最近、無料求人広告を掲載したら、突然、業者から多額の掲載料金を請求されたというトラブルが増えています。
我々のもとにも多くの相談があり、これまで500件以上の相談を受けてきました(2024年8月現在)。
これまで、ご依頼を受けて、業者に通知書を送付して以降、業者から請求されたことはなく、依頼者は業者に1円も支払わずに終了していることがほとんどです。
請求を受けるまでの経過は概ね以下のとおりです。
ハローワークの求人広告を見て、勧誘の電話がかかってくることがほとんどのようです。
- 業者から「求人サイトに無料掲載しませんか」という営業電話がかかってくる
- 無料掲載するためには、申込書を記載してもらうが必要があると迫られ、申込書を提出する
- 申込書には、無料期間終了前に解約の申入れをしなければ自動更新となり、掲載料金を請求できるという記載がある
- 突然、契約の自動更新を理由に、多額の掲載料金が記載された請求書が送付されてくる
勧誘業者からの説明としては、以下の3つのパターンに分かれているようです。
1 無料であるということを強調して、申込書を記載させるパターン
2 業者から自動更新になる前に連絡をするので、そのときに解約の申し入れをすれば有料になることはないという説明を受けて申し込みをしたところ、業者からの解約申入れの連絡が更新日直前になされた、あるいは、連絡がないまま、解約申入れができず、有料となったパターン
3 業者から自動更新になる前にアンケート用紙を送付するので、そのときに解約の申し入れをすれば有料になることはないという説明を受けて申し込みをしたところ、業者からアンケートの用紙が送付されず、有料となったパターン
このパターンの場合、業者にアンケート用紙が送付されていないことを説明すると、特定記録郵便で、●月●日●時●分に書面は到達しているという証拠を示して反論をされることが多いようですが、アンケート用紙など送付されてきた記憶がないという人がほとんどのようです。なお、このパターンの場合、業者が特定記録郵便で送付をしたのは、キャンペーン広告のような書面であり、裏面の小さいところに、解約申入欄があるような体裁の書面になっているものが確認されています。
いずれのパターンにおいても、業者は、申込書を根拠に、高額の掲載料金の請求をしてきます。
中小企業の経営者の中には、
- 契約内容を確認せずに、申込書を記載してしまった自分が悪い
- 自動更新前に解約申入れをしなかった自分が悪い
- アンケート用紙の送付を見逃してしまった自分が悪い
などと考えて、支払いをしてしまう人もいるようです。
しかしながら、中小企業の経営者に対し、そのように思わせて支払いをさせることこそが、業者が考えている狙いです。
トラブルに巻き込まれないように、以下の対応をすることが重要です。
- 無料の求人広告の勧誘があった場合には、本当に無料であるかを疑ってみる
- 書面を提出する際には、書面の内容を確認する
- 書面の内容がよく分からない場合には、書面を提出しない、あるいは、弁護士等に相談をして内容の確認をする
- 掲載料金の請求を受け、その請求が不当だと感じる場合には、安易に業者へ支払わない
- 業者からの督促等がなされて困る場合には、最寄りの警察署や弁護士等に相談をする
以下では、業者の請求を法律的に拒否できる根拠について、解説をします。
2022/6/25 最終更新
Contents
1 錯誤無効
業者からは無料であることの説明を受けて、申込書を記載している方は、自動的に有料契約になることは認識していません。
また、自動更新で有料契約になることを知っていた場合でも、更新前に解約の連絡が来て解約申入れができるからこそ、契約の申し込みをしたのであって、契約が有料にはなるという認識はしていません。
すなわち、いずれの場合でも、無料であるからこそ、申し込みをしたのであって、有料になるのであれば、申し込みをしなかったことは明らかです。
したがって、無料であると誤信をして、契約の申し込みをしており、錯誤があるということになります。
また、契約が有料であるのか、無料であるのかというのは、契約において重要な要素です。
したがって、業者に対し、申し込みが錯誤に基づく取消しを理由に、支払いに応じられないことを主張することができます。
民法95条
意思表示は、次に掲げる錯誤に基づくものであって、その錯誤が法律行為の目的及び取引上の社会通念に照らして重要なものであるときは、取り消すことができる。
一 意思表示に対応する意思を欠く錯誤二 表意者が法律行為の基礎とした事情についてのその認識が真実に反する錯誤2 前項第二号の規定による意思表示の取消しは、その事情が法律行為の基礎とされていることが表示されていたときに限り、することができる。3 錯誤が表意者の重大な過失によるものであった場合には、次に掲げる場合を除き、第一項の規定による意思表示の取消しをすることができない。一 相手方が表意者に錯誤があることを知り、又は重大な過失によって知らなかったとき。二 相手方が表意者と同一の錯誤に陥っていたとき。4 第一項の規定による意思表示の取消しは、善意でかつ過失がない第三者に対抗することができない。
2 詐欺取消し
業者が、自動更新により有料になることを秘して、無料であると偽って、中小企業の経営者を誤信させたうえで、掲載料金を請求したのであれば、詐欺になることは明らかです。
では、業者が、自動更新により有料になることを説明している場合は、どうでしょうか。
業者が提供する求人サイトは、求職者が入力しそうなキーワードを検索しても一切表示されません。サイトに掲載しても求人を獲得することはおよそ不可能なものとなっています。
業者が提供するサイトは、求人サイトのような形をとっているだけであり、求人サイトとしての価値はゼロである可能性が高いです。
そうすると、業者の請求は、価値ないものを価値があるかのように偽り、掲載料金を請求するものであり、詐欺に該当する可能性が十分あります。
この場合、詐欺を理由に、契約を取り消しすることができます(民法96条)。
詐欺により契約の取消しをすると、契約は初めから無効となります(民法121条)。
したがって、業者との契約は無効となりますので、業者は、掲載料金を請求することができなくなります。
民法
96条 詐欺又は強迫による意思表示は、取り消すことができる。
121条 取り消された行為は、初めから無効であったものとみなす。
3 債務不履行に基づく解除
業者との契約は、求人を獲得するために求人サイトに掲載をしてもらい、その対価である掲載料金を支払う内容です。
しかしながら、業者が提供するサイトは、求人サイトのような形をとっているだけであり、およそ求人を獲得できるようなものにはなっていません。
業者は、求人を獲得するという目的のための役務提供をしておらず、契約の内容を履行していないことになりますので、業者の請求に応じる必要はないことになります。
また、業者には、求人獲得を目的とする求人サイトの提供をしておらず、債務不履行があるということになります。
したがって、業者の債務不履行を理由に、契約を解除して、業者の請求を拒否することが可能となります。
4 まとめ
以上のように、本記事で紹介するトラブルに巻き込まれた場合、安易に、業者の請求に応じないことが重要です。
ドラブルに巻き込まれたら、本記事を参考に、業者に対し、支払いに応じられないことを明確に伝えましょう。
業者に電話で伝えたとしても、聞いていないという反論をするることが予想されますので、書面、できれば内容証明郵便で通知をすることが重要です。
なお、業者を無視していたら、訴訟提起をされたという事案もあります。
訴訟提起をされて、放置して判決が確定すると、覆すことはできず、業者の請求に対し支払わざるを得なくなります。
そうなる前に、弁護士等の専門家に早めに相談することがよいでしょう。
なお、我々は、訴訟提起された事案も対応しておりますが、業者側が取下げをして、業者に対しては1円の支払いもせず終了しております。
業者の手口、対応方法については、こちらのサイトにも詳しく記載があるので、参考にしてください。