取引先が債権を支払ってくれないので、あなたは業務が忙しいなか、書面作成して裁判所に提出して、判決等を得ました。
しかし、判決等を取得しても、必ずしも取引先が任意に支払ってくれるとは限りません。
このような場合、取引先の資産から強制的に回収する必要があります。強制的に回収するためには、取引先の資産を把握する必要があります。
そこで、取引先の資産調査の方法、及び取引先から強制的に債権を回収する方法を解説します。
なお、判決を取得せずに、債権を早期に回収する方法については、以下の記事で詳細に記載をしています。
また、判決等を取得する方法については、以下の記事に詳細に解説をしています。
以下の説明では、債権の回収を主眼に置き、東京地方裁判所の運用にならっています。
Contents
1 強制執行手続とは
訴訟で勝訴判決を得ても、裁判所が相手方からお金を回収してくれるわけではありません。そのため、相手方が判決を受けて任意に支払ってくれない限り、あなたの会社が債権を回収することはできません。
しかし、判決通りの結果が実現されないのであれば、せっかく時間と費用をかけて民事訴訟等の手続を行った意味がありません。
そこで、強制的に相手方の財産から金銭を回収することができる手続というものが用意されており、その手続こそが強制執行手続になります。
2-1 事前準備
2-1-1 相手方の財産に何があるか
いくら強制執行によって強制的に相手方の財産から債権回収ができるといっても、相手方の財産として何があるか把握できないと、そもそもどの財産を対象とした強制執行をすればよいのかがわかりません。
そこで、ここでは、相手方の財産を調査する方法を解説いたします。
なお、不動産、売掛金、預金口座の調査方法については、以下の記事で詳細に解説しています。
ここでは、債務名義取得後に新たに可能となる預金口座の調査方法と、そのほかの財産についての調査方法を解説します。
2-1-2 預金の調査
預金口座に執行をかけるためには支店の特定まで必要であることは、「仮差押と差押の違いー仮差押で早期に債権回収をする方法とは」で解説をしました。
しかし、仮差押の場合と異なり、判決の取得後など、債務名義(債務名義とは何かについては、この後ご説明いたします。)を持っている場合には、弁護士会照会という方法を利用することにより、預金口座の調査をすることが可能となります。
費用は少しかかってしまいますが(基本的には一行あたり7,560円ですが、銀行により異なります。)、銀行に相手方会社の口座の有無及び口座がある場合には、その支店名と預金残高の回答を求めることが可能となります。これは、強制執行手続きを弁護士に依頼した場合のみ行うことのできるものになります(弁護士会照会だけの依頼はできません。)。
例えば、メガバンク3行に弁護士会照会をすれば、各銀行から口座の有無及び口座がある場合には、支店名と残高の回答を得られます。
なお、弁護士会照会に強制力はないので、銀行によっては応じてくれないところもありますので、照会をするかどうかは弁護士に確認をした方がよいでしょう。
2-1-3 商品
相手方の会社の製品や在庫についても、強制執行をして、債権回収に充てることが可能です。
相手方の会社が製造業や小売業の場合、製品や在庫を必ずどこかに保管しているはずです。
あなたの会社が相手方の倉庫に直接納品している場合でなくても、他の仕入れ業者や運送業者等であれば倉庫の場所を知っているということがあります。相手方が在庫を保管している場所についても情報を収集しましょう。
2-1-4 車両
相手方の会社が営業や運送のために車両を用いているときは、その車両を強制執行の対象にすることが可能となりますが、その車両が相手会社名義となっていることが前提となります。
車両の持ち主が相手方でなければ強制執行を行うことはできないからです。
相手方の会社が利用する車両のナンバーさえわかれば、弁護士会照会を利用することで、所有者を調査することができます。
2-1-5 生命保険の解約返戻金
相手方の会社が生命保険に加入している場合は、その生命保険の解約返戻金に対して、強制執行を行うことができます。
保険会社に対して、弁護士会照会をすることで解約返戻金の有無及び金額を調査することができます。
2-1-6 貸金庫
相手方の会社が重要な財産や、証券などの資料を取引銀行の貸金庫に預けている可能性があります。
貸金庫の内容物については、内容物引渡請求権に強制執行を行うことができるとされています。
債務名義を得ていれば、弁護士会照会を用いて銀行に対し、貸金庫の有無及び貸金庫番号の回答を求めることができます。
2-2 必要書類及び費用
強制執行の手続を行うためには、裁判所に対する申立書と合わせて、事前に何点か必要な書類を用意する必要があります
2-2-1 債務名義の正本
債務名義とは、あなたが権利を有していることを公的に証明してくれる文書のことを言います。
判決の正本や和解調書正本、公正証書正本がこれにあたります。ただし、これらの文書に「この債務名義により強制執行することができる」といった執行文が入っているか必要があります。判決正本等は取得した段階では執行文は入っていません。
そのため、強制執行を行う場合、債務名義を作成したところ(判決なら裁判所になります)に執行文付与の申立てをする必要があります。
2-2-2 送達証明書
債務名義の正本が相手方に送達されたことを証明する文書です。こちらの文書も、債務名義を作成したところで発行してもらいます。
2-2-3 資格証明書
あなたの会社の登記事項証明書だけでなく、相手方や、相手方が有する債権の債務者(第三債務者といいます。)が法人の場合、それぞれ、登記事項証明書が必要となります。なお、こちらは法務局で入手します。
2-2-4 収入印紙
強制執行の申立をする際は、4,000円分の収入印紙が必要となります。
2-2-5 郵便切手
強制執行の申立をする際は、郵便切手が必要となります。必要な切手とその内訳は以下のとおりです。
3 債権に対する強制執行
3-1 はじめに
相手方会社が有する金銭債権に対する強制執行の手続を紹介します。
具体的には、相手方の会社が有する銀行に対する預金債権、売掛金債権から回収する場合です。
3-2 申立て
申立書には①債権者及び債務者の氏名・住所②第三債務者の氏名・住所③債務名義の表示④求める強制執行の方法⑤差押えるべき債権の特定を記載します。
一番多く用いられる、預金債権に対する差押えの申立書を用意しました。是非参考にしてください。
後に説明する転付命令の申立及び第三債務者に対する陳述催告も含んでいるものになります。
3-3 差押命令
金銭債権に対する強制執行は、裁判所の差押命令により開始します(民事執行法143条)。裁判所は申立書の内容を確認し、適法と認めるときは差押え命令を発令します。差押命令によって債務者はその債権の回収や処分、第三債務者は弁済が禁止されます(民事執行法145条1項)。差押命令は債務者及び第三債務者に対し、送達され(民事執行法145条3項)、第三債務者に送達されたときから効力が生じます(民事執行法145条4項)。
第145条 執行裁判所は、差押命令において、債務者に対し債権の取立てその他の処分を禁止し、かつ、第三債務者に対し債務者への弁済を禁止しなければならない。
(中略)
3 差押命令は、債務者及び第三債務者に送達しなければならない。
4 差押えの効力は、差押命令が第三債務者に送達された時に生ずる。
3-4 換価
差し押えた債権からあなたの会社の債権を回収する方法としては、代表的なものとして①取立て②転付命令があります。
ここでは、この2つの方法について解説します。
3-4-1 取立て
差押命令が債務者に送達されてから1週間が経過したときは、差押えた債権を取り立てることができるようになります(民事執行法155条1項)。つまり、あなたの会社が取立権という権利を取得して、差押えた債権を取立てることができます。
第155条 金銭債権を差し押さえた債権者は、債務者に対して差押命令が送達された日から一週間を経過したときは、その債権を取り立てることができる。ただし、差押債権者の債権及び執行費用の額を超えて支払を受けることができない。
3-4-2 転付命令
転付命令とは、支払いに代えて差押えられた金銭債権をその券面額で差押債権者に移転させる命令をいい、裁判所が申立てにより発することになります(民事執行法159条1項)。
通常、申立書に転付命令を求める旨を記載します。
券面額とは、債権の名目額のことをいいます。例えば、100万円の請求権の券面額は100万円となります。
第159条 執行裁判所は、差押債権者の申立てにより、支払に代えて券面額で差し押さえられた金銭債権を差押債権者に転付する命令(以下「転付命令」という。)を発することができる。
3-4-3 取立てと転付命令の違い
転付命令の場合、仮に100万円の請求権について転付命令を受けたものの、第三債務者(すなわち、相手方が債権を有している債務者)が無資力で1円も回収できなかったとします。
その場合でも券面額は100万円ですから、あなたの会社は100万円の支払いを受けたことになってしまうのです。
そのため、通常転付命令は第三債務者が銀行や大企業といった無資力のリスクがない場合に用いられます。
一方、取立の場合は回収額に相当する額のみが、あなたの会社の債権に充当されますから、そのような心配はありません。
ただし、転付命令にもメリットはあります。それは独占的な債権回収が可能な点です。
相手方の会社があなたの会社以外の債務を支払っていない場合、ほかの会社も債権回収に動いている可能性があります。
そのような状況では、取立ての場合、差押えが競合してしまうことがあります。仮に競合してしまった場合、差押えられた債権額(相手方会社の有している債権の金額)を差押えた債権額(あなたの会社の債権額と他の会社の債権額の合計額)が超えてしまうと、按分した金額の回収しかできなくなってしまいます。
しかし、転付命令の場合、差押と同時にあなたの会社に差押債権が移転しますから、その時点で相手方会社の財産ではなくなり、他の会社が差押えることはできなくなり、競合する可能性はありません。
以上の差異がありますので、取立と転付命令は状況によって使い分ける必要があります。
3-4-4 第三債務者に対する陳述催告
第三債務者に差押命令を送達する際に差押える対象とされた債権の存否とその額について陳述を求める手続きになります。
債権の存否やその金額がわかりますので、実務上はほとんどの場合、差押命令の申立てと同時に行われます。