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【民法改正対応】売掛金の時効を絶対に成立させない方法

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 売掛金が回収できずに困っている場合は、「売掛金の時効」に注意が必要です。なぜなら時効が成立してしまえば、それを覆すことが絶対にできなくなってしまうからです。せっかく商品やサービスを提供したのに、代金を回収する権利そのものが消滅してしまうのです。とても納得ができないと思いませんか?売掛金の時効は絶対に成立させてはいけません。

 売掛金の時効を絶対に成立させないためには、次の3つのポイントがとても大切です。

  • 時効の期間を正確に把握すること
  • 時効の完成猶予及び更新を行うこと
  • 時効の成立前に回収に対する手順を追ったアクションを確実に実行すること

  時効の期間を正確に把握して適切なアクション を行う必要があるのです。

 私たち弁護士は、クライアントの売掛金問題に対して以下のような対処を用意してご説明しています。

  • 売掛金の時効に関して、知っておくべき8つのポイント
  • 今すぐできる催告の方法や催告のテンプレート

 あなたの会社で特に長期滞留になっている売掛金や金額大きな売掛金に対する対処の際の参考にしてください。

 なお、民法施行日以前、令和2年(2020年)3月31日までに発生した債権や、原因となる法律行為がされた債権の消滅時効は、原則として改正前の民法が適用されます。こちらに該当する債権の場合については、以下の記事を参考にしてください。

 

1 売掛金の時効期間

売掛金の時効期間は、①権利を行使することができることを知った日から5年間、②権利を行使することができるときから10年間です。

改正前の民法では、取引の内容ごとに消滅時効期間が異なっており、自分が有する債権が何年で時効消滅となるのか分かりづらいところがありました。

改正後の民法では時効期間が統一されて、分かりやすくなっています。

経営者としては、時効期間は、原則として5年と覚えておけばよいでしょう。

(債権等の消滅時効)

第百六十六条  債権は、次に掲げる場合には、時効によって消滅する。

一   債権者が権利を行使することができることを知った時から五年間行使しないとき。

二   権利を行使することができる時から十年間行使しないとき。

2 時効は債務者が時効成立を主張して初めて成立する

 時効は、債務者が「時効である」と主張する(「時効を援用する」といいます。)ことで初めて成立します。そのため万が一、時効の期間が過ぎていても、売掛金を払ってもらうことは特に問題有りません。

 また、時効の期間が過ぎていたとしても、債務について承認をしてもらえば、その後、債務者が時効であると主張することは許されないとするのが判例です。

【最高裁判所判昭和41年4月20日判決】

債務者が、自己の負担する債務について時効が完成したのちに、債権者に対し債務の承認をした以上、時効完成の事実を知らなかつたときでも、爾後その債務についてその完成した消滅時効の援用をすることは許されないものと解するのが相当である。けだし、時効の完成後、債務者が債務の承認をすることは、時効による債務消滅の主張と相容れない行為であり、相手方においても債務者はもはや時効の援用をしない趣旨であると考えるであろうから、その後においては債務者に時効の援用を認めないものと解するのが、信義則に照らし相当であるからである。

 したがって、時効期間が過ぎていたとしても、売掛金を請求し、取引先(債務者)から債務の承認を取りましょう。

 債務の承認を採る方法については、後ほど解説をします。

3 時効はいつから数えればよいのでしょうか?-時効の期間は支払期限の翌日から進行する

 時効の期間は支払期限を過ぎたときから進行します。

 たとえば、あなたの会社が、令和2年4月20日に、コンサルティングサービスをして、その売掛金の支払期限が令和2年6月30日だったとします。この場合、あたなの会社は、令和2年7月1日から権利行使が可能となります。

 したがって、時効が始まるのは令和2年7月1日からとなります。先ほど解説をしたとおり、売掛金の時効は5年なので、令和7年6月30日に時効になります。

4 とにかくまずは時効の完成猶予及び更新をしよう

 時効の完成猶予(改正前の民法では時効の中断といわれていました)すれば、時効の完成が妨げられます。つまり、時効の完成猶予させれば、時効期間は伸びることになります。

 売掛金の時効は5年です。5年間、何もしていないと、売掛金の回収を泣き寝入りするしかなくなります。しかし、時効の完成猶予をすれば、5年経っても時効にはなりません。

 時効の完成猶予をしたうえで、時効を一度リセットすれば(時効の更新といいます)、再度、5年の時効となりますので、時効が伸びることになります。売掛金を諦めずに回収するためには、時効の完成猶予及び更新をさせることが必要です。では、具体的にどのような手続きを行えばよいのでしょうか。

5 時効完成猶予の方法をしっかりと押さえよう

 それでは、時効の完成猶予の方法としては、どのようなものがあるでしょうか。民法では、次の5つの方法が用意されています(民法147条)。

  • 裁判上の請求(147条)
  • 強制執行(148条)
  • 仮差押え又は仮処分(149条)
  • 催告(150条)
  • 協議を行うなう旨の合意(151条)
  • 承認(152条)

 5-1 裁判上の請求

 裁判上の請求とは、文字通り、裁判所に訴訟提起をすることなどがあたります。裁判手続をする必要がありますので、手間もかかりますし、裁判所に納付しなければならない印紙代や、弁護士に依頼をすれば、弁護士費用もかかることになります。

裁判手続をすると、時効の完成は猶予されます。そして、裁判手続で、判決等を取得すると、判決が確定した日から、時効がリセットされ、新たな時効期間が進行することになります。

時効期間がリセットされ、新たに時効期間がスタートすることを時効の更新といいます(時効の更新も民法改正により新設された制度です)

なお、裁判手続に簡易な手続も認められています。簡易な手続の詳細は、以下の記事で詳しく解説をしています。

 

(裁判上の請求等による時効の完成猶予及び更新)

第百四十七条  次に掲げる事由がある場合には、その事由が終了する(確定判決又は確定判決と同一の効力を有するものによって権利が確定することなくその事由が終了した場合にあっては、その終了の時から六箇月を経過する)までの間は、時効は、完成しない。

一  裁判上の請求

二  支払督促

三  民事訴訟法第二百七十五条第一項の和解又は民事調停法(昭和二十六年法律第二百二十二号)若しくは家事事件手続法(平成二十三年法律第五十二号)による調停

四  破産手続参加、再生手続参加又は更生手続参加

2  前項の場合において、確定判決又は確定判決と同一の効力を有するものによって権利が確定したときは、時効は、同項各号に掲げる事由が終了した時から新たにその進行を始める。

5-2 強制執行

強制執行等は、債務名義や担保権に基づき行う裁判上の手続きです。こちらも裁判上の請求と同じく、手間もかかりますし、裁判所に納付する印紙代や弁護士費用もかかることになります。

(強制執行等による時効の完成猶予及び更新)

第百四十八条  次に掲げる事由がある場合には、その事由が終了する(申立ての取下げ又は法律の規定に従わないことによる取消しによってその事由が終了した場合にあっては、その終了の時から六箇月を経過する)までの間は、時効は、完成しない。

一  強制執行

二  担保権の実行

三  民事執行法(昭和五十四年法律第四号)第百九十五条に規定する担保権の実行としての競売の例による競売

四  民事執行法第百九十六条に規定する財産開示手続

2  前項の場合には、時効は、同項各号に掲げる事由が終了した時から新たにその進行を始める。ただし、申立ての取下げ又は法律の規定に従わないことによる取消しによってその事由が終了した場合は、この限りでない。

5-3 仮差押又は仮処分

仮差押又は仮処分についても、裁判所の手続です。裁判上の請求や強制執行と同じく、手間もかかりますし、裁判所に納付する印紙代や弁護士費用もかかることになります。

仮差押又は仮処分においては、時効の更新の規定がありません。これは、仮差押又は仮処分は仮の手続だからです。時効の更新は、裁判上の請求を行い、確定判決等を経たうえでなされることになります。

なお、差押えと仮差押の違い、仮差押により早期に債権を回収する方法については、以下の記事で詳しく解説しています。

(仮差押え等による時効の完成猶予)

第百四十九条  次に掲げる事由がある場合には、その事由が終了した時から六箇月を経過するまでの間は、時効は、完成しない。

一  仮差押え

二  仮処分

5-4 催告

催告とは、裁判上の手続ではなく、たとえば、内容証明郵便により、債務者に対し請求することをいいます。

催告をすることにより、時効期間が6か月伸びることになります。

(催告による時効の完成猶予)

第百五十条  催告があったときは、その時から六箇月を経過するまでの間は、時効は、完成しない。

2   催告によって時効の完成が猶予されている間にされた再度の催告は、前項の規定による時効の完成猶予の効力を有しない。

5-5 協議を行う旨の合意

民法改正により、協議を行うなう旨の合意が整理した場合には、合意があった時から1年間、あるいは1年以内の合意をした場合には、それまでの間、時効は完成しないこととなりました。

この合意は、書面または電磁的記録に作成されたもので足り、署名・押印は必要ないとされています。

たとえば、メールで協議の申し入れがそれに対し、債務者が受託をすれば、協議を行う旨の合意がされたとされます。

(協議を行う旨の合意による時効の完成猶予)

第百五十一条  権利についての協議を行う旨の合意が書面でされたときは、次に掲げる時のいずれか早い時までの間は、時効は、完成しない。

一  その合意があった時から一年を経過した時

二  その合意において当事者が協議を行う期間(一年に満たないものに限る。)を定めたときは、その期間を経過した時

三  当事者の一方から相手方に対して協議の続行を拒絶する旨の通知が書面でされたときは、その通知の時から六箇月を経過した時

2   前項の規定により時効の完成が猶予されている間にされた再度の同項の合意は、同項の規定による時効の完成猶予の効力を有する。ただし、その効力は、時効の完成が猶予されなかったとすれば時効が完成すべき時から通じて五年を超えることができない。

3  催告によって時効の完成が猶予されている間にされた第一項の合意は、同項の規定による時効の完成猶予の効力を有しない。同項の規定により時効の完成が猶予されている間にされた催告についても、同様とする。

4  第一項の合意がその内容を記録した電磁的記録(電子的方式、磁気的方式その他人の知覚によっては認識することができない方式で作られる記録であって、電子計算機による情報処理の用に供されるものをいう。以下同じ。)によってされたときは、その合意は、書面によってされたものとみなして、前三項の規定を適用する。

5  前項の規定は、第一項第三号の通知について準用する。

6 時効を更新させるために、債務者(取引先)の承認を取ろう

 ①裁判上の請求、②強制執行、③仮差押え又は仮処分によって、時効の完成猶予はされますが、裁判所に対する手続きですので、手間もかかりますし、弁護士に依頼する場合には、費用がかかります。また、時効の更新がされるためには、裁判手続をして確定判決等を取得する必要がなってきます。

 これらに比べて、債務者の承認を取るにあたっては、債務者に債務の存在を認めてもらえばよいだけですので、裁判所の手続は不要です。

  • 取引先に、売買代金を請求したら、取引先から、「なんとかお金を準備するので、もうすこし待って欲しい」と言われた場合はどうでしょうか。この場合、取引先は、債務があることを前提に、支払いを待って欲しいと言っているのですから、債務の承認となります。
  • 取引先から、100万円の売買代金のうち、分割で10万円を支払ってもらっていた場合はどうでしょうか。この場合も、取引先は、100万円の債務があることを前提に、分割払をしているのですから、債務の承認となります。

 債務者の承認を取れば、時効はリセット(時効の更新)され、債務の承認のときから、改めて、時効が始まることになります。

(承認による時効の更新)

第百五十二条  時効は、権利の承認があったときは、その時から新たにその進行を始める。

2   前項の承認をするには、相手方の権利についての処分につき行為能力の制限を受けていないこと又は権限があることを要しない。

 したがって、債務者の承認を取ることが一番手間もかからず、手っ取り早いことがお分かりいただけると思います。

 それでは、債務の承認をどのように取ればよいかでしょうか。取引先が債務を承認したと裁判で言っても、証拠がなければ裁判では負けてしまいます。そのため、取引先が債務を承認したことがわかる証拠を作ることが重要です。

 債務の承認の証拠としては、次の3つが証拠としての機能を果たします。

  • 書面
  • メールのやりとり
  • 録音データ

 そして、具体的な内容については取引先から以下の内容を書面又はメール、もしくは録音データで取得してください。

  • 債務があることを認める
  • 債務を分割で支払ってもらう
  • 債務の支払いを猶予してほしい

 書面については、どんな紙でもよいので、「A社は貴社に対し、100万円の債務があります。令和●年●月までに支払います」と記載をしてもらい、代表者から署名、押印をもらえば問題ありません。

 また、メールでのやりとりにおいても、債務を認める旨のメールを引き出せれば問題ありません。

ただし、あなたは、売掛金の回収に困っているでしょうから、取引先にお願いしても記載しえもらえないかもしれません。このような場合には、取引先とのやりとりを録音することで構いません。取引先に電話をして、債務を認めるような発言を録音しておきましょう。たとえば、以下のようなやりとりを録音に残しておきます。

あなた:「1年前に販売させていただいた弊社の商品の代金の入金が確認できていないのですが、弊社からのご請求書は確認していただけておりますでしょうか?」

取引先:「申し訳ありません。来月には支払えると思いますので、もう少し待っていただけないでしょうか」

 取引先の発言は、債務があることを前提の発言ですので、債務の承認にあたります。このように、債務を認める発言を取引先から引き出し、録音しておくことが重要です。

 なお、相手に内緒で録音をして問題ないのかということを心配される方もいるかもしれませんが、民事裁判では、問題なく証拠として使うことができますので、録音を積極的に利用しましょう。録音の機器は、レコーダー、スマートフォンの録音機能を使ったものでも、何でも構いません。

7 債務承認がない場合には、裁判上の手続をするしかない

 債務の承認を取ることがどうしてもできなかった場合には、時効の更新の手段は、裁判所に対する手続きしかありません。

 費用をかけて裁判をする場合、裁判で勝ったとしても取引先に支払い能力がない場合、結局支払ってもらえないという可能性を検討しなければなりません。回収可能かどうかについては、弁護士と相談をしてみるのも一つの手でしょう。

8 時効間近の場合は、催告をすれば6か月の猶予期間ができる

 債務者の承認を取ることができない場合、時効の完成猶予をするためには、上記のとおり、①裁判上の請求、②強制執行、③仮差押え、④協議を行う旨の合意、⑤催告のいずれかが必要となります。

 しかし、たとえば、時効が3日後に迫っていた場合には、裁判上の手続が間に合わないかも知れません。このような場合の救済制度が催告です。

 催告というのは、簡単にいえば、売掛金を支払ってくれと請求をすることです。取引先に対して売掛金を請求すれば、請求した日より6か月間の猶予期間が生じます。たとえば、時効の完成が令和7年6月30日であった場合、令和7年6月25日に、催告をすれば、令和7年12月24日まで、時効が成立しません。その間に、訴訟手続をして、確定判決を取得して、時効の更新をすることが可能となります。

 時効が間近に迫っていた場合でも催告を行えば、6か月の猶予期間ができますので、諦めずに対応しましょう。

 催告の方法としては、必ず内容証明郵便で行うようにしましょう。裁判において、取引先に請求をした、請求をしたことが取引先に届いたということを証明できるようにしておくことが重要です。催告の書面のテンプレートを準備しましたので、こちらを利用して下さい。

催告書テンプレート

 ただし、内容証明郵便による発送をしていたら、時効期間を過ぎてしまい、間に合わない場合には、FAXで送付をして送信履歴を取っておくなども考えられます。

 書面による催告が難しい場合には、電話で催告をして、録音データを証拠として提出するという方法も考えられます。

9 まとめ

 売掛金の時効を絶対に完成させないためには、まず時効の完成猶予及び更新をさせることが必要です。

 時効を猶予・更新をさせるためのポイントは以下のとおりです。

  • 取引先から債務を承認してもらう
  • だめな場合には、裁判手続をする必要がある

 以上を念頭に、売掛金が時効にならないようして、諦めず、粘り強く回収をしましょう。

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