債権回収

【完全ガイド】不動産に対する強制執行

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取引先が売掛金を支払ってくれないため、あなたは裁判を起こし、勝訴判決を得ました。しかし、それでもなお、取引先が売掛金を支払ってくれないという場合があります。

このような場合、強制的に回収する手段としては、直ぐに回収ができる流動資産、すなわち、売掛金や預金などの債権を狙って回収していくのが鉄則です。

しかしながら、売掛金や預金などの差押えができないこともよくあることです。

この場合、取引先が不動産を所有しているのであれば、不動産から強制的に回収するしかありません。

そこで、本記事では、不動産から強制的に回収する方法を説明します。
東京地方裁判所の運用に沿って説明いたします。

資産の調査方法については、以下の記事にも記載をしているので参考にしてください。

 

1 手続の流れ

不動産に対する強制執行(不動産強制競売といいます。)といっても、不動産から債権を回収するというイメージがわかない方もいると思いますので、簡単に不動産強制競売の流れを説明します。

まず、不動産強制競売を行うためには、裁判所に対して、不動産強制競売の申立てを行います。

裁判所が競売開始の決定をすると、対象不動産が差押えられます。

その後、差押えられた不動産は、競売にかけられ売却されます。あなたは、その売却代金から配当を受け、債権の回収に充てるということになります。

図にすると次のとおりです。

裁判所に対する不動産強制競売申立て
     ↓
強制競売開始・対象不動産の差押
     ↓
    競売手続
     ↓
     配当

 

以下では各手続とその準備について詳細に説明します。

2 事前準備

2-1 必要書類等

不動産強制競売の際には以下のものが必要となります。

  1. 債務名義の正本
  2. 送達証明書
  3. 資格証明書
  4. 収入印紙
  5. 郵便切手(82円切手と10円切手で足ります)
  6. 目的不動産の登記事項証明書
  7. 公課証明書
  8. 公図写し
  9. 建物図面
  10. 物件案内図
  11. 対象不動産の所有者に応じた資料
       法人の場合は登記事項証明書
       個人の場合は住民票
  12. 不動産競売の進行に関する照会書

2-2 裁判所に納付する金額

申立ての際には、回収しようとする金額(請求債権額といいます)に応じた予納金(裁判所に納付するお金)が必要となります

予納金の額は以下のとおりです。

請求債権額2000万円未満…………………………60万円
請求債権額2000万円以上5000万円未満……100万円
請求債権額5000万円以上 1億円未満…………150万円
請求債権額 1億円以上………………………………200万円

さらに、対象不動産に差押えがなされると、不動産に差押登記がなされることになります。

そのための登録免許税として、請求債権額の1000分4に相当する額が必要となります。

 

3 裁判所に対する不動産強制競売申立て

不動産強制競売の手続きを開始するためには、裁判所に不動産強制競売の申立てを行う必要があります。

申立書には①債権者及び債務者の氏名・住所、②債務名義の表示、③目的不動産の表示及び強制執行の方法を記載することになります。申立書のサンプルを用意しましたので、是非参考にしてください。

不動産競売申立書記載例

 

4 強制競売開始・対象不動産の差押え

裁判所は、申立てが適法になされていると認められた場合、競売開始決定を行い、不動産を差し押さえる旨の決定を行います(民事執行法45条1項)。
開始決定は債務者に送達され(民事執行法45条2項)、債務者への送達が完了した時、又は対象不動産に対して差押えの登記がなされた時のいずれか早い時期に、差押えの効力が生じます(民事執行法46条1項)。

 

第45条 執行裁判所は、強制競売の手続を開始するには、強制競売の開始決定をし、その開始決定において、債権者のために不動産を差し押さえる旨を宣言しなければならない。
2 前項の開始決定は、債務者に送達しなければならない。

第46条 差押えの効力は、強制競売の開始決定が債務者に送達された時に生ずる。ただし、差押えの登記がその開始決定の送達前にされたときは、登記がされた時に生ずる。

不動産に対して差押えがなされると、債務者は通常の用法を超えた利用をすることができません(民事執行法45条2項)。

つまり、債務者が、差押前から住んでいたり事務所として利用していた場合は、のちに売却され買受人が決まるまで引き続き利用することはできますが、差押えがなされたことを受けて、債務者自身が売却したりすることはできなくなります。
仮に差押え後に債務者が不動産を売却したとしても、競売手続によって売却がなされたときに、債務者から直接買受けた人は不動産の所有権を失います(民事執行法59条2項)。

 

第59条
2 前項の規定により消滅する権利を有する者、差押債権者又は仮差押債権者に対抗することができない不動産に係る権利の取得は、売却によりその効力を失う。

 

5 競売手続

5-1 現況調査・評価

競売を実施するためには、対象不動産の適正な価値を調査し、基準となる価格(売却基準価格といいます。)を決める必要があります。
そこで、裁判所は売却基準額を定めるため、執行官に対し、対象不動産の現況調査を命じ(民事執行法57条1項)、現況調査報告書を提出させます(民事執行法規則29条)。

また、これとは別に評価人を選任し、不動産の評価をさせ(民事執行法58条1項)、評価書を提出させます(民事執行法規則30条)。
裁判所は、評価人の評価を受けて、売却基準額を定めます(民事執行法60条1項)。対象不動産を買おうとする人は、この売却基準額の8割以上の金額(買受可能価格といいます)で買受の申し出をしなければなりません(民事執行法60条1項)。

これにより、せっかく不動産競売の申立てを行っても、適正な価格からは程遠い、二束三文で不動産が売却されてしまう、といった事態を防ぐことができます。

また、裁判所書記官は、現況調査と評価の結果を受けて、対象不動産の権利関係等を記載した物件明細書を作成します(民事執行法62条1項)。

裁判所は以上で説明した①現況調査報告書②評価書③物件明細書(以上3点を「3点セット」といいます。)を裁判所に備置くか、インターネットで閲覧可能な状態にします(民事執行法62条2項、民事執行法規則31条3項)。これは競売への参加を容易するという趣旨に基づくもので、誰でも3点セットの閲覧が可能となっています。

参考:不動産競売物件情報サイト(BIT) http://bit.sikkou.jp/app/top/pt001/h01/

 

第57条 執行裁判所は、執行官に対し、不動産の形状、占有関係その他の現況について調査を命じなければならない。

(規則第29条 執行官は、不動産の現況調査をしたときは、次に掲げる事項を記載した現況調査報告書を所定の日までに執行裁判所に提出しなければならない。)

第58条 執行裁判所は、評価人を選任し、不動産の評価を命じなければならない。

(規則第30条 評価人は、不動産の評価をしたときは、次に掲げる事項を記載した評価書を所定の日までに執行裁判所に提出しなければならない)

第60条 執行裁判所は、評価人の評価に基づいて、不動産の売却の額の基準となるべき価額(以下「売却基準価額」という。)を定めなければならない。

第62条 裁判所書記官は、次に掲げる事項を記載した物件明細書を作成しなければならない。
(中略)
2 裁判所書記官は、前項の物件明細書の写しを執行裁判所に備え置いて一般の閲覧に供し、又は不特定多数の者が当該物件明細書の内容の提供を受けることができるものとして最高裁判所規則で定める措置を講じなければならない。

(規則第31条 
 3 裁判所書記官は、前項の備置き又は措置を実施している期間中、現況調査報告書及び評価書の写しを執行裁判所に備え置いて一般の閲覧に供し、又は当該現況調査報告書及び評価書の内容に係る情報について第一項の措置に準ずる措置を講じなければならない。)

5-2 競売の実施

その後、売却の方法が決められますが、実際の運用では、多くの場合、期間入札という方法によることになります。これは、一定の期間までに買受を希望する人が希望する価格を裁判所に伝えるという方法になります。
裁判所は、期間内に一番高い金額で買受を申し出た者に対して、審査の上、売却許可決定を出します(民事執行法69条)。
この売却決定が確定した後、買受人は指定の期限以内に、裁判所に対して、代金を納付しなければなりません(民事執行法78条1項)。
代金を納付することで、買受人は対象不動産の所有権を取得します(民事執行法79条)。

第69条 執行裁判所は、売却決定期日を開き、売却の許可又は不許可を言い渡さなければならない。

第78条 売却許可決定が確定したときは、買受人は、裁判所書記官の定める期限までに代金を執行裁判所に納付しなければならない。

第79条 買受人は、代金を納付した時に不動産を取得する。
 

6 配当

買受人から売却代金が納付されると、裁判所は配当を実施することになります。ここで注意していただきたい点は、不動産競売を申立てたあなたが、必ず売却代金の全額を債権の回収に充てられるわけではないという点です。

例えば、あなたと似た状況にあった会社があったとしましょう。債務者が売掛金を支払ってくれないために、訴訟等により債務名義を取得した、という状況です。そのような会社が、いざ不動産強制競売を行おうとしたところ、あなたが、すでに不動産強制競売の申立てを行っていた場合、どのようにしたらよいでしょうか。

このような場合に、この会社がもう何もできないという事はありません。競売開始決定によって、対象不動産に差押えの効力が生じた時、配当要求の終期というものが定められます(民事執行法49条1項)。これは、不動産強制競売の申立てを行った債権者以外の債権者が、不動産の売却代金から配当を受けるための手続き(配当要求といいます。)を行うことのできる期間になります。

そのため、上記の例のような会社であっても、配当要求を行う事で、不動産の売却代金から配当を受けることが可能となります。

ただし、虚偽の内容で配当要求がなされることを防ぐため、配当要求をすることができる者は、債務名義を取得している等、一定の者に限られています(民事執行法51条1項)。

また、あなたが不動産強制競売申立てを行う前から、対象不動産に抵当権を設定している債権者(主に取引銀行が想定されます。)がいる場合、その債権者も不動産の売却代金から配当を受けることができます。

つまり、不動産売却代金の配当は、不動産競売を申立てた債権者だけではなく、他の債権者も受けることができるのです。そして、各債権者間での優先順位は、民法等、法律に定められた順位によることになります(民事執行法85条2項)。

したがって、裁判所は不動産の売却代金を各債権者の優先順位に従って交付することになります(民事執行法84条)。

第49条 強制競売の開始決定に係る差押えの効力が生じた場合(その開始決定前に強制競売又は競売の開始決定がある場合を除く。)においては、裁判所書記官は、物件明細書の作成までの手続に要する期間を考慮して、配当要求の終期を定めなければならない。

第51条 第二十五条の規定により強制執行を実施することができる債務名義の正本(以下「執行力のある債務名義の正本」という。)を有する債権者、強制競売の開始決定に係る差押えの登記後に登記された仮差押債権者及び第百八十一条第一項各号に掲げる文書により一般の先取特権を有することを証明した債権者は、配当要求をすることができる。

第84条 執行裁判所は、代金の納付があつた場合には、次項に規定する場合を除き、配当表に基づいて配当を実施しなければならない。

第85条
2 執行裁判所は、前項本文の規定により配当の順位及び額を定める場合には、民法、商法その他の法律の定めるところによらなければならない。

 

 また、ここでいう優先順位は以下のようになります。

 ①不動産強制競売にかかった手続費用
 ②抵当権等によって担保されている債権
 ③一般債権

 ※公租公課がある場合、その優先順位は、法定納期限次第で二番目か三番目となります。

7 不動産強制競売の注意点

以上が不動産強制競売の流れになります。ここで、不動産強制競売の注意点を説明します。

① 時間と費用がかかる点
すでに説明したとおり、予納金と登録免許税の支払いが必要となります。これらの費用は債権執行と比べて高額であり、この後説明する無剰余取消がなされても、大半が返ってきません。
また、上記の手続きが終了するまで、通常6カ月から1年ほど時間がかかってしまいます。この点も債権執行に比べると時間がかかることになります。

② 無剰余取消の危険があること
不動産の売却価格の配当に優先順位があることは説明しました。そのため、裁判所が買受可能金額を定めた時、あなたの債権へ配当が回らないことが明らかになるときがあります。このとき、あなたの利益にならないにもかかわらず、債務者の不動産を強制的に売却することは許されないとして、裁判所は強制執行の手続きを取り消すことになります(民事執行法63条2項)。この取消しのことを無剰余取消といいます。
そのため、事前に対象不動産に抵当権が設定されていないか、設定されているとすれば、担保している債権額と比べて、対象不動産の価値に余剰があるかをよく確認して慎重に判断する必要があります。

 

8 まとめ

いかがでしょうか。

不動産強制競売は、債権回収を行う上で強力な手段ですが、時間、費用がかかる等、注意点も多く、債権回収の手段としては慎重に判断する必要があります。
以上を参考に効果的な債権回収手段を検討していただければと思います。

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