債権回収

【ひな形あり】取引先の在庫を担保にとる方法【集合動産譲渡担保】

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 あなたの会社が取引先に対して未回収の売掛金があったり、新規に融資をしようとする場合、【売掛金の回収を徹底解説】売掛金を確実に回収する方法-交渉編にて解説したとおり、これを確実に回収するために担保をとることを検討する必要があります。取引先の資産を担保にとり、あなたの会社の債権を保全する方法として、これまでに、株式を担保にとる方法、売掛金を担保にとる方法についてご紹介をしてきました(いざという時に取引先の株式を担保にとる方法【担保の実行まで徹底解説】いざという時に取引先の債権を担保にとる方法【債権譲渡担保を徹底解説】の記事をご参照ください)。

 これら株式や売掛金のほかにも、取引先が価値のある在庫商品を継続的に保有しているような場合には、在庫商品も担保としてとることを検討してもよいでしょう。在庫商品を担保にとって、いざというときにこれを売却して売掛金の回収をすることは、一般に想像されているよりも、法律的には意外と簡易な手続で行うことができます。 

 この記事では、このような在庫商品を担保にとる手段として、集合動産譲渡担保設定契約書のひな型を参照しながら、すぐにでも、在庫商品を担保にとり、いざという時にこれを実行して優先的に回収することができるよう、知っておくべき実践的な内容を解説します。是非参考にしてください。

1、いざという時に、担保にとった在庫を処分して優先的に回収ができる

 取引先の在庫商品を担保にとる仕組みの概要は、次のとおりです。在庫商品以外でも、価値がある(処分してお金になる)ものであれば、例えば、店舗の什器備品等であっても同様の方法で担保にとることは可能です。

  • あなたの会社(担保権者)がA社(担保権設定者)に対して、売掛金等(本件被担保債権)を持っているが、これを担保するために、A社が所有している在庫商品(本件動産)を譲り受ける(本件譲渡担保)
  • A社があなたの会社に対して支払いをしない場合、あなたの会社は、担保の実行として、在庫商品の引渡しを受け、これを売却等したうえで、債権回収をすることができる

 2、在庫商品(動産)を担保にとるための契約書のひな型

 在庫商品(動産)を担保にとる方法、担保を実行する方法について、集合動産譲渡担保設定契約書ひな形を適宜参照しつつ、具体的な留意点について解説をしていきます。ひな形では、以下のような事案を前提としています。

  • あなたの会社は、A社(担保権者)に対して継続的に商品・サービスを供給しており、常時、一定額以上の売掛金(本件被担保債権)があるが、A社はたびたび支払いが遅れるなど、信用に若干の不安がある
  • A社は、在庫商品の保管場所として建物を一棟借りており(本件保管場所)、日々、そこで、在庫商品の搬入・搬出が繰り返されている
  • あなたの会社は、A社から売掛金の支払がなされない場合に備えて、A社の在庫商品を担保にとる
  • 在庫商品はA社の日常の営業のために不可欠なものであるため、A社があなたの会社に対する支払いを継続している限り、A社は在庫商品を通常通り搬出し、売却することができる
  • A社が、在庫商品を顧客に売却すれば、担保の対象からは外れるが、A社が新たに搬入した在庫商品はその都度、担保の対象となる
  • A社があなたの会社に対して支払いを怠った場合には、あなたの会社は、担保権を実行し、在庫商品の引渡しを受けてこれを売却することができる 

3 在庫商品を譲渡担保にとるための具体的な手続(ひな形に沿って)

3-1 譲渡担保権の設定(ひな形1条)

 まずは、あなたの会社がA社に対して持っている債権(売掛金)を担保するために、在庫商品を譲渡することを明記する必要がありますが、ここでのポイントは以下のとおりです。

  1. いかなる債権を担保するのか(被担保債権)を明確に特定する
    あなたの会社がA社に対して有する売掛金を担保することを明確にしなければなりません。
    ひな形では、あなたの会社とA社との間で、売買基本契約書が締結されていることを前提としていますが、そのような基本契約書を締結していない場合には、「担保権者と担保権設定者との間の商品売買契約に基づき、担保権者が担保権設定者に対して現在有し、又は将来有する一切の債権(以下、「本件被担保債権」という。)」というような記載にすればよいでしょう。
  2. 担保にとる在庫商品の所在と種類を特定する
    担保にとろうとする在庫商品の保管場所について、具体的な所在を明記しなければなりません。また、ひな形では、単に「在庫商品」とだけ記載していますが、例えば、「生鮮食品」「電化製品」等、さらに、品番や名称を記載するなど、可能な限り具体的に特定すべきです。これらは、種類・所在場所・量的範囲を明らかにすべしとした、下記の最高裁の判例の指摘に従ったものです。

 【最高裁判所昭和54215日判決】
「構成部分の変動する集合動産についても、その種類、所在場所及び量的範囲を指定するなどなんらかの方法で目的物の範囲が特定される場合には、一個の集合物として譲渡担保の目的となりうるものと解するのが相当である。」

 *なお、この判例の事案における契約書では、在庫商品を特定するに当たって「所有する食用乾燥ネギフレークのうち28トン」という記載がされていましたが、在庫商品の特定がなされていないということで、譲渡担保契約は無効と判断されました。「食用乾燥ネギフレーク」だけであれば全体が担保対象として有効と判断されたと思いますが、「28トン」では、(全体で44.3トンあるうちの)どの部分か不明ということで、このような判断がされたものです。

【最高裁判所昭和621110日判決】
「これを本件についてみるに、前記の事実関係のもとにおいては、本件契約は、構成部分の変動する集合動産を目的とするものであるが、目的動産の種類及び量的範囲を普通棒鋼、異形棒鋼等一切の在庫商品と、また、その所在場所を原判示の訴外会社の第一ないし第四倉庫内及び同敷地・ヤード内と明確に特定しているのであるから、このように特定された一個の集合物を目的とする譲渡担保権設定契約として効力を有する」

*こちらの場合は、明確に特定ができているという判断がなされた事例です。

 3-2 対抗要件の具備(ひな形2条)

3-2-1 対抗要件とは

 A社があなたの会社に対する支払いを怠った場合には、あなたの会社が在庫商品を担保にとっていることを、A社の他の債権者に対して主張できなければ意味がありません。他の債権者に対して、あなたの会社が在庫商品に譲渡担保権を持っていることを主張できなければ、在庫商品を処分してあなたの会社が優先的に債権回収をすることができなくなるためです。
 このように、他の債権者等に対して、あなたの会社が担保権を有していることを主張するためには、対抗要件というものを具備する必要があります。

3-2-2 対抗要件を具備する方法①(民法上の原則)

 在庫商品のような動産を譲渡する場合、在庫商品の「引渡し」を受けることで、対抗要件を具備することができます(民法178条)。

 この「引渡し」の典型は、現実にその目的物の占有を移転させることですが(民法1821項、現実の引渡し)、担保権の実行前に、A社があなたの会社に在庫商品を現実に引渡してしまうと、A社の営業に支障をきたします。そこで、ひな形の2条では、A社が物理的に占有を継続しつつ、あなたの会社が法的に「引渡し」を受ける方法である「占有改定」を利用しています(民法183条)。
 占有改定とは、簡単に言うと、A社が今後、在庫商品をあなたの会社のために占有するという「意思を表示」することで、観念的に、あなたの会社に占有を移すという引渡方法です。 

 なお、ひな形の事例と異なり、A社が、在庫商品を倉庫業者に預けているような場合もあります。この場合には、占有改定の方法ではなく、「指図による占有移転」という方法をとります(民法184条)。
 具体的には、ひな形2条を「本件譲渡担保に係る第三者対抗要件の具備については、本契約締結後直ちに、指図による占有移転の方法により行うものとする。」と変更します。
 その上で、A社から、倉庫業者に対して、「担保として在庫商品を【あなたの会社】に譲渡したので、今後は、【あなたの会社】のために在庫商品を占有してください」という書面を送付してもらい、倉庫業者から承諾書を取得しておくとよいでしょう(承諾書の原本はあなたの会社で保管しておきましょう)。

民法178条 動産に関する物権の譲渡は、その動産の引渡しがなければ、第三者に対抗することができない。 
  182条1項 占有権の譲渡は、占有物の引渡しによってする。
  183条 代理人が自己の占有物を以後本人のために占有する意思を表示したときは、本人は、これによって占有権を取得する。
  184条 代理人によって占有をする場合において、本人がその代理人に対して以後第三者のためにその物を占有することを命じ、その第三者がこれを承諾したときは、その第三者は、占有権を取得する。  

3-2-2 対抗要件を具備する方法②(動産債権譲渡特例法による特則)

 いざという時に取引先の債権を担保にとる方法【債権譲渡担保を徹底解説】で述べた集合債権譲渡担保と同様、在庫商品の譲渡担保においても、動産及び債権の譲渡の対抗要件に関する民法の特例等に関する法律(動産債権譲渡特例法)により、特別な取り扱いが定められています(同法31項)。
 すなわち、占有改定や指図による占有移転ではなく、在庫商品を譲渡したことについて、「登記」をすることで対抗要件を具備することもできます。

 このような登記を利用することによるメリットは、次のとおりです。

  1. 在庫商品が倉庫業者に保管されている場合に利用しやすい
    先ほど紹介した指図による占有移転の場合、A社が在庫商品を担保に入れたことが倉庫業者に知られてしまうので、A社がそれを望まない場合があります。他方、登記の場合、担保に入れたことを倉庫業者に知られることは通常はありませんので、A社として利用しやすいと言えます。
  2. A社が、二重に担保を設定した場合のリスクを軽減できる
    仮に、A社が、あなたの会社のために担保を設定した後、同様に、別のB社のためにも在庫商品に担保を設定したとしましょう。ここで、あなたの会社が既に担保にとっていることについて、B社が過失なく知らなければ、B社があなたの会社に優先して担保を取得する可能性があります(民法192条)。しかし、あなたの会社が既に担保にとっていることを登記しておけば、B社がこれを過失なく知らなかった、と言いにくくなるので、リスクを軽減できます。

債権譲渡特例法3条1項 法人が動産(当該動産につき貨物引換証、預証券及び質入証券、倉荷証券又は船荷証券が作成されているものを除く。以下同じ。)を譲渡した場合において、当該動産の譲渡につき動産譲渡登記ファイルに譲渡の登記がされたときは、当該動産について、民法百七十八条 の引渡しがあったものとみなす。 
民法192条 取引行為によって、平穏に、かつ、公然と動産の占有を始めた者は、善意であり、かつ、過失がないときは、即時にその動産について行使する権利を取得する。 

4、在庫商品に対して担保権を実行する方法

4-1 通知書の送付

 集合動産譲渡担保設定契約を締結した後、あなたの会社に対するA社の支払いが遅れた場合(期限の利益を喪失した場合)には、担保権の実行を検討することになります。

 ひな形では、A社が期限の利益を喪失し、あなたの会社が担保権実行の通知をするまでは、A社が在庫商品を通常の営業の範囲内で売却等できることとしていましたので、直ちに、A社に対して譲渡担保権実行の通知をする必要があります(ひな形71項)。通知書の書式については、在庫商品譲渡担保実行通知を参考にしてください。

4-2 在庫商品の引渡しを受けた後

 譲渡担保権の優れた点は、不動産に対する抵当権とは異なり、民事執行法が定める競売等の手続を踏まなくても担保権の実行ができるという点です。
 ひな形7条では、この担保権実行の方法として、以下の2通りを定めています。これらのうち、あなたの会社にとって有利な方を選択することになります。

  1. あなたの会社が在庫商品を売却し、売却代金を本件被担保債権に充当する方法
  2. あなたの会社が、在庫商品の所有権を取得し、在庫商品に客観的な評価(値付け)をした上で、その評価額を本件被担保債権に充当する方法

  他方、譲渡担保権実行の通知をしたにもかかわらず、A社が引渡しをしない場合には、A社を相手方として、在庫商品の占有移転禁止の仮処分等の仮処分手続を申し立てることを検討する必要があります。

 

 

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