債権回収

【売掛金回収を徹底解説】売掛金を早期に強制的に回収する方法―少額訴訟編

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 会社を経営していれば、売掛金を有する取引先に対して、たびたび請求書を送付しても、長期間にわたって支払いがなされないという事態に必ず遭遇します。
 このような売掛金の回収に当たっては、【売掛金の回収を徹底解説】売掛金を確実に回収する方法―交渉編で解説したとおり、まずは交渉の上で、支払時期・方法を明確にするとともに、担保の取得や公正証書の作成を検討すべきです。

 もっとも、取引先との交渉が進まず、のらりくらりと支払いを先延ばしにされるということもよくあります。
 そのような場合には、強制的に回収することを検討しなければなりません。売掛金額が大きい場合には、訴訟の提起を検討する必要がありますが、訴訟は費用も時間もかかるため、少額の売掛金の回収には必ずしも適していません。

 そこで、少額の売掛金等を早期に回収する手法として、支払督促と少額訴訟という制度があります。支払督促については、【売掛金回収を徹底解説】売掛金を早期かつ強制的に回収する方法―支払督促編で解説をしました。この記事では、もう一つの少額訴訟について、あなたの会社にとってどのようなメリット・デメリットがあるかを説明し、少額訴訟を利用するのに適するのはどのような場面か、利用するとしてどのような準備をすればよいか解説をします。

1、少額訴訟はどのような場合に使うべきか

1-1 少額訴訟とは

 少額訴訟とは、民事訴訟のうち、60万円以下の金銭の支払いを求める訴えについて、原則として1回の審理で紛争解決を目指す訴訟の制度です(民事訴訟法368条1項、370条1項、374条1項)。

 通常の訴訟の場合、概ね月に1回のペースで、裁判所で審理の期日が開かれ、当事者双方が交互に主張立証を繰り返し、判決が言い渡されるまで1年近くかかることが一般的ですので、少額訴訟制度は、手続を極度に簡素化した訴訟手続ということができます。

民事訴訟法368条1項 簡易裁判所においては、訴訟の目的の価額が六十万円以下の金銭の支払の請求を目的とする訴えについて、少額訴訟による審理及び裁判を求めることができる。ただし、同一の簡易裁判所において同一の年に最高裁判所規則で定める回数を超えてこれを求めることができない。 
民事訴訟法370条1項 少額訴訟においては、特別の事情がある場合を除き、最初にすべき口頭弁論の期日において、審理を完了しなければならない。 
民事訴訟法374条1項 判決の言渡しは、相当でないと認める場合を除き、口頭弁論の終結後直ちにする。 

1-2 少額訴訟のメリット

 少額訴訟のメリットを整理すると、以下のとおりとなります。

  • 1度の期日で解決をすることができ、売掛金回収までの時間がかからない

     少額訴訟の提起から、早ければ1か月前後で判決を得ることができるので、速やかに強制執行に着手できることになります(民事訴訟法3701項、374条1項)。

  • 和解による解決の可能性もある

     裁判所の呼出しにより、相手方を裁判所に引っ張り出し、裁判所の関与の下で、合理的な和解ができる可能性もあります。すなわち、当事者間では話し合いが平行線であったとしても、裁判所が間に入ることで、和解が成立することも期待できます。和解が成立すれば、判決同様に強制執行をすることもできます。

  • 手続が簡易なため、コストを抑えることができる

     通常の訴訟に比べて、訴状等必要書類の準備が容易であり、弁護士に依頼せず、社員に対応を任せることができるので、コストを抑えることができます

1-3 少額訴訟のデメリット

 他方、少額訴訟のデメリットを整理すると、以下のとおりとなります。また、このほかにも、同じ簡易裁判所に提起できる少額訴訟は、1年間に10回までという制限がある点もデメリットと言えます(民事訴訟法368条1項ただし書き)。

  • 60万円を上回る請求をすることができない
    通常の訴訟はもちろん、支払督促の場合であっても、請求することができる金額に上限はありませんが、少額訴訟はその名のとおり、「少額」の請求に限られます。具体的には、60万円以下の請求しかすることができません(民事訴訟法3681項)。
  • 相手方が少額訴訟による決着を望まない場合には、通常の訴訟手続に移行してしまう
    相手方が、少額訴訟による審理を望まない場合、通常の訴訟手続で審理されることになります(民事訴訟法3731項、2項)。

民事訴訟法373条1項 被告は、訴訟を通常の手続に移行させる旨の申述をすることができる。ただし、被告が最初にすべき口頭弁論の期日において弁論をし、又はその期日が終了した後は、この限りでない。 
同条2項 訴訟は、前項の申述があった時に、通常の手続に移行する。 

1-4 少額訴訟を活用すべきなのはどのような場合か?

 少額訴訟は、1回限りの期日で手続が終わってしまうため、事実関係が複雑ではなく、書証(売買契約書、納品書、申込書、受発注書等)が揃っている定型的な請求をするような場合で、とにかく早く判決や和解による解決をしたいときに活用すべきと思います。

 相手方が少額訴訟に反対する場合には、上記のとおり、通常の訴訟手続に移行してしまいますが、相手方が反対するかどうかは、実際に訴訟を提起してみなければわかりません。ただ、筆者の経験では、相手方も弁護士に委任することを避けたがることがあり、少額訴訟に応じる場合も比較的多いように思います。

2、少額訴訟を利用するための具体的な手続

2-1 少額訴訟の提起まで

2-1-1 訴状の作成

 通常の訴訟と同様、少額訴訟においても、訴状を簡易裁判所に提出して訴えを提起することになりますが、単純な事案を想定しているため、事案に応じて定型的に書式が用意されています。

 裁判所ウェブサイト(少額訴訟の訴状等ひな形)から、貸したお金の返還を請求する場合(貸金請求)、売掛金の請求をする場合(売買代金請求)等の類型に応じて、訴状のひな型と記載例がありますので、これをダウンロードして記載例に従って記載をしていきましょう。

2-1-2 少額訴訟の利用に必要な費用

 訴状には、請求金額に応じた印紙を貼る必要があります。必要な印紙の金額については、裁判所ウェブサイト(手数料額早見表)でご確認ください。「訴額等」というのが請求金額であり、例えば、35万円の売掛金を請求する少額訴訟を提起する場合であれば、4000円の印紙が必要となります。

 また、これとは別に、郵券(切手)を同封する必要がありますが、具体的な金額については管轄の裁判所ごとにお問い合わせ頂いたほうがよいでしょう。

2-1-3 添付書類

2-1-3-1 証拠

 少額訴訟制度は、1回限りの審理で手続が終了することが原則であるため、訴状の提出と同時に、必要な証拠をすべて提出しておく必要があります(民事訴訟法3702項)。支払督促の場合には、このような証拠の添付が必要とされないのとは異なります。そのため、事件の類型ごとに、あなたの会社の請求を証明するための証拠のコピーを訴状に添付することになります。

 貸したお金の返還を請求する場合であれば、金銭消費貸借契約書や借用書、領収書等、売掛金の請求であれば、売買契約書や納品書、申込書、受発注の書面(受発注が電子メールの場合には、電子メールをプリントアウトする)等が必要になってきます。

民事訴訟法370条2項当事者は、前項の期日前又はその期日において、すべての攻撃又は防御の方法を提出しなければならない。ただし、口頭弁論が続行されたときは、この限りでない。 

2-1-3-2 資格証明書等

 これらに加えて、あなたの会社の資格証明書(登記事項証明書)1通に加え、相手方(債務者)も法人である場合には、同様に相手方の資格証明書(登記事項証明書)1通も必要となりますので、最寄りの法務局にて入手する必要があります。

 また、少額訴訟のような簡易裁判所の手続の場合、弁護士ではなく、あなたの会社の社員を代理人として出頭させることができますが(民事訴訟法541項ただし書き)、この場合には、代理人許可申請書を事前に提出する必要があります(ひな形は、裁判所ウェブサイト(代理人許可申請書)から利用できます。

2-1-4 少額訴訟

 原則として、相手方(債務者)の住所(法人の場合は登記事項証明書記載の本店所在地)を管轄する簡易裁判所に対して、訴状等を提出します。どの裁判所が管轄を有するかについては、裁判所ウェブサイト(裁判所の管轄区域)で確認ができます。

 また、売掛金の請求や貸金返還請求の場合、あなたの会社の在地を管轄する簡易裁判所にも訴訟を提起できるのが通常です(民事訴訟法51号)。

2-2 少額訴訟を提起した後の流れ

2-2-1 審理の期日

 簡易裁判所が訴状等を受理すると、審理の期日が定められ、相手方に対して訴状の副本等が郵送されます。
 上記のとおり、相手方が異議を述べなければ、期日の当日に判決が出されますし、また、和解が成立することもあります。

2-2-2 判決を得た後

 あなたの会社の言い分を認める判決が出た場合、そこには仮執行宣言というものが付されます。仮執行宣言が付されていると、判決確定前であっても、強制執行に着手することができます
 もっとも、相手方は、判決に不服がある場合には、判決を出した簡易裁判所に対して「異議」を申し立てることができます(民事訴訟法378条1項)。ただ、控訴はできず、「異議」を出したとしても、判決を下した裁判所と同じ裁判所で審理がされることになるので(民事訴訟法379条1項)、一般的には判決が覆る可能性は低いと言えます。

民事訴訟法378条1項 少額訴訟の終局判決に対しては、判決書又は第二百五十四条第二項(第三百七十四条第二項において準用する場合を含む。)の調書の送達を受けた日から二週間の不変期間内に、その判決をした裁判所に異議を申し立てることができる。ただし、その期間前に申し立てた異議の効力を妨げない。 
民事訴訟法379条1項 適法な異議があったときは、訴訟は、口頭弁論の終結前の程度に復する。この場合においては、通常の手続によりその審理及び裁判をする。

 

 

 

 

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