請求があった場合には、売渡株主等は、取得日の二十日前の日から取得日の前日までの間に、裁判所に対し、その有する売渡株式等の売買価格の決定の申立てをすることができる。

会社法179条の8第2項 特別支配株主は、裁判所の決定した売買価格に対する取得日後の法定利率による利息をも支払わなければならない。

 

2-3 取得無効の訴え

 違法な株式売渡請求により株式の取得が行われた場合、訴えによって、取得の無効を求めることができます(会社法846条の2第1項)。

 無効原因については、対価の著しい不当や、会社の承認過程に不備がある場合のほか、少数株主の締出し目的の不当も、これに当たる可能性が十分考えられます。

非公開会社における取得無効の訴えは、株式を取得する日(取得日)から1年以内に提起しなければいけませんので(会社法846条の2第1項)、注意が必要です。

会社法846条の2第1項 株式等売渡請求に係る売渡株式等の全部の取得の無効は、取得日(第百七十九条の二第一項第五号に規定する取得日をいう。以下この条において同じ。)から六箇月以内(対象会社が公開会社でない場合にあっては、当該取得日から一年以内)に、訴えをもってのみ主張することができる。

2-4 取得の差止請求

 株式売渡請求が法令に違反する場合等において、売渡株主が不利益を受けるおそれがあるときは、特別支配株主に対し、株式の全部の取得をやめること(差止め)を請求することができます(会社法179条の7第1項)。

 差止事由は、対価が著しく不当な場合のほか、非公開会社のような閉鎖型の会社においては、一般的に少数株主の締出しを目的とした不当な特別支配株主の行為についても、多数派株主の権利濫用(民法1条3項)等の法令違反を構成する可能性が十分あると考えられます。

 取得の差止請求は、株式を取得する日(取得日)までに行わなければ意味がなくなってしまいますので、通常は、裁判所に対し、簡易迅速な判断が得られる、仮処分と呼ばれる暫定的措置を申し立てることになります。

会社法179条の7第1項 次に掲げる場合において、売渡株主が不利益を受けるおそれがあるときは、売渡株主は、特別支配株主に対し、株式等売渡請求に係る売渡株式等の全部の取得をやめることを請求することができる。

同項1号 株式売渡請求が法令に違反する場合

同項2号 対象会社が第百七十九条の四第一項第一号(売渡株主に対する通知に係る部分に限る。)又は第百七十九条の五の規定に違反した場合

同項3号 第百七十九条の二第一項第二号又は第三号に掲げる事項が対象会社の財産の状況その他の事情に照らして著しく不当である場合

3 まとめ

会社法が定める内容は難解ですし、「スクイーズアウト」なんて言葉を初めて耳にしたという方もいらっしゃるかと思います。

もし会社や多数派株主とのトラブルに巻き込まれ、どのように対応すればよいか悩んでいるようであれば、手遅れになる前に素早く専門家に相談することが重要ですし、その際には、是非本記事を参考にしてみてください。

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