事業者間で業務の提携や委託をする場面において、会社の重要な情報が取引先を通じて第三者に漏れてしまうことがあります。
情報漏洩により、あなたの会社の業務に支障が生じる可能性もありますし、これまで築いてきた会社の信用が毀損されることもあります。
このような場合、重要な情報を第三者に漏らしてしまった取引先に対して差止めや損害賠償請求をして欲しいと相談されることがよくありますが、秘密保持契約を締結していなかったため、請求を諦めることが何度もありました。
取引先と秘密保持契約を結んでいない場合であっても、重要な情報を第三者に漏らしてしまった取引先に対して、不正競争防止防止法に基づき、差止めや損害賠償請求をすることができますが、営業秘密の要件が厳格なため、請求できる場合が限られてしまいます。
これに対し、秘密保持契約を適切に締結していれば、契約違反を根拠に請求をすることできるため、請求をできるハードルが低くなります。
秘密保持契約自体は、取引先と取引を開始する際に、取引基本契約の中に秘密保持条項を加えるだけでも十分な効果が期待できます。
本記事では、あなたの会社の重要な情報が取引先から漏洩してしまい、損害を被ることを事前に予防するため、どのような点に注意して秘密保持契約(条項)を作成すべきかを記載いたしました。
秘密保持契約ひな形も添付したので、ぜひ参考にしてください。
Contents
1 秘密保持契約(条項)を結んでいないとどうなるか
1-1不正競争防止法による損害賠償請求や差止請求
取引先と秘密保持契約(条項)を結んでいない場合であっても、重要な情報を漏洩してしまった取引先に対して、不正競争防止法に基づき損害賠償を求めたり(不正競争防止法4条)、重要な情報の利用をやめるよう差止請求したり(不正競争防止法3条)することは可能です。しかし、ここでいう重要な情報とは「営業秘密」(不正競争防止法2条6項)に該当する必要があります。
不正競争防止法2条6項 この法律において「営業秘密」とは、秘密として管理されている生産方法、販売方法その他の事業活動に有用な技術上又は営業上の情報であって、公然と知られていないものをいう。
1-2「営業秘密」の要件
不正競争防止法2条6項は、営業秘密を定義しています。すなわち、不正競争防止法上の営業秘密に該当するためには次の3つの要件を求めています。
- 秘密管理性
- 有用性
- 非公知性
①秘密管理性
「秘密として管理されている」といった秘密管理性が求められる趣旨は、取引先等の予見可能性を確保することになります。すなわち、どの情報が漏洩してはいけない情報なのか、あなたの会社が一方的に認識しているだけではなく、取引先もわかるようにしなければならいということです。
したがって、あなたの会社が、特定の情報に対して、秘密として管理しようとしている意思が、秘密管理措置を講じることで取引先に対して明確に示されていることが必要です。
秘密管理措置の具体例としては、重要な情報とそれ以外の情報について、保存するファイルを区別する、重要な情報にはマル秘等の表示を付する、管理する従業員を制限する(アクセス制限)といったことが必要となります。
不正競争防止法違反が争われた場合、問題となるのがこの秘密管理性となります。
②有用性
当該情報が、費用の節約や経営効率の改善に役立つ等、客観的にあなたの会社の事業活動に有用であることが必要となります。
③非公知性
当該情報が、一般的に知られておらず、または容易に知ることができないことが必要になります。
2 秘密保持契約(条項)を結んでいるとどうなるか
2-1 秘密保持契約(条項)を作成することの効果
取引先と秘密保持契約(条項)を結ぶことによる効果は主に、次の二点になります。
①契約違反による損害賠償が可能になる
取引先が重要な情報を漏洩してしまった場合、秘密保持契約(条項)を結んでいると、不正競争防止法に基づき請求できない場合でも、秘密保持契約自体の違反を理由に損害賠償請求が可能となります(債務不履行に基づく損害賠償請求:民法415条)。
【不正競争防止法による損害賠償請求と契約違反に基づく損害賠償請求の比較】
|
不正競争防止法 |
契約違反 |
保護される情報 |
「営業秘密」に限る |
当事者間の合意 |
営業秘密の侵害類型 |
行為類型が定まっている |
当事者間の合意に基づく |
請求の相手方 |
第三者に対しても差止請求可能 |
契約当事者のみ |
損害額の算定 |
推定規定等が整備 |
自ら立証する必要がある |
契約は当事者間の合意によるものですから、契約自由の原則が妥当し、公序良俗(民法90条)や強行法規に反しない限り自由に定めることができます。そのため、保護される情報や、その侵害類型は不正競争防止法に比してかなり広いものとなります。
一方、不正競争防止法は、要件が厳しい分、第三者に対する差止請求、損害額の算定に資する諸規定が整備されています。
②「営業秘密」の要件である秘密管理性の立証に用いることができる
営業秘密が認められるためには秘密管理措置が必要であること、そして、秘密管理措置を講じていることが取引先に対して明確に示されることが必要となることはすでに説明しました。
したがって、取引先との契約を締結する際、秘密保持契約(条項)によって秘密管理措置の内容を明記すればこの要件についての立証の負担は大きく軽減されます。
2-2 秘密保持契約(条項)のポイント
秘密保持契約(条項)を作成する際の気をつけなければならないポイントは主に次の2点です。
①秘密情報の範囲
秘密保持契約(条項)においては、対象となる情報に何が含まれるかを特定しなければなりません。これは、情報を受領する者において、すべての情報を管理しなければならいとなると大変な負担となるからです。
しかし、契約時にすべての情報を特定することは事実上不可能といえるでしょう。そのため、包括的な規定も許されています。
【条項例】
本契約の実行により知り得た相手方の営業上又は取引上その他業務上の一切の情報
②秘密保持義務の内容
一般的には第三者への開示の禁止及び目的外使用の禁止を規定します。
対象となる情報に触れることにできる従業員などを開示禁止の対象から除外する形で規定することもあります。
2-3 秘密保持契約のひな形
上記のポイントを踏まえた秘密保持契約を準備しました。秘密保持契約を締結するときなどは是非こちらを参考にしてください。
3 まとめ
秘密保持契約(条項)を用いることで、会社のリスク管理として営業秘密を保護することができます。また、漏洩した情報等の個別事情に合わせて、不正競争防止法に基づく請求を行うのか、秘密保持契約違反に基づく請求を行うのかの選択が可能となります。
以上より、重要な情報が漏洩してしまった場合、秘密保持契約(条項)を結んでいたときのメリットは以下のとおりです。
- 不正競争防止法において保護の対象となる「営業秘密」の立証の負担が軽減する。
- 事案に合わせて、不正競争防止法に基づく請求と秘密保持契約違反に基づく請求の選択が可能になる。
以上を念頭に、今後取引を行う際に秘密保護契約(条項)の見直し及び追加を考えていただければと思います。