会社法務

スタートアップ企業が知っておくべき10の法的知識|企業法務の勘所

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 これから起業を考えている方や起業して間もない方に、私が弁護士としてぜひお伝えしておきたいことがあります。 それは、起業前にはなかなか予測できない法的な知識です。 これまで多くの会社を見てきましたが、特に売上が伸び始めたスタートアップ企業では、予想もできなかった「トラブルや事件」が必ずと言っていいほど起こりました。

 例えば、経理担当者の不正は10年以上会社を経営している方であれば、ほとんどの方が一度は経験があるのではないでしょうか?しかし、ほとんどの起業家は自分の会社ではそういうことは起こらないと思っているものです。

 会社を始めたばかりの頃は、事業を伸ばすこと、そして資金繰りのことでどうしても精一杯になってしまいます。そのため、トラブルが起こる可能性を事前に潰しておくことはあまり重要ではなくなってしまうのです。「これから起こる可能性のあること」が少しでも予測できるように、多くの起業家にとって大切な法的な知識を10個リストアップしました。ぜひ参考にしてください。

1、株は信用できない人には1株も持たせてはならない

 誰から出資を受けるのか(=誰が株主となるのか)は非常に重大な問題です。安易に考えれば、過半数の株式さえ創業者であるあなたが保有していれば会社の経営には支障はないようにも思えます。
 しかし、以下のように、わずか1株あるいは少数の株式しか有していなくても、株主であれば行使できる権利があります。例えば「訴えの提起」は、これに対応することが会社・経営者にとって大きな負担となりますし、例えば「株式の発行の差止」がなされれば、機動的な経営に支障が生じます。
 会社経営の安定を図るためには、1株であっても、会社の株式を信用できない人に持たせてはなりません。それは、トラブルの小さな火種になり得るからです。誰から出資を受けるのか(=誰が株主となるのか)はたった1株であっても慎重に判断するようにしてください。私の感覚では、1年、2年といった短い付き合いで判断するのはとても危険だと感じています。なぜなら、短い付き合いで株を取得させた役員が豹変するのを何度も見てきたからです。

 以下に「1株でも行使できる権利」と「3%の株式保有で行使できる権利」をリストアップしました。少しみていきましょう。

1株でも保有していれば行使できる権利の例

  • 会社が行った株式の発行(増資)や会社の合併・分割等を無効とする訴えの提起(会社法828条)
  • 株主総会決議の取消しの訴えの提起(会社法831条)
  • 株式等売渡請求や株式の併合(これらは、少数の株主を締め出し、株式を買い集める場合に用いられることがあります)、株式の発行(増資)、会社の合併や分割を差し止めること(会社法179条の7、182条の3、210条、784条の2、784条の2、796条の2、805条の2)
  • 取締役の責任を追及する株主代表訴訟の提起(会社法847条)

3%の議決権さえ保有していれば行使できる権利の例

  • 取締役等の役員の解任を求める訴訟の提起(会社法854条)
  • 株主総会の招集(会社法297条)

 このように1株でも株を保有していれば、訴えを提起することができてしまいます。このことをしっかり理解して、株式を保有させるかどうかを意思決定してください。

2、経理担当者の不正は他人事ではない

 経理担当者が会社のお金を横領したというニュースはよく見かけますよね。大企業でもそうした不正が起こるのです。そして、ニュースになっていないものも含めれば、その数はとても多いのです。特に小さな会社では、大企業と比べて不正防止の仕組みがないので不正が起こる可能性はより高くなることは想像出来るのではないでしょうか?

 起業家たちは、人を見抜く力が優れている気がします。しかし、そんな起業家たちが信頼していた経理担当者にことごとく不正をされてしまっていることも事実です。その原因は「自分には起こらない」と思っていることではないでしょうか?以下の調査もそれを物語っている気がします。

参考:今後2年以内に自社内で不正が起こると思わない経営者が75%(日本人): Japanese Economic Crime Survey 2007 – PwC

https://www.pwc.com/jp/ja/advisory/research-insights-report/assets/pdf/grc_0710_02en.pdf

 まずは、不正が起こる可能性があることを認識し、起こらないための対策を講じましょう。不正で多いのは、小口現金やレジ現金の抜き取り、切手や印紙の購入として預金を着服する、仕入先に水増し請求させて利益を折半するなどの手口です。こうした比較的不正の多い箇所に注意を向け、小口現金や預金通帳は最低でも月に1回はしっかりとチェックをし、経理担当が不正をしにくい環境を必ず作ってください。外部の会計士や税理士に依頼して、第三者が不正をチェックする仕組みにするのも一つの手です。

 次に、最悪の事態として会社のお金を横領された場合にお金を回収する方法についても少し触れておきます。

【本人に対する請求】
 経理担当者は、民法709条の不法行為に基づく損害賠償責任を負いますので、会社は、横領した金額について損害賠償請求をすることができます。
 横領した金額と給料との相殺を考える方がいるかもしれませんが、本人の同意がない限り、相殺をすることはできません。逆に賃金不払いなりますので、注意が必要です。

【身元保証人に対する請求】
 身元保証人の保証書がある場合には、身元保証人に対する請求を検討します。保証書の記載が「本人の身元を保証する」といった抽象的なものであれば、身元保証人に対し請求をすることはできません。しかし、生じた損害を賠償する旨の記載があれば、身元保証人に対し請求をすることができます。

 ただし、「身元保証ニ関スル法律」というものがあり、身元保証人に責任追及できるのは、原則として契約成立後3年とされています。契約で期間を定めたとしても5年が上限となります。契約の更新をすることができますが、この場合も5年が上限となります。契約期間には注意が必要です。

 このように、身元保証人に対する請求については制限がありますが、身元保証人から保証書を提出してもらうことは、横領への抑止につながります。経理担当者を採用する際には、身元保証書を提出してもらうようにしましょう。

3、創業メンバーでの争いは意外と起こる

 創業メンバー間での争いは売上が伸び始めた頃に起こります。会社の運営や待遇について創業メンバー間で意見の対立が生じ、会社の業務が停滞してしまうほどの事態になることはよくあります。これも、多くの起業家が自分には起こらないと感じているのではないでしょうか。以下のページでは、よくある創業メンバーの争いについて具体的に書かれていますのでお時間があれば見てみてください。

参考:スタートアップのダークサイド:5つの共同創設者間の争い
(Dharmesh Shahさんが15年間の間で出会った創業メンバーの争いについて具体的に書かれています。)
http://onstartups.com/tabid/3339/bid/2148/The-Dark-Side-of-Startups-5-Corrosive-Co-Founder-Conflicts.aspx

 当然ですが、争いなど起こらないようにはっきりしたコミュニケーションをとることが重要です。しかし、十分にコミュニケーションを取っているつもりでも、こうしたことが起こる可能性があることは理解しておきましょう。最悪の事態を防ぐための一つの方法としては、「取締役でなくなった場合には株式を手放さなければならない」という仕組みを予め作っておいた上で、経営者であるあなたと対立する取締役を解任することで、取締役としても株主としても会社から退いてもらうというものが考えられます。

 「取締役でなくなった場合には株式を手放さなければならない」という仕組みとして、次の2通りが考えられます。

①株主間の契約による方法
②取得条項付種類株式という株式を利用する方法

 ひとつづつ見ていきましょう。

①株主間の契約による方法

 株式を引き受けた創業メンバー全員で「株主の地位にある者(*対立している創業メンバー:Aとします)が当会社の取締役でなくなった場合、他の株主は、Aに対してその有する株式を引受時の払込金額と同額で自己に譲渡することを請求することができる」と契約をしておくものです。取締役を解任した上で、これにより、他の創業メンバーが株式を強制的に譲り受けることができるようになります。
 

②取得条項付株式による方法

 創業メンバーが引受ける株式について、「株主が取締役でなくなった」という条件が発生すれば、会社があらかじめ定めた金額で、当然に株式の取得を請求できるという設計にしておくものです。この方法は、このような株式を発行することを定款において定める必要があります(会社法108条2項6号)。
 これらの仕組みを作ったうえで、対立する取締役を解任することになりますが、解任は、株式の50%以上を支配できている場合に株主総会の決議で行うか、対立する取締役に非違行為がある場合で解任の訴えを提起する方法によることになります。

詳細は以下のサイトを参考にしてください。

4、資金調達のバリエーションとして「種類株式」の知識を持っておく

 会社が軌道に乗り、業容を拡大するために外部から資金を調達しようという場合、大きく分けて借入をするか、株式を新たに発行(増資)するかの2つの選択肢があります。
 株式を新たに発行するという選択肢は、創業者の議決権割合が薄まることを危惧して、敬遠されがちです。しかし、定款を変更して複数の種類の株式を発行することで、そのような不安をなくすことも可能です。次に挙げる種類株式の特徴を理解した上で、借入ではなく株式の発行による資金調達も検討するとよいでしょう。
 ・優先株式(会社法108条1項1号・2号)
  会社の剰余金の配当等について、他の株式よりも優先する株式。例えば、「1株当たりの配当金額が普通株式よりも1万円多い」などの設計が可能。
 ・議決権制限株式(会社法108条1項3号)
  株主総会の決議事項の全部又は特定した一部について、議決権が付与されない株式。
 ・取得請求権付株式(会社法108条1項5号)
  一定の期間、株主が会社に対して株式の買取を請求することができる株式。例えば、株式発行後、5年目以降などの定めをすれば、株主は5年目以降投資の回収が可能となる。
 ・取得条項付株式(会社法108条1項6号)
  一定の事由が発生した場合、会社が株主から株式を取得することができる株式。例えば、株主が取締役でなくなったときなどの定めをすることが可能。

 例えば、創業者であるあなたが保有している株式は、議決権のある普通株式とし、新たな出資者に引き受けてもらう株式を、①議決権制限株式、かつ、②優先株式の2つの種類の性質を持った株式とします。すると、新たな出資者は会社の経営に口を出さずに、毎年安定的な配当を受けることができることになり、創業者のあなたにとっては、自身の議決権割合を薄めることなく資金調達をすることができることになります。
 これはごく単純な例ですが、種類株式の設計と「3」でも述べた株主間の契約とを組み合わせることにより、株式の発行による資金調達の可能性は広がります。

5、退任した取締役が競業するビジネスを始めることを防止する

 取締役であった創業メンバーがや社員が退職した場合、在職時に培った顧客人脈やノウハウを利用して、あなたの会社と競業するビジネスを始めるということはよくあります。
 これを放置しておくと、あなたの会社にとって大きな損失となる可能性がありますが、退職時に何らの手当もしていなかった場合、そのような競業行為を止めさせることは容易ではありません。
 このような競業ビジネスがなされることを予防するためには、退職時もしくは入社時に、予め競業行為を禁止する合意書を作成することが出発点となってきます。合意書の内容は、会社にとって重要な守るべき利益を明確にし、かつ退職する者にとって過度な不利益を課さないと言えるかどうかがポイントです。詳細は、以下のサイトをご参照ください。(合意書のひな形も用意しました。)
 このような合意書があって初めて、競業行為がなされた場合に、これを止めさせる交渉や裁判手続を効果的に進めることが可能となります。

6、取締役の会社に対する責任を理解する

 取締役は、会社法等の法令に違反して会社に損害を与えた場合や、著しく不合理な経営判断をしたことにより会社に損害を与えた場合には、個人として会社に対する損害賠償責任を負うことになります(会社法423条1項)。
 あなたが代表取締役であると同時に、すべての株保有している場合には、このような責任を追及される可能性は事実上ありません。
 しかし、1株しか有さない者であっても、あなた以外に株主がいる場合には異なります。株主であれば、1株しか株式を有していなかったとしても、一定の手続を踏むことで、株主代表訴訟という訴えを提起し、取締役に対する損害賠償請求訴訟を提起することが可能となるためです(会社法847条)。
 あなたが、会社の株式の3分の2以上をコントロールできる場合であれば、一定の要件の下で、株主総会決議を経ることで責任を一部免除することも可能ですが(会社法425条)、やはり、個人として責任を負うという点は非常に重く、会社役員賠償責任保険等の加入によって予めリスクをヘッジしておくことを検討する必要もあります。

7、取締役会を設置した方が意思決定が迅速に行える場合もある

 株式会社の機関設計をどのようにするかを検討するに当たっては、取締役全員で構成され、重要な業務執行の意思決定を行う「取締役会」を設置するかどうかという点がポイントになります。
 取締役会を設置する場合(取締役会設置会社)には、取締役が3名以上必要になります。加えて、取締役会設置場合は、原則として、1名以上の監査役も置かなければなりません(会社法327条2項)。そのため、取締役・監査役の候補者として相応しい者が、創業者であるあなた以外に3名以上いない場合には、必然的に、取締役会を設置せず、取締役1名のみ(当然に代表取締役となります。会社法349条1項)という最もシンプルな形態を選択することになります。
 他方、創業者であるあなた以外に役員として相応しい者が3名以上いる場合には、①取締役会設置会社とするか、②取締役会を設置せず、創業者であるあなた1名のみが取締役となるかを選択する必要があります。これ以外に、創業メンバー全員が取締役となるが、取締役会は設置しないという形態もあり得ますが、その場合には、業務執行の意思決定過程・統制が不明確となるので、一般には選択されることは少ないと言えます。
①②のいずれを選択するかを考慮する際、意識しておくべき主なポイントは次の2点です。

・取引先等からの社会的な信用:①の方が高いといえます。
・会社の意思決定の迅速さ:②の方が迅速なようにみえますが、それは、取締役が株式の100%を支配できるような場合に限られます。その理由は、取締役会がない場合、本来取締役会で決定すべき多くの事項を、株主総会で都度決定しなければなりませんが、あなたが株式の100%を支配していなければ、株主総会の開催・決議が手続的にも面倒となり、かえって意思決定に手間を要するためです。

これをまとめると、会社の意思決定の迅速さを重視し、かつ、創業者であるあなたが株式の100%を支配できる場合であれば、②(取締役会を設置せず、創業者であるあなた1名のみが取締役となる)を選択することも合理的な理由があることになります。

詳しくはこちらの記事で解説をしています。

 

8、社員の雇用に関して知っておくべき4つのポイント

8-1 外国人の雇用時に注意すべきこと

 外国人を雇用する際には、在留カードにより、以下の事項を確認します。
・在留資格や在留期間
・就労制限

 在留資格や在留期間に問題がなくても、在留資格に基づき就労が制限にされており、業務に就労させることができない場合があります。例えば、在留資格が「留学」の場合には、資格外活動の許可がない限り、就労は不可能となります。そのため、資格外活動の許可を取得しているかどうか確認する必要があります。
これらの確認を怠って、外国人を不法に就労させた場合、不法就労助長罪(出入国管理及び難民認定法73条の2)として、3年以下の懲役若しくは300万円以下の罰金となる可能性があります。

 日本で就労する外国人については、日本人の労働者と同様、労働基準法、最低賃金法などの労働関係の法律の適用があります。労働基準法3条には、使用者は、労働者の国籍…を理由として、賃金、労働時間その他の労働条件について、差別的取扱をしてはならない」と定められていますので、当然ですが、外国人であることを理由に日本人と異なる労働条件を適用することは認められていません。
 また、雇用の際には、後日のトラブルを防止するために、労働条件を書面又は電子メールで明示をしましょう(労働基準法15条)。労働条件を明示する際には、できれば、日本語だけでなく、外国人の母国語によるものも準備をします。
 厚生労働省のウェブサイトには、外国人労働者向けのモデル労働条件通知書が掲載されていますので参考にしてください。
http://www.mhlw.go.jp/new-info/kobetu/roudou/gyousei/kantoku/040325-4.html

8-2 セクハラ・パワハラの問題を軽視しない

 セクハラ・パワハラ等の労務問題はどこの会社でも起こりえることです。会社としては、セクハラ・パワハラ等が行われないような措置を講じるとともに、被害申告があった場合には、迅速かつ適切に対応することが求められます。

①セクハラ・パワハラを未然に防止する環境整備
 会社には、雇用管理上の対応として、ハラスメントが生じないような職場環境を整備することが求められています。
 具体的には、社員に対する研修やガイドラインの作成、相談窓口等の体制の整備などをする必要があります。これらの措置を講じずに、社員がセクハラやパワハラを行った場合、被害者から、加害者の使用者責任として、損害賠償責任を負う可能性があります。セクハラ・パワハラは、社員の個人間の問題でなく、会社の問題として捉えることが重要です。

②被害深刻等でハラスメントが発覚した場合の対応
 セクハラ・パワハラ等の被害申告があった場合、会社は事実調査をして、事実の有無を確認します。被害者が一方的に悪いなどと決めつけて、事実調査をしなかったりすると、被害感情が増大し、訴訟に発展する可能性があります。訴訟になり、セクハラ・パワハラ等を認定された場合、被害申告があったにもかかわらず、会社が何も対応しなかったとして、損害賠償金が膨らむ可能性があります。将来の法的リスクを回避するためにも、セクハラ・パワハラ等の申告があった場合には、適切かつ迅速に事実調査を行うことが必要です。
 事実調査の結果、セクハラ・パワハラ等の行為が認められた場合には、行為者に対する懲戒処分を検討し、被害者に対しては示談交渉をして早期解決を目指します。
 社内に事実調査を適切にできる人材がいない場合には、顧問弁護士などに依頼をするを検討します。

8-3 当たり前かもしれないが、解雇はそう簡単に認められない

 会社が社員に対してする行為の中で、最も重いものの一つに「解雇」があります。会社をクビになるということであり、その社員は、生活の糧を得る手段を失うことになります。解雇は、無条件に有効とされるものではなく、許される限界を超えた解雇は、裁判で争われた場合に無効となったり、会社が損害賠償の責任を負ったりすることになります。
 解雇が有効なものと認められるためには、まず、就業規則で社員がどういうことをした場合に、どういう手続を経て、解雇をするのかが定められていることが必要です。
 しかも、ただ定められていればよいというものではなく、その理由が、会社の秩序を乱すと認められるものでなければなりません。社員がした行為が、就業規則で定めた場合にあてはまるときでも、その行為の内容や結果からみて、会社の秩序を乱しており、解雇もやむを得ないという場合でなければ解雇をすることができません。
 社員を解雇する場合には、就業規則に定めがあるかどうか、その定める場合に該当するかどうか、該当するとしてそれが会社の秩序を乱すものと認められるほどに重大なものかどうかをきちんと検討することが大切です。

8-4 解雇ではなく退職勧奨をする場合であっても、やり過ぎてはならない

 このように、解雇という手段は、それが有効か否か厳しく判断され、また、社員にとって職を失うという重大な影響が生じるために、会社と社員との間で争いになることも少なくありません。
 解雇という方法によらずとも、会社と社員とが話し合い、社員が会社を辞めることに納得して退職届を提出することができれば、会社にとっても辞める社員にとっても望ましいことです。
 会社から社員に退職を促すことを、「退職勧奨」 といいます。しかし、これが会社が社員に退職を強要する形になると、実質的には解雇をしたに等しく、無効となったり、会社が損害賠償の責任を負ったりすることになります。
 適法な退職勧奨といえるためには、社会通念上相当と認められる方法で退職を勧める必要があり、社員に不当な心理的圧力を加えたり、社員の名誉感情を不当に害したりすることは行ってはいけません。あくまで、社員が自由な意思で自発的に退職に応じるように説得を行うことが必要となります。
 そのためには、退職を勧める際の言動、場所、時間、回数に注意をする必要があります。また、退職金や再就職の支援などについて、良い条件を提示することも重要です。
 退職に応じない社員に、異動などの不利益な措置を講じて退職に追い込もうとするようなことは絶対にしてはいけません。

 詳しくは以下のの記事を参考にして下さい。

 

9、どの業種でも関連する押さえておくべき4つの法律

 ネットビジネスを行う際はもちろん、自社ホームページを作成する場合にも、まず、抑えておくべき法律は、景品表示法(不当景品類及び不当表示防止法)、不正競争防止法及び特定商取引法(特定商取引に関する法律)です。法律に違反をした場合、損害賠償請求や刑事上の責任を問われる可能性があるので、注意が必要です。
 また、ネットビジネスとは直接関係ありませんが、外部業者にプログラムの作成などを委託する場合に重要な下請法(下請代金支払遅延等防止法)についても基本を抑えておきましょう。

9-1 景品表示法

 食品の表示については食品表示法という法律があり、その表示方法について規制がされていますが、このような特定の分野にのみ適用されるのではなく、表示に関する一般的なルールを定める法律として、景品表示法があります。
 景品表示法が定める表示に関するルールは、不当表示の禁止といい、具体的には、優良誤認と有利誤認があります。
 優良誤認というのは、自分の商品が実際のものより良いものであると表示することです(5条1項)。事実ではないのに、他の商品よりも良いものであると表示することも含まれます。果汁100%ではないのに、「果汁100%」を表示するのがその例です。
 有利誤認というのは、事実ではないのに、自分の商品を購入することが有利であると表示することです(5条2項)。事実ではないのに、他の商品を購入するより自分の商品を購入する方が有利であると表示することも含まれます。いつも半額で販売しているのに、「今だけ半額」と表示するのがその例です。
 優良誤認も有利誤認も、商品のみでなく、サービスを提供する場合にも適用されます。
 不当表示をした場合には、消費者庁から、不当表示の取り止めや課徴金という金銭の支払いを命じる処分を受ける可能性がありますので、そのようなことにならないよう注意が必要です。

9-2 不正競争防止法

①周知表示に対する混同惹起行為の禁止(2条1項)
 広く知られている他人の商品表示と同一または類似表示を使用して、他人の商品または営業と混同を生じさせる行為を禁止しています。たとえば、有名なゲームタイトルと類似するタイトルをつけて、有名なゲームタイトルの続編として広告を行うことなどがこれにあたります。

②著名表示の冒用行為
 他人の著名な商品等表示と同一または類似した表示を用いることも禁止しています。①と異なり、混同を生じさせる必要はありません。パロディ商品の広告などがこれにあたります。

9-3 特定商取引法

①広告の表示(11条)
 通信販売は、広告が消費者にとって唯一の情報となります。広告記載が不十分であったりすると、後日トラブルが生じます。そのため、業者に対して、商品やサービスの販売価格や対価、代金等の支払時期と方法など、13項目を表示することを義務づけています。
②誇大広告の禁止(12条)
 誇大広告などによるトラブルを防止するため、「著しく事実に相違する表示」や「実際のものより著しく優良であり、もしくは有利であると人を誤認させるような表示」を禁止しています。

9-4 下請法

 下請取引に関する規制を定める下請法という法律があります。これは、いわゆる下請工事だけに適用されるわけではないので、注意が必要です。
 下請法の対象となるか否かは、資本金の規模と取引の内容で決まります。
 取引の内容は、物品の製造の委託、修理の委託、情報成果物の委託、役務提供の委託が対象となり、対象となる取引の内容によって、資本金の規模が異なってきます。
 規制の内容は、委託する側の事業者に書面の交付義務や書面の作成・保存義務などの義務が課されることと、代金の支払遅延の禁止や代金の減額の禁止などの禁止事項があることです。
 違反した場合に、公正取引委員会から課徴金という金銭の支払いを命じる処分を受けることはありませんが、下請法違反を是正するよう勧告を受け、法律で定める高額な遅延損害金や、減額した代金を取引の相手方に支払うことが求められる可能性がありますので、そのようなことにならないよう注意が必要です。

詳細は以下のサイトを参考にしてください。

10、税務・経理に関して押さえておくべき2つのポイント

10-1 税務調査を受けたらどうなるか

税務調査への対応
 所得税、法人税、消費税等については、申告納税制度がとられており、納税者は、税務署に確定申告をし、申告額を納税します。毎年きちんと申告し、納税をしていれば、基本的には問題ありません。
 ところが、その申告内容が適切なものか否かについて、税務署が調査をしに来ることがあります。それが税務調査です。
 税務調査と聞くと、突然税務署の職員がやってきて、帳簿を調べられたり、質問を受けたりすることをイメージされるかもしれませんが、通常の税務調査は、予告なくやってきていきなり帳簿書類の確認等をされるということはありません。
 前もって税務署から連絡が来て、日程の調整が行われます。税務署から連絡が来たら、慌てることなく、必要な準備をして待ちましょう。顧問の税理士がいる場合には、連絡をして相談をされると良いです。税務署からの連絡を受けて、書類を廃棄したり、書き換えたりするようなことは、すべきではありません。

税務調査がなされた後の流れ
 税務調査の結果、税務署の方で、申告内容に誤りがあり、本来納めるべき税金を納めていないと判断した場合、一般的には、税務署が正しいと考える内容に申告を修正することを勧められます。これを修正申告といいますが、税務署の判断に納得をして修正申告をした場合には、申告内容が是正されたと扱われ、追加で納税することを余儀なくされますが、税務署から何か処分を受けることはありません。この場合、後になって、税務署の判断が誤っていたとして争うことはできません。
 税務署の判断に納得がいかず修正申告をしない場合には、税務署から更正処分という処分を受けることになります。更正処分に納得がいかない場合には、その取消しを求めて争うことができます。争う方法は複数ありますが、最終的には、裁判所に訴訟を提起することができます。争うには、費用も時間もかかりますので、争うかどうかは、更正処分の内容と争った場合に結論が覆る見通しなどを総合して決めることになります。
 以上とは別に、申告した内容に誤りがあり、本来納めるべき税金よりも多く納めていたという場合には、申告した内容を修正して、税額の減少を求めることができます。これを更正の請求といいます。税務署が更正の請求を認めない場合には、更正の請求に理由がないという通知が来ますが、その判断に納得がいかない場合には、その取消しを求めて争うことができます。

10-2 売掛金を確実に回収する

売掛金の時効
 売掛金が時効になってしまったら、回収自体ができなくなります。まずは売掛金の時効期間を押さえる必要があります。時効期間ですが、民法改正前の売掛金(令和2年3月31日以前に発生した売掛金)か民法改正後の売掛金(令和2年4月1日以降に発生した債権)によって、取り扱いが異なるので注意をしてください。

 民法改正前の場合、たとえば、コンサルティング料金は5年(商法522条)、建築をした請負代金は3年(民法170条)、商品の売買代金は2年(民法173条)です。商品の売買代金の場合、売掛金の時効は2年と大変短いので、注意が必要です。

 これに対し、改正後の民法では時効期間が統一されて、分かりやすくなっています。、時効期間は、原則として5年と覚えておけばよいでしょう。

 売掛金の時効に関しては、詳しくはこちらのページで解説しています。

 

回収方法
 売掛金の時効期間を押さえたら回収方法を検討します。
①交渉による回収
 相手方と交渉をすることが可能であれば、交渉による回収を目指します。
 交渉において、相手方が債務を認めている場合には、債務の承認(民法147条)にあたります。この場合、時効期間がリセットされます。2年の時効だった場合、2年を経過しても時効になりません。まずは、相手方に債務を認めてもらうようにします。
 相手方の要望により、支払日がかなり先となったり、分割払になる場合があります。この場合、相手方と合意書を作成することになりますが、約定通り支払ってくれる保証はありません。そこで、支払ってくれない場合に備えて、会社の資産に担保を設定してもらう、それがだめな場合には、公正証書を作成しましょう。
担保を設定していれば、支払いがなかった場合には、担保から強制的に回収することができますし、公正証書を作成しておけば、相手方の資産に、いきなり差押えをすることが可能となり、回収可能性が高まります。

 売掛金の交渉について、詳しくはこちらの記事をご覧ください。

②裁判による回収
 相手方と交渉することができない、担保を取得していない、公正証書を作成していない、などの場合には、裁判手続により売掛金を回収することになります。
ア 仮差押
  相手方の資産が分かる場合には、仮差押をします。相手方は、仮差押をされた場合、事業に大きな影響があり、売掛金をすぐに支払って解決しようとする場合があります。

  詳しくは以下の記事を参考にして下さい

イ 支払督促、裁判
 仮差押をできない場合には、裁判をするしかありません。
 通常の訴え提起をすると、判決を得るまで早くて半年掛かりますので、簡易な手続として、少額訴訟や支払督促という手段を検討します。支払督促に対し、相手方が異議を述べなかった場合には、早くて1か月以内に、判決と同様の効果を取得することが可能となります。ただし、支払督促に対し、異議が出された場合には、通常の訴訟となります。

 詳細については、以下の記事を参考にして下さい

ウ 差押えなどの強制執行による回収

 判決などの債務名義を取得すると、強制執行が可能となり、資産から強制的回収が可能となります。詳しくは以下の記事を参考にしてください

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