信頼をして会社の経営を任せていた代表取締役が会社を私物化しており、できるだけ早く代表取締役の地位や権限を剥奪したい場面などに遭遇する場合があります。
我々が相談を受けるケースで多いのは、M&Aや相続により株式を取得したものの、会社の経営はできないので、生え抜きの社員を代表取締役にして経営を任せていたところ、その代表者が経費を私的に流用した、以前よりも業績が落ちたなので、代表取締役を辞めさせたいといったケースです。
株主1人、または、複数の株主がいたとしても、全株主の同意を得ることができるのであれば、すぐに株主総会を開催して取締役を解任すれば、代表取締役の地位も同時になくなりますので、代表取締役を解任したのと同じことになります。
これに対し、株主が1人ではなく、全株主の同意が取れない場合には、株主総会の招集手続を経て、株主総会を開催しなければなりませんが、開催するまでに時間を要します。また、株主総会を招集するためには、取締役会の決定を経て代表取締役が招集する必要がありますが、代表取締役が、自らが解任される総会を招集するとは考えられず株主総会の開催自体ができないこと可能性もあります。
このように株主総会を開催して、取締役を解任できない場合、当面、代表取締役の地位や権限を剥奪することを検討することになります。
代表取締役のみを辞めさせること(取締役の地位は残し代表権を剥奪すること)を解職といいます。代表取締役の解職は取締役会決議ですることが可能です。
本記事では、代表取締役の解任・解職するための手続・方法について解説します。
なお、以下では、取締役会設置会社を念頭に解説します。
代表取締役解職の議事録については、解説をご参照の上、使用してください。
2021/11/17 更新
Contents
1 取締役の選任・解任と代表取締役の選任・解任の違い
1-1 取締役の選任・解任
取締役の選任・解任は、株主総会決議で行います。
取締役を解任する場合の留意点にについては、以下を参照ください。
総会の招集時期・招集方法、書面で株主総会決議方法をについては、以下を参照ください。
1-2 代表取締役の選任・解職
代表取締役の選任は、株主総会で選任された取締役で構成される取締役会決議で選任されます。
代表取締役の解職も、代表取締役の選任権限を有する取締役会決議ですることになります。
第362条 取締役会は、すべての取締役で組織する。
2 取締役会は、次に掲げる職務を行う。
一 取締役会設置会社の業務執行の決定
二 取締役の職務の執行の監督
三 代表取締役の選定及び解職
2 代表取締役の解職手続
代表取締役を解職するために、取締役会を招集して、取締役会の決議をする必要があります。
2-1 取締役会の招集
取締役会を開催するためには、取締役会の招集をする必要があります。
会社法では、取締役会は、原則として各取締役が招集するとされていますが、取締役会を招集する取締役を定款又は取締役会で定めたときは、その取締役が招集するとされています。
会社法366条
- 取締役会は、各取締役が招集する。ただし、取締役会を招集する取締役を定款又は取締役会で定めたときは、その取締役が招集する。
- 前項ただし書に規定する場合には、同項ただし書の規定により定められた取締役(以下この章において「招集権者」という。)以外の取締役は、招集権者に対し、取締役会の目的である事項を示して、取締役会の招集を請求することができる。
- 前項の規定による請求があった日から五日以内に、その請求があった日から二週間以内の日を取締役会の日とする取締役会の招集の通知が発せられない場合には、その請求をした取締役は、取締役会を招集することができる。
通常、多くの中小企業では、会社設立の際に、定款のひな形を使用しており、そのなかに、代表取締役(取締役社長)が取締役会を招集することを定めていることがほとんどです。
したがって、他の取締役が代表取締役に対して、取締役会を招集するように請求することになります。この場合、取締役会の目的事項(議題)を示すことが必要であるされています(会社法366条2項)。
しかしながら、代表取締役を解任しようとしているのに、その代表取締役に対し、代表取締役の解任を目的する取締役会の招集を請求した場合、自らが解任されると察知した代表取締役が自己の保身のために何をするかわからない可能性があります。
できれば、事前に察知されずに、取締役会を開催し、取締役会の場で、代表取締役の解任を議題にして、解任をしたいものです。
この点について、裁判例においては、取締役会において招集通知に記載されていない事項について審議又は決議することを禁じているものと解することはできないとされています。
すなわち、招集通知に会議の目的事項を記載する必要はあるが、取締役会で、招集通知に記載しなかった事項についても決議をしても問題ないということです。
したがって、代表取締役に警戒されれないように、会議の目的事項として、別の議題を挙げて、取締役会の招集を請求し、取締役会において、代表取締役の解職を議題に挙げて、代表取締役を解職することも可能となります。
名古屋高等裁判所判決 平成12年1月19日
取締役会の招集通知をする場合には、開催日時、場所及び会議の目的事項を記載した書面をもってすべきことを要求しているけれども、他方、取締役会において右招集通知に記載されていない事項について審議又は決議することを禁じているものと解することはできない
2-2 取締役会決議
2-2-1 取締役会決議の要件
代表取締役の解職は、取締役の過半数の決議ですることができます。
取締役会の決議は、議決に加わることができる取締役の過半数が出席し(定足数)、出席取締役の過半数の賛成により成立します(会社法369条)。
決議に特別の利害関係を有する取締役は、決議の公正を期する必要上、議決に加わることはできません。定足数にもカウントされません。
会社法369条
- 取締役会の決議は、議決に加わることができる取締役の過半数(これを上回る割合を定款で定めた場合にあっては、その割合以上)が出席し、その過半数(これを上回る割合を定款で定めた場合にあっては、その割合以上)をもって行う。
- 前項の決議について特別の利害関係を有する取締役は、議決に加わることができない。
2-2-2 代表取締役は決議に参加することはできるか
代表取締役の解職にあたり、当該代表取締役は取締役会決議に参加することはできるでしょうか。
この点は、判例は、会社に対する忠実義務に従い公正に議決を行使することが期待できないとして、解職される取締役は決議に参加できないとしました。
昭和44年3月28日 最高裁判決
代表取締役の解任に関する取締役会の決議については、当該代表取締役は、商法二六〇条ノ二第二項により準用される同法二三九条五項にいう特別の利害関係を有する者にあたると解すべきである。けだし、代表取締役は、会社の業務を執行・主宰し、かつ会社を代表する権限を有するものであつて(商法二六一条三項・七八条)、会社の経営、支配に大きな権限と影響力を有し、したがつて、本人の意志に反してこれを代表取締役の地位から排除することの当否が論ぜられる場合においては、当該代表取締役に対し、一切の私心を去つて、会社に対して負担する忠実義務(商法二五四条三項・二五四条ノ二参照)に従い公正に議決権を行使することは必ずしも期待しがたく、かえつて、自己個人の利益を図つて行動することすらあり得るのである。それゆえ、かゝる忠実義務違反を予防し、取締役会の決議の公正を担保するため、個人として重大な利害関係を有する者として、当該取締役の議決権の行使を禁止するのが相当だからである。
したがって、代表取締役は決議に参加できませんので、代表取締役を解職する場合にあたって、代表取締役が決議に参加できないこと(定足数にも入りません)を前提に、出席取締役の過半数を取れるかどうかが重要となってきます。
たとえば、取締役4名の会社において、取締役会を開催したとします。1名の取締役は欠席しました。この場合、代表取締役も定足数から排除されますので、結局2名で決議をすることになり、2名の過半数ですから、要するに、2名全員が代表取締役の解任に賛成しないと、解任することができませんので、注意が必要です。
2-2-3 代表取締役は議長になることはできるか
代表取締役は特別利害関係人に該当するので、取締役会の議長になることはできません。
また、代表取締役には、取締役会における意見陳述権もなく、退席を要求された場合には、退席しなければなりません。
2-3 取締役会議事録の作成
代表取締役を解職したら、取締役会議事録を作成します。
取締役会議事録に基づき、登記をすることになります。
代表取締役が利害関係人に該当し、決議に参加をしていないことを前提とした議事録のひな形を作成しました。参照ください。
なお、取締役会の招集手続・議事の方法等について、以下の記事に詳しく書いてありますので、ご参照ください。