会社法務

使い勝手のいい定款にカスタマイズするための7つの工夫

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 会社を設立しようとする経営者の方にとっては、設立後にどのように事業展開をしていくかが最も重要な関心事であり、会社の定款の内容まで十分に検討することは、あまりないでしょう。会社の設立を代行してくれる業者や司法書士に依頼をすれば、定型的な定款を準備してくれますし、また、インターネットで検索をして、同様にごく一般的な定款を入手することも可能です。
 もちろん、そのような定型的な定款を用いて会社を設立しても構いませんし、実際にそのようにしている会社も多いと思います。

 しかし、そのような定型的な定款は、最大公約数的な無難なものであり、必ずしも、あなたの会社が今後遭遇する様々な事態に即応できるものとはなっていません
 あなたが考えているよりも、定款では色々なことを定めることができ、これにより、会社の経営を円滑に進めることが可能となります。会社を設立した後に定款を変更することも可能ですが、手間もかかりますので、設立後の事業展開の可能性も踏まえて、最初から、カスタマイズした定款を作成することができればそれがベストでしょう。

 この記事では、あなたの会社用にカスタマイズされた定款を作成する際の実践的なポイントをご紹介します。迅速な意思決定と経営の安定を両立させる必要がある、スタートアップ企業・ベンチャー企業としては、定型的なひな形の定款をどのように変えればよいのでしょうか
 どこにでもある定型的な定款ひな形を参照しつつ、どう手を加えればよいのか、会社設立時の忙しい状況でもすぐに実践できるように記事を書きました。ぜひ参考にしてください。

1 機関に関する定款の定め

1-1 ひな形の解説

 「機関」とは、株式会社の運営・管理にたずさわるものとして、会社法に定められた人又は会議体のことをいい、会社法上、どのような株式会社であっても、株主総会と取締役という2つの機関が設置されねばならないことが定められています。

 株主総会と取締役のほか、定款により、取締役会、監査役、会計参与等のほかの機関を置くことを定めることができますが(会社法326条2項)、定款ひな形では、株式会社の形態としてはごく一般的な、取締役会・監査役を設置する会社をモデルとしています(定款5条参照)。
 取締役会を設置する場合には、取締役の数を最低でも3人以上置かねばならず(会社法331条5項)、さらに、監査役(若しくは会計参与)を置く必要があります(会社法327条2項)。

 このように取締役会設置会社の場合は、取締役候補者(最低3名)・監査役候補者(最低1名)の確保が必要ですが、一般的に、取締役会設置会社の方が取引先等の信用も得やすいと言えますし、ベンチャー企業等が設立当初から取締役会設置・監査役設置の形態を選択することも多くあります。
 より高度なガバナンスが期待される機関の構成として、監査役会設置会社、監査等委員会設置会社、指名委員会等設置会社等の形態もありますが、設立当初からこれらの機関構成が選択されることは稀です。

 なお、取締役設置会社の詳しい解説は、取締役会設置会社の経営者が知っておくべき法的知識を参考にしてください。

1-2 定款作成時のポイント① 役員の任期に関する定め

 取締役の任期は、原則として2年ですが、非公開会社の場合、定款により10年に伸長することができます(会社法332条1項)。
 監査役についても同様に、原則は4年の任期ですが、非公開会社においてはこれを10年に伸長することができます(会社法336条2項)。
 取締役に関しては、さらに、2年よりも短い期間に短縮することも可能です(監査役の場合は4年よりも短い期間に短縮することは不可能)。

 なお、非公開会社とは、2-1で説明しますが、会社が発行するすべての株式について、株主がこれを譲渡するためには会社の承認が必要であると定款で定めている会社を指します。

 定款ひな形においては、いずれも会社法の原則通り、取締役は2年、監査役は4年としていますが(定款18条)、これを伸長するメリットとしては、役員選任の手続(株主総会決議、選任登記の手続)に関する手間・コストを下げることができるという点が挙げられます。
 他方、伸長するデメリットとしては、あなたが、役員を任期途中で解任しようとする場合、残りの任期分の報酬を請求され、紛争となる可能性があることが挙げられるでしょう。

 一般的には、法律の原則通りの任期としておくことが多いでしょうし、伸長するとしても、4~5年程度にとどめておくことがよいと思います。役員の任期に関しては、【完全ガイド】取締役・監査役の任期をどう設定するかの記事も参考にしてみてください。

1-3 定款作成時のポイント② 役員責任の限定に関する定め

 取締役や監査役は、その職務を遂行するにあたって、任務を怠り、会社に損害を与えた場合には、会社に対して損害賠償責任を負います(会社法423条1項)。これは、取締役らが個人で会社に対して責任を負うものですので、非常に重い負担となりかねません。
 このような役員の責任に関し、会社法426条1項は、当該役員が職務を行うにあたって、善意で「重大な過失」がない等、一定の要件を満たす場合には、取締役会の決議によって、損害賠償責任の一部を免除することができるとしています(ただし、監査役設置会社であることが必要です)。しかし、この免除を行うに当たっては、あらかじめ、定款にそのような定めを置いておくことが必要であるとされています(同法426条1項)。

 経営者であるあなたが唯一の株主であるような場合を除いて、このような責任免除に関する定めをしておくことで、取締役個人のリスクを軽減することが可能となります。
 定款ひな形には、このような条項を置いていませんが、以下のような責任免除に関する条項例は追加することについて検討する必要があります。

(取締役の責任免除)
第〇条 当会社は、会社法第426条第1項の規定により、取締役会の決議をもって、任務を怠ったことによる取締役(取締役であった者を含む)の損害賠償責任を、法令の限度において免除することができる

1-4 定款作成時のポイント③ 株主総会の招集手続に関する定め

 株主総会を開催する場合、非公開会社であれば、株主総会開催日の1週間前までに、株主に対して株主総会招集通知を発送しなければなりません(会社法299条1項)。
 取締役会設置会社であれば、この1週間という期間を、定款により短縮することはできませんが、取締役会設置会社でない場合には、これをさらに「3日前」等に短縮することが可能です(同法299条1項)。

 定款のひな形は、取締役会設置会社を前提としていますので、原則通り、1週間前までに招集通知を発送するとしています(定款12条3項)。
 しかし、会社の組織再編や、新たに株式を発行する場合等、株主総会の招集に必要な期間が長いと、スケジュール上の障害になることもあるので、取締役会を設置しない会社とした場合には、「3日前」等に短縮することを検討するべきです。

1-5 定款作成時のポイント④ 株主総会の定足数・可決要件に関する定め

1-5-1 株主総会の定足数・可決要件に関する会社法の原則

 ①定足数とは、株主総会を開催して、議事・決議を行うために最低限必要な株主の議決権の数をいい、②可決要件とは、決議を可決するために必要な、議案に賛成した株主の議決権の数をいいます。
 株主総会の定足数・可決要件に関する、会社法の原則は以下のとおりです。定款ひな形13条2項・3項では、定足数・可決要件ともに、会社法の原則のままとしています(定款13条2項・3項)。
 簡単に言うと、通常の株主総会決議(普通決議)に関しては、最低でも議決権の過半数を有する株主が出席し(①定足数、その上で、出席した株主の議決権の過半数の賛成があって初めて、可決されるということになります(②可決要件)。
 以下の「特別決議」とは、定款変更や会社の事業の譲渡、合併等の重要な事項に関する決議を行う場合に要求される、通常決議よりも厳格な手続をいいます。

  ①定足数 ②可決要件
普通決議(会社法09条1項、定款13条2項) 議決権の過半数 出席した株主の議決権の過半数
特別決議(会社法309条2項、定款13条3項) 議決権の過半数 出席した株主の議決権の3分の2以上

1-5-2 定足数に関する修正

 あなたが会社の株式のすべてを保有し続けるような場合には、特に問題にはなりませんが、株主が多数いる場合、株主総会において、会社法の定める定足数の株主が揃わず、株主総会決議を行えないということも想定されます
 会社設立当時は、株主があなた1名であっても、会社が発展するにつれ、株主が増え、株主総会の定足数を満たすことが難しくなることも見越しておく必要があります。

 そこで、会社法の原則を修正し、普通決議に関しては定足数の定めを排除し、特別決議に関しては定足数を3分の1で足るという定款の定め方が可能です(特別決議に関しては、定足数を排除することはできませんが、定足数を「過半数」から「3分の1以上」まで下げることは可能です。会社法309条1項・2項)。
 定款ひな形13条2項・3項について、定足数に関するこのような修正をする場合の記載例は、次のとおりとなります。

(議長および決議の方法)
第13条 ②株主総会の決議は、法令又は本定款に別段の定めがある場合を除き、出席した株主の議決権の過半数をもって行う
 ③ 会社法第309条第2項に定める株主総会の決議は、議決権を行使することができる株主の議決権の3分の1以上を有する株主が出席し、その議決権の3分の2以上をもって行う。

1-5-3 可決要件に関する修正

 会社法の原則では、特別決議事項(あるいは、さらに会社法に定めのある事項)を除いて、普通決議により株主総会決議を可決することができます。
 しかし、定款で定めることにより、本来は普通決議で足りるとされている事項について、より厳格な可決要件とすることも可能です。これについて、実際に問題になることが多いのは、取締役の解任に関する要件です。
 取締役の解任も普通決議で足りるとするのが会社法の原則ですが(会社法339条1項)、例えば、経営者であるあなたが、株式の40%しか保有していないような場合、このルールに従えば、あなた以外の株主が団結することで、代表者であるあなたを取締役から解任することができることなります。

 そこで、会社の株主構成・持株比率の構成によっては、取締役の解任のような、普通決議で足りるとされている事項について、以下のように定款ひな形13条3項を修正し、厳格な可決要件を定めることを検討する必要があります。

(議長および決議の方法)
第13条 ③ 取締役の解任に関する株主総会の決議、及び会社法第309条第2項に定める株主総会の決議は、議決権を行使することができる株主の議決権の3分の1以上を有する株主が出席し、その議決権の3分の2以上をもって行う。

1-6 定款作成時のポイント⑤ 取締役会に関する定め

1-6-1 取締役会の招集手続に関する定め

 会社法の原則では、取締役会を招集するに当たっては、「取締役会の日の一週間前までに」各取締役及び各監査役に対して、「招集の通知を発しなければならない。」とされています(会社法368条1項)。
 そして、定款ひな形19条2項も、この原則に従い、取締役会の日の一週間前までに通知を発する必要があることを定めています。

 しかし、会社法368条1項は、この招集通知を発すべき時期について、一週間という「下回る期間を定款で定めた場合」は、短縮できると定めています
 例えば、株主総会の招集手続をするためには、取締役会を開催する必要がありますが、スケジュール上、急いで株主総会を招集する必要がある場合には、会社法上の「一週間前まで」という招集通知の発送時期がネックとなることがあります

 そこで、以下のように、定款ひな形19条2項を変更して、取締役会の開催をスムーズに行えるように定めておくことが考えられます。

(取締役会の招集および議長)
第19条 ② 取締役会の招集通知は、会日の三日前までに各取締役および監査役に対して発するものとする。ただし、緊急の必要があるときは、この期間を短縮することができる。

1-6-2 取締役会の決議の省略に関する定め

 取締役会は、実際に取締役らが出席し、意見を交換し合うことが必要であり、議事録を回覧して書面するような持ち回り方式による決議は認められていません(ただし、電話会議システム等を使用して、遠隔地からの出席を認めることは可能。)。

 しかし、取締役会を開催する緊急の必要性があるにもかかわらず、実際に取締役が集まって取締役会を開催することが困難な場合も想定されます。

 そこで、会社法370条は、定款にあらかじめ定めておくことにより、取締役が議題の提案をし、他の取締役の全員が書面等により同意をする意思表示をしたときは、取締役会を省略して、当該提案を可決する取締役会決議があったものとみなすことができると規定しています。
 弁護士として業務をしていて、この取締役会の決議の省略の制度は、すぐにでも取締役会決議を成立させなければならないときには非常に便利なのですが、定款に定めがないため、この制度を使えなかったという事例がいくつもありました
 実際に取締役会の決議を省略する機会が訪れるかどうかはさて措き、定款に以下の規定を置いておくことは検討しておくべきでしょう。

(取締役会の決議の方法)
第20条 ② 取締役会の決議の目的たる事項について、取締役から提案があった場合において、その事項につき議決に加わることのできる取締役全員が書面または電磁的方法により同意をした場合には、監査役が異議を述べた場合を除き、取締役会の決議があったものとみなす

2 株式に関する定款の定め

2-1 ひな形の解説

 会社法の下では、定款において、「株券を発行すること」をあえて定めるのでなければ、株券を発行する必要がない会社(株券不発行会社)となります(会社法214条)。株券を発行すると、譲渡の手続が面倒であったり、株券を紛失するリスクもあるため、新たに設立される会社に関して、あえて、株券を発行することを定款で定めることはほとんどありません。
 定款ひな形7条も、「株券を発行しない」と明確に定めています。

 また、経営者・大株主であるあなたにとって好ましくない者が株式を取得してしまうことを防ぐために、少なくとも会社設立段階の定款では、株式の譲渡(移転)について、会社の承認が必要であること(株式の譲渡制限、会社法108条2項)を定めることも一般的です。
 
 定款ひな形8条も、「譲渡による当会社の株式の取得については、取締役会の承認を受けなければならない。」としています。譲渡を承認する会社の機関について、「取締役会」を、例えば、「代表取締役」とすることも可能です。代表取締役の承認のみで足りるとすると、株式の譲渡をより迅速に行うことができます

2-2 定款作成時のポイント⑥ 株式譲渡が承認されたものとみなされる場合に関する定め

 2-1で述べたとおり、定款で株式の譲渡制限を定めている場合に、その株式を譲渡するには、会社の承認を得なければなりません。
 しかし、譲渡がされたのに、会社の承認(定款ひな形では取締役会決議による承認)の手続を怠った状態のままとなっていることも実際にはよくあります
 会社の承認がなければ、会社との関係では、株式譲渡は無効となり、会社としては、株式を譲渡したはずの者を株主として扱わなければならないというのが最高裁の判例であり(最高裁判所昭和63年3月15日判決)、株式を譲り受けた者との間でトラブルとなりかねません

【最高裁判所昭和63年3月15日判決】

 定款に株式の譲渡につき取締役会の承認を要する旨の譲渡制限の定めがおかれている場合に、取締役会の承認をえないでされた株式の譲渡は、譲渡の当事者間においては有効であるが、会社に対する関係では効力を生じないと解すべきであるから、会社は、右譲渡人を株主として取り扱う義務があるものというべきであり、その反面として、譲渡人は、会社に対してはなお株主の地位を有するものというべきである。 

 そこで、会社にとってリスクのない者が株式を譲り受けた場合に限り、会社(取締役会)の承認がなくても、株式譲渡が有効になされたと取り扱うルールを定款で定めることが考えられます。
 株式譲渡制限に関して、会社法107条2項1号ロは、「一定の場合においては株式会社が・・・承認をしたものとみなすときは、その旨及び当該一定の場合」を定款に定めることができると規定しています。

 株式の譲渡について、会社(取締役会)が承認をするまでもなく、株式譲渡を有効と扱うべき場合としては、株主の間で株式が譲渡される場合が典型的です。まったくの部外者に対して株式が譲渡される場合は、会社(取締役会)でチェックする必要がありますが、既に株式を保有している者に対して譲渡がされる場合は、そこまでの必要がないのが通常だからです。
 このように、株主間の譲渡に関しては、株式の自由な譲渡を認めるという定款の定めをする場合は、定款ひな形8条2項として以下のような規定を追加することになります。

(株式の譲渡制限)
第8条 ② 株主間において株式の譲渡がなされる場合には、前項の承認があったものとみなす。

2-3 定款作成時のポイント⑦ 相続人等に対する売渡請求権

 7つ目のポイントは、2-2で述べたのと同じく、株式の譲渡に関するものです。

 株主が死亡した場合、相続が発生し、相続人が株式を取得することになります。
 しかし、定款の株式譲渡制限の定めでは、この相続による株式の取得は防ぐことができません。相続の場合は、株式の譲渡(売買)とは異なり、会社の承認がなくても、相続人が有効に株式を取得(相続)してしまうのです。
 
 そうすると、株主が亡くなられた後、経営者であるあなたがよく知らない相続人が、株主であると主張し、会社に混乱をきたすことが想定されますが、これを防ぐ必要があります。
 会社法174条は、非公開会社の株主に相続が発生した場合に、会社が相続人に対して相続した株式を売却することを請求することができると、定款で定めることができると規定しています。
 定款にこのような定めをしておけば、株主に相続が発生した場合であっても、相続人から会社が強制的に株式を買い取ることで、相続人により会社が荒らされることを防止することができます。このような相続人に対する売渡請求に関する定款の規定例は、次のとおりです。

(相続人等に対する株式の売渡請求)
第〇条 当会社は、相続その他の一般承継により、当会社の株式を取得した者に対し、当該株式を当会社に売り渡すことを請求することができる。

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